河野太郎氏が子宮頸がんワクチンは危険だと演説? 発言の切り取り【ファクトチェック】

河野太郎氏が子宮頸がんワクチンは危険だと演説? 発言の切り取り【ファクトチェック】

自民党の河野太郎氏が、街頭演説で「子宮頸がんワクチンは危険だ」と話す動画が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。そのような発言はありますが、前後の文脈を無視して切り取ったものです。

検証対象

2024年10月21日、X(旧Twitter)で、「河野太郎、子宮頸がんワクチンの危険をうっかりバラした」という投稿が、河野氏の演説の動画と共に拡散した。10月25日現在、閲覧数は97万を超え、5600以上のリポストがある。

この投稿に対して、「子宮頸がん…といったつもりが、本当の事、言っちゃいましたね」「ワクチンで命落としたって言ってるよー」などのコメントのほか、「残念ながら日本では子宮頚ガンで命を落としている人がいます。と言おうとしたら、間違えワクチンと言ってしまったのか?」という指摘がある。

検証過程

河野氏の選挙演説の内容は

拡散した動画は8秒間で、河野氏が「今、日本で残念ながら子宮頸がんワクチンで命を落としている人がまだいます」と話す様子が映っている。拡散した投稿のリプライ欄には同じ演説を別の角度から撮影した2分55秒間の動画もある。

別の角度からの動画

2分55秒間の動画では、河野氏の横に千葉5区に自民党から立候補している英利アルフィヤ氏がおり、応援演説の場面であることがわかる。「デマにデマ重ねんじゃねえよ」「人間として恥ずかしくねえのか」「子宮頸がんワクチンは毒を持っていますよ」といったヤジも飛んでいる。

河野氏はヤジに対して「科学的な議論ではどうにもならないので、こういう場所に来て騒いで、人の演説の邪魔をする。それしかやりようがないから、こういう場所に来て大声を出している」と反論した後に、次のように発言している。

「こういう非科学的な人達に日本の医療を負けさせてはなりません。そういう人たちのおかげで、子宮頸がんワクチンを打つ人が減ってしまった。今、日本で残念ながら子宮頚がんワクチンで命を落としている人がまだいます」

この最後の「子宮頸がんワクチンで命を落としている人がまだいます」という部分が、拡散した動画で切り取られた発言だ。続く部分では、以下のように発言している。

「ワクチンを『危ない』『抗がん剤は毒だ』『アトピーにステロイドを使ってはいけない』。こういう非科学的なことを言いながら本を売ったり、有料セミナーを開いたり、あるいは自然療法と称したいろんな商品を売って金を儲けている人たちがいるのは、残念ながらそういう人たちがいらっしゃいます」

河野氏は、ワクチンを推進する発言をしており、演説の前後の文脈を聞くと「子宮頸がんワクチンで命を落としている人がまだいます」は「子宮頸がんで命を落としている人がまだいます」という意味であることがわかる。

河野氏は今回の演説以外でも、自身のブログなどで、ワクチンを推進する発信を続けている。

子宮頸がんワクチンは「有効性がリスクを明らかに上回る」

子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)は、公費負担による接種が積極的に勧められていたが、接種後に強い痛みなどを訴える人が出て2013年6月に積極的な勧奨が中止された。その後、「接種の有効性が副反応のリスクを明らかに上回る」と認められて、2022年4月から積極的な勧奨が再開された(厚労省「HPVワクチンに関するQ&A」)。

厚労省の資料によると、日本では毎年、約1.1万人の女性が子宮頸がんにかかり、2900人が亡くなっている。患者は20歳代から増え、30歳代までにがん治療で子宮を失う女性が年間約1000人いる。

HPVワクチンは種類にもよるが、子宮頸がんの原因の50~70%、80~90%を防ぐ。リスクは接種部位の痛みや腫れなど。まれに重いアレルギー症状、神経系症状もある。これまでの報告頻度は、因果関係がわからないものや短期間で回復した症状を含め、接種1万人あたり約3~9人だという(以上、厚労省「HPVワクチンについて知ってください」)。

