「(斎藤知事の)パワハラはなかった」と百条委の委員長が発言? 前後の文脈を無視した切り取り動画【ファクトチェック】

「(斎藤知事の)パワハラはなかった」と百条委の委員長が発言? 前後の文脈を無視した切り取り動画【ファクトチェック】

兵庫県知事選で再選した斎藤元彦知事をめぐって、百条委員会(調査特別委員会)の奥谷謙一委員長が「パワハラはなかった」と発言したという動画付きの言説が拡散しましたが、不正確です。拡散した動画は発言の一部を切り取ったもの。奥谷委員長は拡散した動画の発言後、「厳しい叱責を受けたという人はいたか?」と問われて「整理できていないが、『厳しい叱責を受けたことがある』と答えた人は結構おられたと思う」と説明。パワハラに当たるかどうか評価したいと答えています。

検証対象

2024年11月19日、「奥谷委員長が発言してます。パワハラはなかったと」という言説が拡散した

添付された25秒間の動画では、奥谷委員長が記者から、この日の証人尋問に呼ばれた6人について「パワハラを受けたという人は何人いるのか」という質問を受け、「私の認識では明確に知事の方からパワハラを受けたという方はいらっしゃらなかった」と答えている。

2024年11月20日現在、この投稿は180件以上リポストされ、表示回数は32万回を超える。投稿について「これが正解」「まだ言うかね」というコメントがつく一方で、「そんな誤解を生むような動画はいりません」という指摘もある。

検証過程

拡散した動画は斎藤氏がパワハラ疑惑などを内部告発された問題で、事実関係を調査する県議会の百条委員会が2024年8月に開いた会見の一部だ。

会見は職員6人の証人尋問後に開かれた。日本テレビのYouTubeチャンネル「日テレNEWS」で会見の様子を確認できる。

拡散した25秒間発言に、生成AIなどによる改変や捏造の痕跡はない。しかし、奥谷委員長は拡散した動画の前後に以下のように話している。

—------------------

記者:本日の証人尋問で6人の職員さんが 協力されたということですが、それぞれどういう関係の理由で読んだ方なのか、可能な範囲で教えていただけたらと思います。

委員長:私の方から説明させていただきますと、これにつきましては各委員の方からパワハラに関連する証人として呼びたいという方をまずは出していただいて、その中から今日 スケジュールなどあう方とか、また、特にあの文章の中で肝になっている20mの話であるとか、そういった事実が認定できるような証人を今日はお呼びしたという風に考えてます。

記者:分かりました。6人のうちパワハラを受けた、または、その判断は本人ができないということで、知事から理不尽に厳しい叱責を受けたと明言された人はいらっしゃったんでしょうか。また6人のうち何人いたか、可能な範囲でお伺いできたらと思います。

委員長:私の認識では明確に知事の方からパワハラを受けたという方はいらっしゃらなかったという風に考えておりますが、それは職員さんの中でもこれがパワハラに当たるのか自分では判断できないという方もおられましたし、そこはこれから我々が聞いた事実を評価して 、パワハラに当たるのかどうか、しっかり評価をしたいと考えてます。

記者:例えば、厳しい叱責を受けたという方は、先ほど奥谷委員長から出た話もあったと思い ますが、どのぐらいいらっしゃったんでしょうか。

委員長:すいません。ちょっと本当にまだ整理ができてないので、あれですけど、厳しい叱責を受けたことがあると言われてた方は結構おられたんじゃないかなとは思います。ただそれがパワハラに当たると思いますとか、そういったことは、おっしゃったという記憶は今ありません。

—-------------------

拡散した言説は奥谷委員長が「パワハラはなかった」と発言したと主張しているが、奥谷委員長は「職員自身が『自分では判断できない』という方もいたので我々が聞いた事実からパワハラにあたるのか評価したい」と述べている。また、「厳しい叱責を受けたことがあるという方は結構いた」とも発言している。

