埼玉県でインボイス廃止が可決? 廃止の意見書を県議会が可決【ファクトチェック】

埼玉県でインボイス廃止が可決? 廃止の意見書を県議会が可決【ファクトチェック】

「埼玉県でインボイス制度が廃止された」という情報が拡散しましたが、誤りです。埼玉県議会本会議が「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の廃止等を求める意見書」を可決しましたが、制度が廃止になったわけではありません。

検証対象

2025年2月13日、「埼玉県でインボイス廃止が可決したらしいよ。この流れで、どの県でも廃止になればいいのにね」という情報が拡散した。

2025年2月18日現在、この投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は40万回を超える。投稿について「是非全国でも廃止になって欲しい」「埼玉県最高じゃん」というコメントの一方で「県だけで廃止できるわけ」という指摘もある。

検証過程

インボイス制度とは

インボイス制度は2023年10月1日に始まった。

税率が複数あっても、事業者が消費税を正確に納めるように、売り手(インボイス発行事業者)が買い手に対して消費税の金額等を書いた請求書・領収書等(インボイス)を発行し、その情報に基づいて買い手が仕入れ税額控除できる仕組みだ(国税庁「インボイス制度について」)。

一部からは事務やコスト負担増の声が上がっている(NHK「インボイス制度開始から1年 事業者から事務やコスト負担増の声」)。

埼玉県議会の動き

埼玉県のウェブサイトから埼玉県議会のページを確認すると、2024年12月定例会でインボイスに関する「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の廃止等を求める意見書」が掲載されている。

日本ファクトチェックセンター(JFC)が埼玉県に問い合わせたところ、この意見書は12月に議会で可決され、首相や衆参両議長ら宛に送付したという。

意見書はインボイス制度に関して事業者から「減収や税負担の増加で経営が厳しくなった」「経理の負担が大きすぎる」との声が相次いだことを紹介。こうした事業活動への深刻な影響を踏まえ、国に対し、インボイス制度など事業者に過度な負担を強いる制度の廃止を求めている。

意見書とは

都道府県や市町村などの自治体は「地方自治法第九十九条」によって、国会や関係する省庁に議会の考えをまとめた意見書を提出できる。

意見書が自治体の議会で可決されても、国の制度を即座に廃止する効力はない。

投稿主も訂正

2025年2月15日、拡散した情報の投稿主が「埼玉県でインボイス廃止の意見書が県議会で賛成多数で可決したが正しいらしい」と訂正している。

判定

埼玉県議会は2024年12月にインボイス制度の廃止等を求める意見書を可決したが、制度を廃止したわけではない。よって、埼玉県でインボイス廃止は誤りと判定した。

検証:木山竣策
編集:宮本聖二、古田大輔

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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