斎藤知事が兵庫県公式サイト「知事の活動記録」を削除? もともと直近1年分しか表示されない仕組み【ファクトチェック】

斎藤知事が兵庫県公式サイト「知事の活動記録」を削除? もともと直近1年分しか表示されない仕組み【ファクトチェック】

兵庫県の斎藤元彦知事が県公式サイト内のページ「知事の活動記録」のうち、2023年11月以前の記録を削除したとの主張が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。2023年11月以前の活動記録が見られなくなっているのは事実ですが、斎藤知事の以前から、直近1年分しか表示されないシステムです。

検証対象

2024年11月21日、「斎藤さん、とうとう自分の活動記録も消しちゃったね。。。2023年11月以前の記録がごっそり消されていました」との投稿がX(旧Twitter)で拡散した。

投稿は11月28日時点で1500件超のリポストと35万件超のインプレッションを獲得している。

投稿には「情けない、、相変わらず胡散臭い」「調べられたら 困ることが書いてたんやろね」などのコメントが付く一方で、「前知事も含めて元々1年間しか表示しないサイトの仕様になっていますよ」との指摘もある。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)が県公式サイト「知事の活動記録」を確認したところ、2023年12月から2024年11月までの1年分しか記録がなかった。この点は検証対象の主張通りだ。

兵庫県公式サイト「知事の活動記録」より

JFCは兵庫県に取材した。広報広聴課は「知事の活動記録」が直近1年分しか表示されないことを認めた上で、「従前から1年分を月単位で掲載していて、それ以前の活動記録は斎藤知事就任以前からのシステムによって自動的に削除される」と回答した。

国立国会図書館は、インターネット資料収集保存事業(WARP)で、国の機関や地方自治体など公的機関のウェブサイトを収集・保存し公開している。JFCはこのアーカイブを用いて「知事の活動記録」の過去の更新状況を検証した。

斎藤知事のパワハラ疑惑が報じられる以前の2024年2月4日分のアーカイブでも、2022年3月から2023年2月までの1年分しか記録が表示されない。

斎藤知事の2022年から2023年にかけての活動記録(国会図書館WARPより)、1年分しか表示されていない

斎藤知事の前任である井戸知事が退任する直前のアーカイブである2021年7月3日分も、ページのレイアウトは違うものの2020年8月から2021年7月までの1年間分しか表示されていない。

井戸知事(当時)の2020年8月の活動記録(国会図書館WARP)より

国会図書館がオンライン上で公開している最古のアーカイブである2010年5月7日分も同様に2009年6月から2010年5月までしか記録されていなかった。

井戸知事(当時)の2009年から2010年の活動記録(国会図書館WARPより)

判定

斎藤知事が「知事の活動記録」ページ内の過去の活動記録を削除しているとの主張はミスリードで不正確。2023年11月以前の活動記録が削除されているのは事実だが、兵庫県のサイトが直近1年分しか表示されない仕様で、斎藤知事以前からのシステムだ。

あとがき

広報広聴課は「1年でサイトから削除するようになった理由の詳細はわからないが、データ容量の都合などもある」と説明しています。しかし、単なる文字情報でデータ容量が圧迫されるとは思えません。

「知事の活動記録に掲載するような形式での記録は、他には保存されていない」ということで、サイトから削除されることで消えてしまいます。「過去の活動記録が知りたいという問合せには国立国会図書館WARPを案内している」とのことですが、活動記録を調べる側からしたら使い勝手が悪くなります。

また、「公用車の運行スケジュールなど知事の公務が別の観点からわかる公文書は別の部署が保存している可能性がある」とのことですが、これもウェブサイトに記録を残しておけばよいだけの話ではないでしょうか。

知事の活動がわかる記録を作っておきながら、わざわざ削除することで、今回のような憶測まで生んでしまう。偽・誤情報が拡散してしまう昨今の状況を見ても、公的機関が自ら積極的にわかりやすい発信をすることの重要性は今まで以上に高まっています。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

ファクトチェックやメディア情報リテラシーについて学びたい方は、こちらの無料講座をご覧ください。ファクトチェッカー認定試験や講師養成講座も提供しています。

理論から実践まで学べるJFCファクチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験
JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込はこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月30日で、お申し込みはこちら。 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識と行動が偽・誤情報対策として有効かを分析し、誰でも無料で視聴できる「ファクトチェック講座」を
日本ファクトチェックセンターのエディターなど募集【採用】
日本ファクトチェックセンター(JFC)は業務拡大により、エディターやソーシャルメディア担当などを募集しております。リモートワークや勤務時間など様々な働き方を想定しています。 待遇はスキルや経験、勤務条件に応じます。年功序列や新卒一括採用などはありません。その人の能力に応じて、裁量がある仕事をお任せします。ファクトチェック、メディアリテラシー教育、ソーシャルメディアの分析、海外の協力団体とのコラボなど、興味がある方は、ぜひご応募ください! エディター/ファクトチェッカー 業務内容 編集部でファクトチェックを中心にコンテンツの編集や企画を担当します。自由な勤務形態を推奨しており、時間や勤務地など応相談です。 応募要件 * 必須 * 記者、編集者などメディア関係や事実検証に関わる職務経験 * JFCファクトチェックガイドラインや指針などの遵守 * チームワーク * 憎しみを原動力にしないこと * 歓迎 * デジタルメディアの経験がある方は、特に重視します * ファクトチェックや調査報道の経験 * データ収集・