判定

奥谷委員長が「私の認識では明確に知事の方からパワハラを受けたという方はいらっしゃらなかった」と発言していることは事実だが、その後に「職員自身では評価できないという方もいるので、我々でパワハラにあたるのか評価する」「厳しい叱責を受けたことがある方は結構いた」と発言した部分が削られている。拡散した「委員長が『パワハラはなかった』と発言した」という主張は部分的な切り取りで不正確だ。

あとがき

JFCでは斎藤知事のパワハラ疑惑に関して、これまでも「パワハラしていない」という言説に「根拠不明」という判定のファクトチェック記事を出しています。県職員アンケートで140人が実際に目撃や経験をしたと回答している他、本人も百条委や演説で厳しい叱責をしたことを認め、反省の言葉を述べています。

斎藤前兵庫県知事はパワハラしていない? 職員の4割が見聞き、本人は厳しい叱責など認めて「必要な指導」【ファクトチェック】
兵庫県議会に不信任を議決され、失職した斎藤元彦前知事がパワハラをしていなかったとの主張が拡散していますが、根拠不明です。兵庫県職員約9700人へのアンケートでは、斎藤氏のパワハラを見聞きした人が4割を超えました。本人は厳しい叱責をしたことなどを認め、「必要な指導だと思っていたが、不快に思った人がいれば心からお詫びしたい」と謝罪しています。 検証対象 斎藤氏の失職に伴う兵庫県知事選は、2024年11月17日投開票だ。選挙を前に、斎藤氏によるパワハラはなかったという言説が拡散している(例1、例2、例3)。県知事選に立候補している政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏は自身のYouTubeで「テレビや大手新聞は知事がパワハラしていたことについて、何の根拠もなく噂話で報じている」と述べている。 これらの言説に対して「パワハラされたのは斎藤さんです」「おねだりもパワハラも全部デマでしょう?」といったコメントのほか「斎藤前知事のパワハラ『目撃、経験』140人『見聞きした』4割超」といった指摘もある。 検証過程 斎藤氏に対する告発と百条委員会 斎藤氏

厳しい叱責などは厚生労働省の「パワーハラスメントの定義について」の例に当てはまるものですが、パワハラと認定されるかどうかは、まだ決まっていません。

百条委員会は11月25日に斎藤氏など4人に出席を求めて証人尋問をし、年明け以降に調査報告をまとめたいとしています(NHK)。

検証:木山竣策
編集:宮本聖二、古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

衆院憲法審査会が緊急事態条項を3月27日に採決? 採決の予定は無い【ファクトチェック】

衆院憲法審査会が緊急事態条項を3月27日に採決? 採決の予定は無い【ファクトチェック】

緊急時に政府の権限を一時的に強める憲法改正案「緊急事態条項」について、2025年3月27日の衆院憲法審査会で採決されるという情報が拡散しましたが、誤りです。同日の衆院憲法審査会では参議院の「緊急集会」をめぐる各党の討議が予定されており、緊急事態条項に関する採決の予定はありません。 検証対象 2025年3月21日、「緊急事態条項を3月27日の憲法審査会で採決する」という投稿が拡散した。 投稿は1万件以上のリポストを獲得するなど広く拡散している。 検証過程 緊急事態条項と衆院憲法審査会 「緊急事態条項」とは、戦争やテロ、大規模災害などの非常事態に対処するために、一時的に政府の権限を強化する規定で、現在の憲法には規定されていない(衆議院憲法審査会事務局「『緊急事態』に関する資料)。 衆院憲法審査会は2000年に設置された憲法調査会を前身とする衆議院の常設機関で、2007年に設置された(衆議院憲法審査会)。参議院にも設置されている(参議院憲法審査会)。 憲法審査会の任務は、憲法および憲法にかかわる基本法制についての調査や、憲法改正原案、憲法に関する改正

