斎藤前兵庫県知事はパワハラしていない? 職員の4割が見聞き、本人は厳しい叱責など認めて「必要な指導」【ファクトチェック】

斎藤前兵庫県知事はパワハラしていない? 職員の4割が見聞き、本人は厳しい叱責など認めて「必要な指導」【ファクトチェック】

兵庫県議会に不信任を議決され、失職した斎藤元彦前知事がパワハラをしていなかったとの主張が拡散していますが、根拠不明です。兵庫県職員約9700人へのアンケートでは、斎藤氏のパワハラを見聞きした人が4割を超えました。本人は厳しい叱責をしたことなどを認め、「必要な指導だと思っていたが、不快に思った人がいれば心からお詫びしたい」と謝罪しています。

検証対象

斎藤氏の失職に伴う兵庫県知事選は、2024年11月17日投開票だ。選挙を前に、斎藤氏によるパワハラはなかったという言説が拡散している(例1例2例3)。県知事選に立候補している政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏は自身のYouTubeで「テレビや大手新聞は知事がパワハラしていたことについて、何の根拠もなく噂話で報じている」と述べている

これらの言説に対して「パワハラされたのは斎藤さんです」「おねだりもパワハラも全部デマでしょう?」といったコメントのほか「斎藤前知事のパワハラ『目撃、経験』140人『見聞きした』4割超」といった指摘もある。

検証過程

斎藤氏に対する告発と百条委員会

斎藤氏のパワハラ疑惑が明るみに出た発端は3月中旬、兵庫県庁幹部(元県民局長)が斎藤氏の県職員に対するパワハラなどに関する告発文書を匿名で作成し、県議や報道機関に送った。

文書を入手した斎藤氏は側近に調査を指示し、告発者を元県民局長と特定。3月末の退職人事を取り消し、さらに県の公益通報窓口に連絡した元県民局長に対して、公益通報の調査結果を待たずに停職3ヶ月の懲戒処分とした。

県議会は告発文書の扱いが適切ではなかったとして強い調査権を持つ百条委員会を設置。元県民局長は百条委の証人喚問の前に亡くなり、自殺と見られている(NHK朝日新聞産経新聞)。

県職員アンケートで140人がパワハラを実際に目撃等と回答

百条委はこの問題について、県職員約9700人を対象に斎藤氏のパワハラなどについてアンケートを実施し、6725人から回答を得た。パワハラを目撃(経験)等により知っていると答えた職員は140人に上った。

また、「実際に知っている人から聞いた」と「人づてに聞いた」はあわせて2711人で、直接の目撃(経験)と合わせると2851人、回答者の42%が知事のパワハラを知っていたことになる(兵庫県議会「文書問題調査特別委員会」)。

また、百条委の証人尋問では「人生で初めてこういうことをされた」「自分は精神的にタフなのでダメージは少なかったが、(同じことを)ほかの人にされているなら看過できない」などと証言した職員もいたという(産経新聞)。

斎藤氏「必要な指導だと思っていた」

百条委の8月30日の証人喚問では、斎藤氏は職員に対して「厳しい叱責をしたことや付箋を投げた、机を叩いた」ことを認めた。そのうえで「必要な指導だと思っていたが、不快に思った人がいれば、心からお詫びしたい。パワハラかどうかは私が判定するというより、百条委員会などが判定するものだ」と述べている(NHK)。

また、県知事選の街頭演説では「特定の職員を徹底的に追い詰めるということはしていないです」と述べつつ、「確かに注意の仕方が厳しかったり、そういったところは反省しないといけない」と厳しい指導があったことは認めている。

パワハラとは

パワハラについて、厚生労働省は「パワーハラスメントの定義について」で3つの要素を定義している。「優越的な地位に基づいて行われること」「業務の適正範囲を超えて行われること」「身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、若しくは就業環境を害すること」だ。

また、「精神的な攻撃」として「大勢の前で叱責する」「ものを机に叩きつけるなど威圧的な態度をとる」などをあげている。

厚生労働省「職場におけるパワーハラスメントとは」

判定

兵庫県議会の不信任決議で失職した斎藤前知事はパワハラはしていないといった言説が拡散したが、根拠不明。県職員へのアンケートでは実際に目撃などで知っている人が140人、間接的に聞いて知っている人も含めると回答者の4割を超える。本人も「厳しい叱責」「机を叩いた」ことなどを認めており、「必要な指導だと思っていた」と述べているが、パワハラの定義にあてはまる行動だ。

