佐藤正久・参院議員「JAL123便は自衛隊が訓練中に誤って撃墜」と発言? 恣意的な切り取り【ファクトチェック】

参院議員・佐藤正久氏(自民)が「1985年のJAL123便墜落事故は、自衛隊が訓練中に誤って撃墜したために起きた」と主張しているとの情報が拡散しましたが、誤りです。検証対象の添付動画で佐藤氏が読み上げているのは、事故に関する書籍で、佐藤氏自身の見解と正反対の内容です。
検証対象
2025年4月16日、「1985年のJAL123便墜落事故は、自衛隊が訓練中に誤って撃墜したために起きた」「証拠を隠滅した疑惑がある」という趣旨の投稿がXで拡散した。
投稿には「ついに国会で元自衛隊幹部が重い口を開きました」という文言とともに、佐藤氏が「自衛隊の標的機がJAL123便を撃墜してしまった」などと話す英訳つきの動画が添付されている。
2025年4月21日現在、投稿は1300回以上リポストされ、表示回数は46.5万回を超える。投稿には、「聞き覚えのある話やな」「初期に言われていたことだよ」などのコメントのほか「極めて悪質な切り抜き加工動画ですね」という指摘も寄せられている。
検証過程
日航機(JAL123便)墜落事故とは
日航機墜落事故とは、1985年8月12日夜、群馬県・御巣鷹山にJAL123便が墜落し、520人が死亡した事故のことだ。
事故原因について航空事故調査委員会は1987年6月、報告書を公表し、後部圧力隔壁の不適切な修理に起因するとしている(運輸安全委員会 )。
自民党・佐藤正久議員の発言内容は
検証対象についている約1分の動画で佐藤氏は以下のように発言している。
「本日取り上げていますこの中身はですね、駿河湾で試験中の護衛艦が対空ミサイル発射訓練をやっており、それを海自出身のJALの機長が海上自衛隊と組んで訓練に協力し、自衛隊の標的機がJAL123便を撃墜してしまった。
横田基地への緊急着陸を自衛隊が禁止したばかりではなく、その撃墜と墜落の痕跡を隠すためにわざと墜落地点の特定を遅らせ、その間、自衛隊の火炎放射器で墜落現場を焼いて証拠を隠滅した。
アメリカの大統領から中曽根総理への書簡に、外務省担当官がわざわざ事故ではなく墜落事件という言葉を使っていることからも、中曽根総理も外務省も知っていて隠蔽したという概要です」
参院外交防衛委員会の質疑の切り取り
添付動画は、佐藤氏が2025年4月10日の参院外交防衛委員会で質問した一部を切り出したものだ。佐藤氏の日航機の事故に関する質問は公開されている委員会の動画の33:58から44:40までだ。
佐藤氏は「自衛隊が撃墜した」という言説が書籍などで拡散しているとして「自衛隊員の名誉に関わる問題だ。多くの人命救助に当たった隊員に対する侮辱だ」と問題視した。
委員会動画の34:48から35:34までが、検証対象の添付動画だ。この部分は改変されていない。質問の際、佐藤氏が、詳細を伝えるために書籍の内容を読み上げたもので、佐藤氏の見解ではない。
佐藤氏はこの後、事故を調査し、民間航空機の安全を所管する高橋克法・国交副大臣の見解を求めた。高橋氏は、1987年に公表された報告書通り、事故は後部圧力隔壁の不適切な修理に起因すると推定されると答えた。
佐藤氏はさらに、中谷防衛相に「自衛隊への名誉棄損だ。拡散を止める具体的な手立てを」と求めた。中谷氏は「この事故に自衛隊が関与した事実は断じてない。このような言説はしっかりと否定し、正確な情報を発することが何よりも重要と考える」などと回答した。
つまり、佐藤氏は検証対象の言説とは正反対の内容を述べている。
引用元は青山透子著「日航123便 墜落の新事実: 目撃証言から真相に迫る」
佐藤氏が委員会で触れた書籍は「日航123便 墜落の新事実: 目撃証言から真相に迫る」だ。
著者・青山透子氏は、出版元のサイトによると、元日本航空国際線客室乗務。国内線時代に事故機のクルーと同じグループで乗務し、その後、官公庁、各種企業等の接遇教育に携わり、専門学校、大学講師として活動し、日航機墜落事故に関する書籍を多数出版している(河出書房新社)。
青山氏は、自身の公式サイトで、佐藤氏の質問が「言論への弾圧」だと抗議している。
判定
「1985年のJAL123便墜落事故は、自衛隊が訓練中に誤って撃墜したために起きた」「証拠を隠滅した疑惑がある」という趣旨の言説が拡散したが、誤り。検証対象の添付動画で佐藤正久参院議員が読み上げているのは、拡散元の書籍の内容であり、佐藤氏自身の言説とは正反対の内容だ。
検証:リサーチチーム
編集:古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら。