情報の検証力競う「ユースファクトチェック選手権」、日本で初開催 大学生ら5チームが世界大会へ

情報の検証力競う「ユースファクトチェック選手権」、日本で初開催 大学生ら5チームが世界大会へ

中高生から大学生を対象に、情報検証スキルを競うオンラインイベント「ユースファクトチェック選手権(英語名:Youth Verification Challenge)」が、日本で初開催されました。日本ファクトチェックセンター(JFC)と学生スタートアップClassroom Adventureが共催し、全国から60チーム約150人が参加しました。

ファクトチェックとリテラシーを実践的に学ぶ

選手権は日本、台湾、タイ、インドネシアのファクトチェック団体が共同で企画した国際的な取り組みで、参加者はネット上の情報を効率的かつ正確に検証する技術を学び、それを実践する課題に挑戦しました。

日本では、11月23日にプレイベントとして、ネット上の情報を効率的に探す「高度な検索」や、画像・動画の検証ツールの利用法や位置情報の特定技術(ジオロケーション)などについて学ぶセミナーを実施しました。

Googleレンズを使った動画検証の解説

また、Classroom Adventureが開発した謎解きゲーム「レイのブログ」で実際にこれらの検証手法を使ったゲームに取り組みました。

検索やジオロケーションなど情報検証力を競う

11月30日に本選を実施。参加者はプレイベントで学んだ技術を使って、ネット上の資料を探したり、架空の記事の間違いを見つけたり、ジオロケーションや生成AIによる画像加工の特定など、5つの問題に挑みました。

動画の撮影場所と時期を特定するジオロケーションの問題
画像の中で生成AIで加工された部位を特定する問題

優勝は慶応大チーム、中高生も健闘

上位に入って12月14日にオンラインで実施される世界大会への進出を決めたのは以下の5チーム(1チーム2~3人)。優勝は大学生でしたが、中学生、高校生が健闘しました。

1位:K2の新参者 (慶應義塾大)
2位:秋元 税所 那須 (日本大学高校)
3位:WESTMAK (洛星中学)
4位:先端限定 (上野学園高校)
5位:SAK (日本大学高校)

大会参加者たちとの記念写真

参加者「実戦形式で学べた」「知らなかった検索方法や裏技聞けた」

参加者へのアンケートでは「ファクトチェックのスキルを学ぶのに役立ちましたか」の質問に約5割が「非常に役立った」、約4割が「役立った」と答えるなど、非常に好評でした。

個別の感想では以下のような声が寄せられました。

「ただ知識として教えられるだけでは無く、実戦形式で学べるのがとても良かった」(大学生)
「今まで知らなかった検索方法や、ユースファクトチェック選手権に出ないと分からなかった裏技なども聞けてよかった」(中学生)
「学校で多くの情報を使う機会があるので、ネットリテラシーの力を身につけることができてよかった」(高校生)

大会経験してリテラシーの重要性に気づく

ユースファクトチェック選手権の前身は、Google News Initiativeが2021、2022年に開催した「ユース・ファクトチェックチャレンジ」です。筆者(古田)は当時、Googleで企画運営を担当しました。

Classroom Adventureを設立した慶応大の学生3人は2022年の日本大会優勝チームでした。大会を経験したことが、スタートアップ設立のきっかけの1つだったと話します。

偽・誤情報問題が注目されるようになり、対策として、メディア情報リテラシー教育やファクトチェックは日本でも少しづつ広がっていますが、参加者の声にもあるように、それを実践的に学べる機会はほとんどありません。

結果として、学生や生徒が興味を持てず、学習効果も低くなりがちです。楽しみながら主体的に学べるようにと、Classroom Adventureが謎解きゲームを開発した理由もそこにあります。

ファクトチェックチャレンジは大好評でしたが、2023年は開催されなかったことから、今回、台湾、タイ、インドネシアの各団体と協力して装い新たに再開することにしました。