あとがき

不信任決議が可決された斎藤氏の失職にともなう兵庫県知事選では、大量の偽・誤情報が飛び交う自体になっており、日本ファクトチェックセンター(JFC)でも検証記事を出しています。

兵庫県知事選 稲村氏が当選すると外国人の地方参政権が成立する?公約になく、本人も否定【ファクトチェック】
前知事の失職に伴う兵庫県知事選挙に立候補している稲村和美氏について、「当選すると外国人の地方参政権が成立」するという言説が拡散していますが、誤りです。稲村氏は外国人参政権を公約にしておらず、この言説を自ら否定しています。 検証対象 兵庫県では、斎藤元彦前知事が県議会の不信任決議案を受けて失職し、2024年11月17日投開票で県知事選が実施される。選挙戦の最中、立候補者の一人で前尼崎市長の稲村和美氏に対して「当選すると外国人の地方参政権が成立する」「外国人参政権推進派」「外国人参政権を与えようとしています」などの言説がX(旧Twitter)で拡散した(例1、例2、例3)。 投稿の中には47万を超える閲覧と4600件以上のリポストのついたものもある。「ホンマにその通り 稲村知事になったら埼玉県みたくクルド人や中国人だらけになるで」「尼崎だけでやってくれ。 迷惑」「土葬の墓地が許可される」といったコメントのほか、「デマを流しましたね」という指摘もある。 また、自民党の岡田ゆうじ神戸市議会議員は、自身のアカウントで「稲村氏は極左の『緑の党』の共同設立者の一人で、緑

「斎藤氏がパワハラをしていた根拠がない」という主張に対しては、この検証のようにアンケート結果や本人の発言やパワハラの定義を示すことができます。一方で「パワハラをしていた根拠がない」という主張には、どのような根拠があるでしょうか。本人も厳しい指導があったことは認めています。

「Aは誤っている」と主張するBが正しいとは限りません。根拠を確認する手法として、JFCのファクトチェック講座なども参考にしてみてください。

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

検証:宮本聖二
編集:藤森かもめ、古田大輔

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

ファクトチェックやメディア情報リテラシーについて学びたい方は、こちらの無料講座をご覧ください。ファクトチェッカー認定試験や講師養成講座も提供しています。

理論から実践まで学べるJFCファクチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験
JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込はこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月30日で、お申し込みはこちら。 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識と行動が偽・誤情報対策として有効かを分析し、誰でも無料で視聴できる「ファクトチェック講座」を
日本ファクトチェックセンターのエディターなど募集【採用】
日本ファクトチェックセンター(JFC)は業務拡大により、エディターやソーシャルメディア担当などを募集しております。リモートワークや勤務時間など様々な働き方を想定しています。 待遇はスキルや経験、勤務条件に応じます。年功序列や新卒一括採用などはありません。その人の能力に応じて、裁量がある仕事をお任せします。ファクトチェック、メディアリテラシー教育、ソーシャルメディアの分析、海外の協力団体とのコラボなど、興味がある方は、ぜひご応募ください! エディター/ファクトチェッカー 業務内容 編集部でファクトチェックを中心にコンテンツの編集や企画を担当します。自由な勤務形態を推奨しており、時間や勤務地など応相談です。 応募要件 * 必須 * 記者、編集者などメディア関係や事実検証に関わる職務経験 * JFCファクトチェックガイドラインや指針などの遵守 * チームワーク * 憎しみを原動力にしないこと * 歓迎 * デジタルメディアの経験がある方は、特に重視します * ファクトチェックや調査報道の経験 * データ収集・

