立憲民主党の公約「消費税還付」はレシートを集めて確定申告が必要? 税額控除と給付で還付【ファクトチェック】

立憲民主党の公約「消費税還付」はレシートを集めて確定申告が必要? 税額控除と給付で還付【ファクトチェック】

「立憲民主党の公約『消費税還付』では、レシートを集めて確定申告しなければならない」という言説が拡散しましたが、誤りです。立憲民主党は税額控除と給付を組み合わせた制度の導入を主張しており、レシートを集めて確定申告する必要はありません。

検証対象

2024年10月6日、「消費税還付だと、どれだけ消費税を支払ったかレシート集めて確定申告しなければならない。そんな面倒なことせずに、消費税率下げればいいだけ」という投稿が拡散した。

2024年10月10日現在、この投稿は38万回以上の閲覧回数と3200件以上のリポストがある。この投稿に「還付するくらいならば、初めから取らなければ良い」「国民に手間や手数を掛けさせること自体愚策」といったコメントや「立憲民主党の提出した法案では統計を元に算出するので『レシート集めて確定申告』はデマ」という指摘もある。

検証過程

この投稿には、10月6日の共同通信の記事「中低所得者に消費税還付 立民の衆院選公約、政治改革徹底」へのリンクがある。立憲民主党が衆議院選の公約として「消費税は軽減税率制度に代えて、中低所得者が負担する一部を税額控除し、控除しきれない分を給付する制度」などを掲げたという内容だ。

立憲民主党は2023年6月の衆議院でも同様の「消費税還付法案」を提出している。所得の低い人ほど負担割合が重くなる消費税の逆進性の緩和を目指す制度だ。具体的には、以下のような内容だ。

「中低所得者世帯の一世帯当たりの消費税の負担額として全国家計構造統計における消費支出の額等を勘案して算定した額の二分の一に相当する額を基礎として計算した額を、同一の世帯に属する者のうちいずれかの者の所得税の額から控除し、かつ、その控除をしてもなお控除しきれない額があるときは当該控除しきれない額に相当する金銭の給付を行う」

つまり、公的な統計を元に算出した金額を所得税から控除する制度で、確定申告を前提としていない。日本ファクトチェックセンター(JFC)は立憲民主党政務調査会に確認した。担当者からの回答は以下の通りだ。

「我が党としては、総務省の『全国家計構造調査』等の統計に基づいて、『中低所得者が負担する消費税の一部』に“相当する額”を算出し、税額控除・給付を実施するという制度設計を主張しております。したがって、我が党が掲げる『給付付き税額控除』(消費税還付制度)が実現したとしても、『レシートを集めて確定申告する』必要性は生じません」

判定

「立憲民主党の選挙公約で、レシートを集めて確定申告しなければならない」という言説が拡散したが、誤り。立憲民主党が公約に掲げる制度は一定額の税控除と給付を組み合わせたもので、還付を受けるためにレシートを集めて確定申告をする制度ではない。

あとがき

選挙が近づくと、政府の政策、政党や候補者の公約、選挙制度などに関する大量の偽・誤情報が拡散します。誤った情報を信じて投票してしまうことになれば、選挙結果に影響を与え民主主義そのものを毀損しかねません。

JFCの選挙時の偽・誤情報に関する解説記事も参考にしてください。

選挙で拡散する偽・誤情報、AIの影響は? 標的は候補者だけでなく民主主義【解説】
石破茂首相は2024年10月に解散総選挙を実施すると宣言しました。選挙は偽・誤情報の標的になります。2024年は世界中で国政選挙が実施され、生成AIによる混乱も指摘されてきました。実際にどのようなデマや噂が拡散するのでしょうか。国内外の状況について解説します。 選挙で拡散しがちな偽・誤情報の種類 選挙で拡散する偽・誤情報には世界的に共通する傾向がある。以下の表に日本で実際に拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)で検証をしたものを中心に分類した。 拡散する時期を「投開票日前」「投開票日」「選挙後」に、標的となる対象を「政党・候補者」「選挙制度」「メディア」に分けた。標的と時期ごとに、これまでにJFCが実際に検証した情報をまとめている。 政党・候補者に関する偽・誤情報 候補者や政党を貶めたり、持ち上げたりする偽・誤情報が拡散する理由の一つは、自分が支持する陣営を有利にしたいという明確な意図だ。間違った情報を意図的に流して政治的な利益を得ようとする「故意犯」と言える。 ただ、これだけが拡散の理由ではない。 自分が嫌いな候補にとって不利な情報であれ

検証:リサーチチーム、宮本聖二
編集:古田大輔

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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