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
中国で安く作られている「プラスチック米」の映像? 穀物由来の「人工米」製造動画【ファクトチェック】

中国で安く作られている「プラスチック米」の映像? 穀物由来の「人工米」製造動画【ファクトチェック】

「中国で作られたプラスチック米」だとして、人工的に米をつくる動画が拡散しましたが、誤りです。動画は中国の食品機械メーカーが投稿したもので、米やとうもろこし、キビなどの穀物粉を主原料に成形した「人工米」の製造風景です。塩化ビニールなどの樹脂で作られ、2010年代にインドネシアやナイジェリアに混入したとされる米粒状の「プラスチック米」ではありません。この動画は、2024年にも拡散し、「誤り」と検証されています。 検証対象 2025年3月24日、「中国で作っているプラスチック米だ」として、粉を使って米をつくっている動画が複数拡散した(投稿1、投稿2)。 投稿はいずれも数千件から数万回のリポストを獲得するなど広く拡散している。「わざわざこんな機械製造して生産してるのか。恐ろしい国だ」「消化されずに体外に排出されるだけならマシですが、4んだり消化器系にダメージがあるなら論外」などのコメントが付く一方で、とうもろこしを原料にしているとの指摘もある。 検証過程 中国産の米による「プラスチック米」騒動とは 2015年6月11日、産経新聞が現地メディアの話として、同

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
USAIDとNHKの繋がりを示す文書が発見された? 資金提供とは無関係な記述【ファクトチェック】

USAIDとNHKの繋がりを示す文書が発見された? 資金提供とは無関係な記述【ファクトチェック】

第2次トランプ政権が解体を進めている米国際開発庁(USAID)について「USAIDとNHKの繋がりを示す文書が発見された」との主張が拡散しましたが、誤りです。USAIDの資料に、英語の教育コンテンツを販売する日本の会社・団体の例として、当時NHKの関連団体だったNHKインターナショナル(現・一般財団法人NHK財団国際事業本部)が挙げられるなど付録部分で触れられているだけで、資金提供などの繋がりを示すものではありません。 検証対象 2025年3月7日、独立系メディアを名乗るまとめサイト「NewsSharing」のXアカウント「USAIDとは無関係と言っていたNHKさん、USAIDとの繋がりを示す文書が発見され、NHKがCIAモッキンバード作戦の日本最前線基地だった事が判明してしまう」と投稿した。 3月24日現在、投稿は1.2万件以上のリポストと95万件以上のインプレッションを獲得している。「わざわざNHKニュース内でも懸命に否定していたのに」「日本のメディアが外国の諜報機関の巣窟だったとは」などのコメントが付いている。 検証過程 「文書」は発展途上国の

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
立花氏襲撃事件/千葉県知事選の投票率/2億円の万博トイレ?/政治やメディアの信頼 日本が最下位【今週のファクトチェック】

立花氏襲撃事件/千葉県知事選の投票率/2億円の万博トイレ?/政治やメディアの信頼 日本が最下位【今週のファクトチェック】

立花孝志氏の襲撃事件をめぐって、容疑者が中国語を話したという偽情報が拡散しました。選挙のたびに、その正当性を疑わせるような主張が出てきます。世界各国における「信頼」を調査する25年目となるエデルマン・トラストバロメーター。2025年版で日本は最下位となりました。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのニュース 情報インテグリティシンポジウムを4月2日開催 お申し込みはこちら 毎年4月2日の国際ファクトチェックデーに合わせ、一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)/日本ファクトチェックセンター(JFC)は、情報インテグリティシンポジウム「ファクトチェックとメディアリテラシー -調和のある情報空間を目指して-」を開催します。申し込みはこちらの記事から。 情報インテグリティシンポジウムを4月2日開催 お申し込みはこちら毎年4月2日の国際ファクトチェックデーに合わせ、

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は4月19日(土)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0419.peatix.com/ 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識と

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)