もっと見る

埼玉県川口市に外国人のみ入居可能な物件? 物件情報の画像は加工されたもの【ファクトチェック】

埼玉県川口市に外国人のみ入居可能な物件? 物件情報の画像は加工されたもの【ファクトチェック】

埼玉県川口市に「外国人のみ入居可能」「日本人不可」とする賃貸物件があるとの言説が画像付きで拡散しましたが、誤りです。拡散した画像は千葉県の異なる物件の画像を合成したものです。 検証対象 2024年11月12日、「日本人不可×だって‼埼玉県川口市は、もう日本ではないですね⁉」との投稿がX(旧Twitter)で拡散した。 投稿には、「川口市栄町3丁目戸建 賃貸」などと記載された物件情報と共に、屋内の2枚の画像が添付されており、「外国人のみ入居可能」「日本人不可」と書かれている。 この投稿は11月14日時点で9000件以上のリポストと300万件以上のインプレッションを獲得している。 投稿には「おかしいよね 移民の強制送還を早急に願います」「こうなったことに対する現川口市長と現埼玉県知事の責任はきわめて重い」などのコメントが付く一方で、「捏造」「わざわざ日本語で案内する意味」との指摘もある。 検証過程 日本ファクトチェックセンター(JFC)が「Google画像検索」で検証したところ、左上のキッチンの画像と右上の間取り図は千葉県習志野市の物件、下のリビングの

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
衆院選で白票が167万票? 白票を含む無効票の数【ファクトチェック】

衆院選で白票が167万票? 白票を含む無効票の数【ファクトチェック】

2024年の衆議院議員選挙をめぐって、白票が167万票という投稿が拡散しましたが、誤りです。167万票は白票を含む無効票の合計です。拡散した投稿はまとめサイトを引用し、まとめサイトの見出しはネット掲示板のスレッドタイトルを引用しているだけです。 検証対象 2024年11月4日、「【悲報】白票167万票  日本」という投稿が拡散した。投稿にはまとめサイトのリンクが添付されている。 2024年11月12日時点、この投稿は7300件以上リポストされ、表示回数は134万回を超える。投稿について「無駄な行為」「マスコミの政治部が率先して白票に誘導」というコメントの一方で「元々のソースは無効票」という指摘もある。 検証過程 まとめサイトと添付記事の内容が不一致 検証対象はまとめサイトのリンクを添付している。リンクはまとめサイト「Tweeter Breaking News-ツイッ速!」の記事だ。掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「【悲報】白票167万票 日本、一億総知的障害だった」で、日本経済新聞が2024年11月2日に配信した記事「衆院選「無効」167万票 自

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
兵庫県知事選 稲村氏が当選すると外国人の地方参政権が成立する?公約になく、本人も否定【ファクトチェック】

兵庫県知事選 稲村氏が当選すると外国人の地方参政権が成立する?公約になく、本人も否定【ファクトチェック】

前知事の失職に伴う兵庫県知事選挙に立候補している稲村和美氏について、「当選すると外国人の地方参政権が成立」するという言説が拡散していますが、誤りです。稲村氏は外国人参政権を公約にしておらず、この言説を自ら否定しています。 検証対象 兵庫県では、斎藤元彦前知事が県議会の不信任決議案を受けて失職し、2024年11月17日投開票で県知事選が実施される。選挙戦の最中、立候補者の一人で前尼崎市長の稲村和美氏に対して「当選すると外国人の地方参政権が成立する」「外国人参政権推進派」「外国人参政権を与えようとしています」などの言説がX(旧Twitter)で拡散した(例1、例2、例3)。 投稿の中には47万を超える閲覧と4600件以上のリポストのついたものもある。「ホンマにその通り 稲村知事になったら埼玉県みたくクルド人や中国人だらけになるで」「尼崎だけでやってくれ。 迷惑」「土葬の墓地が許可される」といったコメントのほか、「デマを流しましたね」という指摘もある。 また、自民党の岡田ゆうじ神戸市議会議員は、自身のアカウントで「稲村氏は極左の『緑の党』の共同設立者の一人で、緑

By 宮本聖二
米大統領選挙後も続く偽・誤情報、日本にも波及【今週のファクトチェック】

米大統領選挙後も続く偽・誤情報、日本にも波及【今週のファクトチェック】

トランプ氏が勝利したアメリカ大統領選が終わっても、アメリカの政治やトランプ氏に関わる偽・誤情報の拡散は続いています。そして、それらはアメリカ国内だけではなく、日本を含む他国にも広がっています。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのニュース JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月30日で、お申し込みはこちら。 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込はこちら日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)