大阪万博の児童生徒の無料招待事業に75%が参加希望?【ファクトチェック】
2025年に開かれる大阪・関西万博で大阪府内の児童生徒が無料招待される事業をめぐり、吉村洋文知事が中間報告として「75%の学校から参加希望」と発言。一方、府内の市長から「不参加の選択肢はなく、実質強制参加」の声が出ました。どちらが事実と言えるでしょうか?
検証対象
2024年5月27日、大阪府の吉村洋文知事が「児童生徒の万博招待事業ですが、現時点で1280校から回答あり、75%に相当する950校もの学校から参加希望がありました。残り25%も未定・検討中です」などとポストした。
吉村知事のポストに対して、大阪府交野市の山本圭市長が5月28日にXに投稿。「回答は『希望する』と『未定・検討中』の二択であり、不参加の選択肢はございません」「これでは、実質、強制参加です」などと引用リポストをした。
山本市長はWebサイトのスクリーンショットと思われる画像も添付している。このポストは2700回以上リポストされ、X上で20万回以上表示された。山本市長は、この件に関して多数投稿している。
検証過程
不参加の選択肢は存在しなかった
インターネット上に「2025大阪・関西万博への学校単位での招待事業」というサイトがある。日本ファクトチェックセンター(JFC)がアクセスすると下記の画面が出てきた。
学校情報の欄の一番上に「学校単位での訪問を希望するか(必須)」という質問があり、選択肢は「希望する」か「未定・検討中(意向調査時点で『未定・検討中』を選択されている場合、個別事務局よりご連絡いたします)」と書いてある。山本市長のポストと同じ画面で、「希望しない」という選択肢は無い。
JFCがアクセスしたページは山本市長の投稿と全く同じ内容だった
サイトの末尾には「2025大阪・関西万博への学校単位での招待事業事務局」「東武トップツアーズ株式会社 大阪法人事業部」と書かれている。
JFCは、意向調査が本物で、「不参加」の選択肢が無かったかどうかを、調査をした大阪府教育庁と、2025大阪・関西万博への学校単位での招待事業事務局、交野市へ取材した。
招致事業事務局は「事務局として回答できないので大阪府教育庁に取材してほしい」との回答だった。
大阪府教育庁教育総務企画課は、山本市長が投稿した意向調査の画像について「教育庁から事務局に委託して作成したものです」と述べ、本物であることを認めた。
また、「学校単位での訪問を希望するか(必須)」という欄の選択肢が「希望する」「未定・検討中」の2つしかなく、「希望しない」という選択肢が無かったことも認めた。
なぜ2択にしたかについては「回答は控えさせていただきます」とのことだった。
吉村知事「参加・不参加ではなく、深掘りのためのアンケート」
交野市情報マーケティング課は、山本市長が投稿した画像について「大阪府教育庁教育総務企画課長よりメールにて、指導課が受け取った」と回答。「大阪府の意向調査につきましては、現時点で市内小・中学校は『未定・検討中』と 入力しております。大阪府教育庁及び事務局からの連絡はございません」と述べた。
「大阪府教育庁などから参加を強制されたか」という質問に対しては「そのような事実はございません」と回答。ネット上で注目を集めていることについては「市民や府民をはじめ、多数の方が本事業に関心をお持ちであることが伺えます。なお、本市として万博そのものに反対しているものではありません」と答えた。
大阪維新の会は5月29日、Youtubeチャンネルで「Q.万博のアンケートで不参加を選べない?」という動画を公開した。画面下に「2024年5月29日吉村洋文代表定例会見」というテロップがある。この中で、朝日新聞記者が「学校側が不参加と思ってもその意思表示ができない仕様」ではないかと質問。吉村知事の回答は以下の通りだ。
「参加か、あるいはその不参加ですか、どっちかはっきりしてくださいという回答を求めるものではないと思います。この教育庁がアンケートした趣旨っていうのは、もし参加の意向があるかどうか、参加があるとすれば、どのぐらいの学校数になって、希望日がいつになるのか、どうすればより円滑にこの事業を進めることができるのか、あるいは課題をどうやって解決していけばいいのか、という深掘りのためのアンケートだと思います」
「そういったものを全部踏まえた上でやっぱり参加しませんという学校があるのは、僕はそれは当然だという風にも思ってますし、それなら参加希望しますという学校もより具体化してくると思いますので、進行中の話だと僕は思っています」
判定
大阪府の意向調査の中間報告に75%の学校から参加希望という回答があったことは事実だ。その点で吉村知事は間違っていない。一方で「不参加の選択肢がなかった」ことも事実で、山本市長の発言も正しい。
ただし、これが「事実上の強制参加」と言えるかというと、人によって受け止め方が変わるため、客観的な評価が困難だ。一方で、不参加の選択肢がないにも関わらず吉村氏が「残り25%も未定・検討中です」と発言したことは、参加に消極的な学校はゼロという印象を与えかねず、ミスリードともいえる。
「75%」という数字や「不参加の選択肢がない」という部分だけを見ると、それぞれの発言は「正確」と判定できる。だが、どちらかに限定してそのような判定を下せば、「吉村知事の発言が正しいということは山本市長は間違っている」、逆に「山本市長が正しいということは吉村知事は間違っている」という印象を与えかねない。
それぞれの発言が間違っているとまでは言い難いため、注目を集めた今回の件については、それぞれの事実確認に留め、判定は保留する。
検証:リサーチチーム
編集:藤森かもめ、宮本聖二、野上英文、古田大輔
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