もっと見る

NHKは地震が起こるのを知っていたから対応が早い? 速報システムがある【ファクトチェック】

NHKは地震が起こるのを知っていたから対応が早い? 速報システムがある【ファクトチェック】

NHKがニュース番組放送中に地震があった際、キャスターが地震の原稿をすぐに読み始めたことについて「NHKは地震が起こることをあらかじめ知っていた」という投稿が拡散しましたが、誤りです。速報の仕組みが整えられています。 検証対象 2025年1月13日、「速報鳴ってから映像に見切れるFDフロアーディレクターが原稿渡すまでわずか11秒です。いくら何でも早過ぎやしませんかね😅」という投稿がXで拡散した。投稿に続くスレッドではこの地震が「人工地震」であるかのような主張もある。 2025年1月14日現在、この投稿は300件以上リポストされ、表示回数は35万件を超える。「確かに不自然なぐらい原稿渡されるまでが早い」と同調するコメントの一方、「日々相当な訓練をされてるんですね」というコメントもついている。 検証過程 動画はNHKニュースの切り取り 日本ファクトチェックセンター(JFC)が確認したところ、この動画は1月13日午後9時からのニュースウォッチ9。NHKプラスで見ることができ、拡散した動画は午後9時19分41秒から44秒間を切り取ったものだ。内容は改変さ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
Metaがファクトチェックプログラムの廃止を発表/トランプ新政権めぐり繰り返される偽情報【今週のファクトチェック】

Metaがファクトチェックプログラムの廃止を発表/トランプ新政権めぐり繰り返される偽情報【今週のファクトチェック】

FacebookやInstagramを運営するMetaがこれまで進めてきたファクトチェック・プログラムを廃止し、コンテンツ規制を緩める方針を発表しました。ザッカーバーグCEOが表明した6つの新施策について詳しく解説しました。その他、韓国の飛行機事故、ワクチンなどのファクトチェック記事を紹介します。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのニュース Metaのファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換に対する公開書簡 Facebook、Instagram、Threadsを運営するMetaが現状のファクトチェック・プログラムを廃止し、コンテンツ規制を緩める方針を発表しました。マーク・ザッカバーグCEOは「検閲が過剰だ」とその理由を述べ、これまでパートナーシップを結んできたファクトチェック団体を「政治的に偏り、信頼を生むよりも壊してきた」と説明しました。 世界中のファクト

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
SNSはフェイクとヘイトの巣になるか Metaの方針転換とXが示すファクトチェックとコンテンツ規制の未来

SNSはフェイクとヘイトの巣になるか Metaの方針転換とXが示すファクトチェックとコンテンツ規制の未来

FacebookやInstagramなどを運営するMetaが「ファクトチェックを廃止する」と話題になっています。公式の発表では「第三者とのファクトチェックプログラムを廃止する」。実際には何がどう変わるのか。より影響の範囲が大きい「コンテンツ調整」の問題とともに解説します。 Metaの偽・誤情報対策は自社によるものと第三者によるものがあった 今回の動きを理解するためには、そもそもMetaがこれまでどのように偽情報やヘイトスピーチなどに対応してきたかを知る必要がある。外部のファクトチェック団体と協力する「第三者ファクトチェックプログラム」とMeta自身による「コンテンツ調整」の2つだ。 Metaの「コンテンツ調整」とその課題 Facebookを利用していて「投稿が削除された」という経験がある人もいるだろう。これを「ファクトチェック」と誤解している人がいるが違う。これはMetaが自社のテクノロジーで実施しているもので「Content Moderation(コンテンツ調整)」と呼ばれる。 コンテンツ調整とは、あるコンテンツを削除したり、拡散量を減らしたり、逆に

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
Metaのファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換に対する公開書簡

Metaのファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換に対する公開書簡

Facebook、Instagram、Threadsを運営するMetaが現状のファクトチェック・プログラムを廃止し、コンテンツ規制を緩める方針を発表しました。マーク・ザッカバーグCEOは「検閲が過剰だ」とその理由を述べ、これまでパートナーシップを結んできたファクトチェック団体を「政治的に偏り、信頼を生むよりも壊してきた」と説明しました。 世界中のファクトチェック団体を認証している国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)は、この決定と発言に対して公開書簡を出しました。日本ファクトチェックセンター(JFC)を含む多数のファクトチェック団体も署名しています。JFCとして日本語訳し、こちらに掲載します。 IFCNの公開書簡(2025年1月9日) 拝啓 ザッカーバーグ様、 9年前、私たちはFacebook上の虚偽情報によって引き起こされる現実世界での被害についてあなたに公開書簡を書きました。それに応じて、Metaはファクトチェックプログラムを立ち上げ、数百万人のユーザーをデマや陰謀論から保護しました。今週、あなたは「検閲が過剰である」との懸念から、アメリカ国内で

By 古田大輔(Daisuke Furuta)