判定

「河野太郎、子宮頸がんワクチンの危険をうっかりバラした」という言説が自民党の河野太郎前衆議院議員の演説の動画と共に拡散したが、ミスリードで不正確。動画は、前後の文脈を無視して河野氏の発言の一部を切り取っている。

あとがき

選挙期間中は、政党の公約や候補者に関する大量の偽・誤情報が拡散します。誤った情報を信じて投票してしまうことになれば、選挙結果に影響を与え民主主義そのものを毀損しかねません。

JFCの選挙時の偽・誤情報に関する解説記事も参考にしてください。

総選挙で拡散した/する偽・誤情報への「情報のワクチン」【解説】
総選挙がいよいよ始まります。すでに政党や候補者に関する偽・誤情報が次々と拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)は連日検証記事を出しています。すでに拡散したものだけでなく、これから拡散が予想される偽・誤情報も事前にまとめて解説します。 「情報のワクチン」を打つプレバンキング 事前に拡散が予想される偽・誤情報について解説し、人が実際にデマや不確かな情報に接した際の抵抗力を高める手法を「プレバンキング」と言う。 ウイルスに感染しないように事前に備える「情報のワクチン」とも言える手法で、事後的に情報を検証するファクトチェックよりも効果が高いという指摘もある。 筆者(古田)が「選挙で拡散する偽・誤情報、AIの影響は? 標的は候補者だけでなく民主主義」で解説したように、選挙に関する偽・誤情報には世界共通とも言える一定のパターンがある。 今回の記事ではこの類型に基づいて、すでに拡散したものやこれから拡散するものを具体的に紹介・検証し、プレバンキング記事とする。 政党・候補者を直接の標的とした情報 自分が支持する政党や候補を有利にするため、逆に対立する陣営
選挙で拡散する偽・誤情報、AIの影響は? 標的は候補者だけでなく民主主義【解説】
石破茂首相は2024年10月に解散総選挙を実施すると宣言しました。選挙は偽・誤情報の標的になります。2024年は世界中で国政選挙が実施され、生成AIによる混乱も指摘されてきました。実際にどのようなデマや噂が拡散するのでしょうか。国内外の状況について解説します。 選挙で拡散しがちな偽・誤情報の種類 選挙で拡散する偽・誤情報には世界的に共通する傾向がある。以下の表に日本で実際に拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)で検証をしたものを中心に分類した。 拡散する時期を「投開票日前」「投開票日」「選挙後」に、標的となる対象を「政党・候補者」「選挙制度」「メディア」に分けた。標的と時期ごとに、これまでにJFCが実際に検証した情報をまとめている。 政党・候補者に関する偽・誤情報 候補者や政党を貶めたり、持ち上げたりする偽・誤情報が拡散する理由の一つは、自分が支持する陣営を有利にしたいという明確な意図だ。間違った情報を意図的に流して政治的な利益を得ようとする「故意犯」と言える。 ただ、これだけが拡散の理由ではない。 自分が嫌いな候補にとって不利な情報であれ

検証:宮本聖二
編集:古田大輔、藤森かもめ

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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繰り返す災害時の偽情報/欧州でプラットフォーム事業者への批判高まる【今週のファクトチェック】

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日向灘を震源とする地震が発生すると別の災害の映像や人工地震説の偽情報が拡散しました。ヨーロッパでは、偽情報の拡散へのプラットフォーム事業者の対策を疑問視して批判を強めています。パリ市はXの利用をやめました。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのニュース セミナー「新たなテクノロジーと偽情報 -AIの脅威と活用-」 AIなどを活用したデジタル・プロパガンダの研究者として知られるサミュエル・ウーリー ピッツバーグ大准教授が来日するのを機に、国境を超えて拡散する偽情報や影響工作、そこにテクノロジーがどのような影響を与えているのかを国内の専門家を交えて議論します。日英通訳あり。無料。 日時:1月30日午後6時-7時半 場所:早稲田大学22号館201室(東京都新宿区西早稲田1-7-14) 共催:日本ファクトチェックセンター(JFC)、Code for Japan、早稲田大次世代

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