12月の世界大会が終われば、来年に向けてさらに参加国を増やしてイベントを盛り上げていきたいと考えています。大会のさらなる充実のためにも、スポンサーも募っていく考えです。

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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兵庫・迎山県議 「私を批判すれば国民にツケが回る」と発言? コメントを歪曲【ファクトチェック】

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兵庫県の迎山志保県議が「私を批判すれば国民にツケが回る」などと発言したという情報が拡散しましたが、不正確です。公人に向けた批判に対する迎山県議のコメントを歪曲したものです。 検証対象 迎山県議が「私を批判すれば、やがては国民にツケがまわる」などと言ったかのような情報が繰り返し拡散している(例1、例2)。 2024年11月の投稿は「迎山しほ議員、斎藤知事を辞任させておいて 私を批判するな!批判を続ければ政治は劣化する!国民にツケが回るからな!この態度は流石にヤバくないか?」という内容で、斎藤知事を擁護し、迎山議員を批判する内容だ。 この投稿は2025年2月18日にも「迎山しほ議員『私を批判すれば、やがては国民にツケがまわる』国民にこんな事言う県議初めて見ました」という文言と共に再び拡散している。 これらの投稿には迎山県議の「全てが公人ということでさらされるのが当たり前 批判されるのが当たり前」「政治の世界もどんどんと結果的には劣化をしていく」「国民にツケが回っていく」などのコメントが抜き出された画像が添付されている。 検証過程 画像にある「報道特集」

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「USAIDが日本メディアを操作」 デマ拡散の背景にある報道不信

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By 古田大輔(Daisuke Furuta)
兵庫・百条委員会が議事録をすべて破棄? 県議会サイトで公開【ファクトチェック】(追記あり)

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兵庫県の斎藤元彦知事がパワハラの疑いなどで告発された問題で、調査をしている県議会百条委員会が、議事録を公開せずにすべて破棄したという情報が拡散しましたが、誤りです。議事録は県議会のウェブサイトで公開されています。 検証対象 2025年2月18日、兵庫県議会の百条委に関して、「百条委員会の議事録は全部破棄ってホントですか? 全部公開されずに破棄? 兵庫県議員アタマオカシイやろ」という情報が拡散した。 この情報に対して「百条委員会に使った金は委員に全部払ってもらうしかないな」「そもそも百条委員会がデマだったということか」などのコメントがついているほか「兵庫県文書問題会議録で全部見ることできるけど」と疑問を投げかけるものがある。 検証過程 兵庫県議会は2024年6月13日、地方自治法百条に基づいて斎藤知事のパワハラ疑惑などを調べる「文書問題調査特別委員会(通称:百条委員会)」を設置した。 6月14日から始まった委員会は、2025年1月27日まで計15回開かれている。県議会は、12月25日の分を除く、計14回分を 議会検索システムで公開している。「会議録の閲

By 宮本聖二
放射線育種米に注意? あきたこまちRへの誤解【ファクトチェック】

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新品種のコメ「あきたこまちR」が「放射線育種米なので注意」という主張が拡散していますが、誤りです。コシヒカリの種子に放射線を照射した品種を使うもので、生育中の水稲や収穫後のコメに直接放射線を照射するものではありません。 検証対象 2025年2月19日、「放射線米 ご注意してね!!」というキャプションと共に「2025年から兵庫県と秋田県では『あきたこまち』と『コシヒカリ』が『放射線育種米』に切り替えられることが確定しました。この放射線米が本気で異常」という画像がついた投稿が拡散した。 この投稿には2300を超すリポストと45万以上の閲覧があり、「とうとう来たか…これ一昨年から言われてたよね 酷すぎる」「秋田知事が強引に進めてる それこそが危険なのだ」というコメントのほか「放射線育種なんて昔からある技術だし、おそらく大多数の日本人は食べたことがあると思う」と指摘する人もいる。 「あきたこまちR」が危険だという情報は、これまでに多数拡散している(例1、例2)。 検証過程 あきたこまちRとは 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、秋田県水田総合利用課

By 宮本聖二