大阪府知事選の当確が早すぎる、不正選挙?ゼロ票打ちによるもの【ファクトチェック】

大阪府知事選の当確が早すぎる、不正選挙?ゼロ票打ちによるもの【ファクトチェック】

4月9日投開票の大阪府知事選挙で「当確が早すぎる」「不正選挙の疑い」などの言説が拡散していますが、誤りです。「開票率・得票率0%の段階で『当選』と発表」という主張がなされていますが、これはメディアが事前の出口調査などで投票締め切りと同時に当選確実を報道する「ゼロ票当打ち」によるものです。

検証対象

2023年4月9日に投開票された大阪府知事選をめぐって、不正選挙だというツイートが拡散した(例1例2)。

画像

表示回数は「例1」が85万回・リツイートは2700件を超えている(4月10日現在)。

開票率0%の段階での当選確実の報道をめぐっては、これまでにも「不正選挙」「出来レース」などの情報が選挙のたびに出てくる。日本ファクトチェックセンター(JFC)では、2月の愛知県知事選挙でも同様の検証を実施した。
今回は、当選報道の仕組みについて、より詳しく解説する。

検証過程

大阪府知事選は2023年4月9日午後8時、投票締切と同時刻にNHKや毎日放送などが一斉に大阪維新の会の吉村洋文候補の当選を報じた。この段階では、開票作業は進んでいないが、これは不正選挙の根拠とはならない。

マスメディアでは、開票率・得票率が0%の段階で「当選確実」と報じることを「ゼロ票当打ち」などと呼び、選挙結果の報道ではごく一般的な手法だ。

担当記者らが選挙前から、選挙区の情勢を細かく取材。さらに世論調査や期日前と当日の出口調査(投票所から出てきた人に聞き出す取材)などで、誰がどれだけリードしているかを予想し、逆転不可能なほどに差が開いている場合に、ゼロ票当打ちがなされる。衆院選や参院選などの国政選挙で、投票締切と同時に選挙結果の大勢が報じられるのはそのためだ。

ゼロ票当打ちの根拠となる「出口調査」は、報道機関の調査員が、投票を終えた人にどの候補に投票したのか、どんな政策を重視するのか、支持政党はどこか、などを聞くもので投票所の外(出口)で行われる。

「投票所に調査員がいなかった」「調査員がいたが自分は聞かれなかった」などの投稿も見られるが、どの投票所で調査するかは統計的な手法に基づく。データの偏りをなくすため、投票所から出てくる人全てに聞くわけではなく、一定間隔を空けるなどの手法をとっている。

かつての出口調査では紙でデータを集めていたが、今はタブレットなどのデバイスで収集し、大量のデータを瞬時に集められる。事前の情勢取材と出口調査のデータを組み合わせて分析することで、投票締め切りと同時に当選が確実だと報じることができる。

こういった出口調査やゼロ票当打ちの舞台裏については、各メディアの選挙担当者や有識者らが語った舞台裏の記事なども多数出ている(NHK)(BuzzFeed Japan)(東洋経済オンライン)(読売新聞)。

また、大阪府知事選の開票率100%での結果は、吉村候補が得票数243万9444票で2位の谷口真由美候補の43万7972票を大きく引き離している。注目の選挙区で大差がつく場合、ゼロ票当打ちがなされることが多い。

判定

以上のことから、開票率・得票率0%で当選が報じられたことを根拠に大阪府知事選は不正選挙とする主張は誤り。

あとがき

不正選挙に関する言説の多くは、荒唐無稽であるかのように思われます。しかし、2020年秋のアメリカ大統領選挙の後には数多くの誤情報/偽情報が発信され、日本でも拡散しました。トランプ前大統領が当選したと主張するデモは、東京や大阪など日本各地でも実施されました。日本国内の選挙でも「選挙機材メーカー・ムサシが不正選挙に加担している」という言説が選挙のたびに拡散されています。

選挙にまつわる誤情報は私たちとは無縁ではありません。2021年1月のアメリカ連邦議事堂襲撃事件や2022年12月のブラジルでの暴動は不正選挙という主張を信じた人々によって起きた事件でした。民主主義を揺るがす事態が発生するのを防ぐためにも、選挙についての情報を発信したり、拡散したりする際には、慎重に事実を見極めることが求められます。

検証:宮本聖二
編集:古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

秋田県知事「熊に小型の爆発物を食べさせて爆破すればハンターは必要ない」と発言? 後半部分が捏造【ファクトチェック】

秋田県知事「熊に小型の爆発物を食べさせて爆破すればハンターは必要ない」と発言? 後半部分が捏造【ファクトチェック】

秋田県の佐竹敬久知事が「熊に小型の爆発物を食べさせて爆破すればハンターは必要ない」と発言したとする情報が拡散しましたが、不正確です。拡散した投稿はまとめサイトのXアカウントからで、見出しは掲示板サイトのスレッドタイトルを引用しているだけです。後半部分が捏造です。 検証対象 2024年12月18日、「秋田県知事『熊に小型の爆発物食べさせて爆破すればハンター必要ない』」という情報が拡散した。 2024年12月20日現在、この投稿は340件以上リポストされ、表示回数は8万回を超える。投稿について「狂ってる」「それはちょっと」というコメントの一方で「マジでいった?」という指摘もある。 検証過程 まとめサイトは掲示板サイトのタイトルを引用 検証対象のリンクは、まとめサイト「TweeterBreakingNews-ツイッ速!」の記事だ。 タイトルは掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「【悲報】秋田県知事「熊に小型の爆発物食べさせて爆破すれはハンター必要ない」←🧸」で、読売新聞オンラインが2024年12月17日にライブドアニュースで配信した記事「秋田県知事、ク

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
年金支給開始年齢は80歳からにすべきと小泉進次郎氏が発言? AIが誤情報を再生産【ファクトチェック】

年金支給開始年齢は80歳からにすべきと小泉進次郎氏が発言? AIが誤情報を再生産【ファクトチェック】

「小泉進次郎氏が2024年9月に年金支給開始年齢は80歳からにすべきと発言した」という情報が拡散しましたが、誤りです。拡散した情報はAIが生成したもので、小泉氏の発言は年金受給開始の選択の幅を広げる内容のものでした。 検証対象 2024年12月19日、「忘れっぽい日本国民の皆様のために貼っておきます」という文言と共に、「年金支給開始年齢は80歳からにするべきだと発言していた政治家は誰ですか?」という質問に生成AIが「小泉進次郎です」と回答したという情報が拡散した。 2024年12月20日現在、この投稿は8300件以上リポストされ、表示回数は224万回を超える。投稿について「元取れるの100歳超え」「AIが社会問題解決する」というコメントの一方で「少し調べればデマ」という指摘もある。 検証過程 以前にも拡散した誤情報をAIが再生産 自民党の小泉進次郎氏が「年金支給開始年齢は80歳からにすべき」と発言したという情報は以前にも拡散している。 自民党総裁選に絡んで2024年9月、日刊ゲンダイの記事をもとにしたまとめ記事などによる情報が拡散したもので、日本

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
WHO事務局長が「コロナ感染に効くワクチンは無い」と発言? ワクチン開発前のニュースの切り取り【ファクトチェック】

WHO事務局長が「コロナ感染に効くワクチンは無い」と発言? ワクチン開発前のニュースの切り取り【ファクトチェック】

世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長が「コロナ感染に効くワクチンは無い」と発言したとの主張が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。2020年8月3日の会見で「(新型コロナウイルスの)感染から守ってくれるワクチンをみんなが期待している。しかし現時点で特効薬はなく今後もないかもしれない」と発言していますが、当時は新型コロナウイルスのワクチンを開発中でした。 検証対象 2024年12月18日、「WHO テドロス事務総長 コロナ感染に効くワクチンは無い と言う」などと主張する投稿が拡散した。 投稿にはニュース番組と思われる22秒の動画が添付されている。「WHO ワクチンに期待高まるも「感染から守る特効薬ない」などの字幕が出た後、以下のようにニュースが読み上げられる。 アナウンサー:WHOは、新型コロナウイルスのワクチン開発が進んでいる一方、現時点では感染から守る特効薬はないとして過度な期待に警鐘を鳴らしました。 テドロス事務局長(字幕):感染から守ってくれるワクチンをみんなが期待している。 しかし、現時点で特効薬はなく、今後もないかもしれない。

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
田村元厚労相が国会で「年収200万円は低収入でない」と答弁?そのような直接的な発言はない【ファクトチェック】

田村元厚労相が国会で「年収200万円は低収入でない」と答弁?そのような直接的な発言はない【ファクトチェック】

自民党の田村憲久・元厚生労働大臣が「年収200万円は低収入でない」と国会答弁したとの主張が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。一定以上の所得がある後期高齢者の医療費窓口負担増をめぐり衆議院予算委員会審議で、共産党の宮本徹衆院議員の「年収200万円の75歳以上の方が低所得者なのか高所得者なのか」という質問に「75歳以上の後期高齢者の所得の中では単身で年収200万円は上位30%に該当する」と述べており「年収200万円が低収入ではない」と答弁したわけではありません。 検証対象 2024年12月14日、「田村元厚労相が国会答弁で年収200万は低収入でないと言ってた」などと主張する投稿がX(旧Twitter)で多数拡散した(例1、例2、例3)。 「200万じゃ生活できない」「そう言ってる国会議員の年収を200万にしたらいい!」などのコメントが寄せられる一方で、情報源を疑う声もある。 検証過程 田村元厚労相が200万円に言及した国会の答弁 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、国会会議録検索システムで、発言者を田村元厚労相に限定して「二百万」というキー

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)