超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

「トランプ政権が社会福祉コストを精査したら、記録上で200歳以上が数万人もいた。戸籍制度が完備してる日本ではあり得ない」などという言説がXで拡散しましたが、不正確です。トランプ氏が演説でふれた200超歳の高齢者の記録は1041人分。また、亡くなった人が戸籍上生存したままになっている「高齢者所在不明問題」は日本でも起きています。
検証対象
2025年4月24日、「トランプ政権でDOGEが社会福祉コストの精査を行ったら、記録上で200歳以上が数万人もいたという話は、戸籍制度が完備してる日本ではあり得ないこと」という投稿がXで拡散した。
投稿は2025年4月28日現在、1万回以上リポストされ、表示は308万件を超える。投稿には「母が亡くなった時戸籍を取り寄せたら、江戸時代末期まで遡った記録が送られてきて驚いた」「ほんと、そう。無くすべきではない」などのコメントのほか、「日本でも何年か前にそういう事ありましたよ」という指摘もある。
検証過程
トランプ氏「220~229歳が1039人」
第2次トランプ政権は、財政赤字の削減を目指し、社会保障費の削減に取り組んでいる。
2025年3月4日、トランプ氏は議会演説で「100歳以上とされる何百万人もの人々が社会保障給付金を受け取っている」と主張し、退職者やその他の給付対象者に支給される連邦政府の制度について、「衝撃的な無能ぶりと詐欺の可能性がある」と非難した(動画46分22秒~49分15秒)。
トランプ氏は演説で次のように述べた。
「政府のデータベースには、100~109歳の社会保障加入者が470万人記録されている。110~119歳が360万人、120~129歳が347万人、130~139歳が390万人、140~149歳までが350万人。しかも、その多くに実際にお金が支払われている」「さらに、1039人が220~229歳、1人が240~249歳、1人が360歳。アメリカ合衆国より100歳も高齢だ」
ホワイトハウスは、公式サイトで「トランプ大統領、不法滞在者への社会保障給付を阻止へ」という文書を公表。大統領覚書で、給付資格のない外国人や死亡者などへの支払い停止を強く指示した(2025年4月15日)。
検証対象の「社会福祉コストの精査を行ったら、記録上で200歳以上が数万人もいた」の部分は、トランプ氏の演説の内容を誇張している。
トランプ政権の主張「根拠不明」の指摘も
トランプ氏の議会演説の内容は根拠不明だと、複数のファクトチェック・報道機関が指摘している。
米国ファクトチェック団体Snopesは「トランプ氏の『100歳以上の人が何百万人も社会保障を受給している』という主張の誤りを検証」という記事を公開。過去の監査によれば、社会保障局(SSA)の中央データベース「Numident」には死亡記録がない高齢者が多数登録されているものの、実際に給付を受けていたのはごく一部にすぎないとしている。
米CBS NEWSは「新任の社会保障庁長官が、『100歳以上の死亡者に給付金が支払われている』という主張を否定」という記事を公開。100歳以上の高齢者の記録は、社会保障局の古いシステムや記録の不備によるもので、実際の不正受給の例は少ないと報じている。
日本でも「高齢者所在不明問題」はある
検証対象は「戸籍制度が完備されている日本ではあり得ない」と述べているが、日本でも、亡くなった人が戸籍上生存したままになっている状態は「高齢者所在不明問題」としてたびたび報じられている。
日テレNEWSは、東大阪市で、149歳になる人が戸籍上生存したままの状態になっていることが分かったと報じた(2010年8月25日)。
中国新聞は、戸籍上は生存しているのに現住所が分からない100歳以上の高齢者が、広島市で2011年6月現在、7463人いると伝えた(2012年12月6日)。
時事通信は、東京・杉並区が、113歳で当時都内最高齢とされていた女性の所在が確認できていないと公表したと報じている(2017年6月19日)。
厚労省は、不正受給防止のため、76歳以上の年金受給者全員に対し、健在であるか確認するなどの措置を取ると説明している(厚労省「高齢者の所在不明問題について」)。
つまり、検証対象の「戸籍制度が完備してる日本ではあり得ないこと」は誤りだ。
判定
「トランプ政権でDOGEが社会福祉コストの精査を行ったら、記録上で200歳以上が数万人もいた」という主張は、トランプ氏の演説内容を誇張している。また複数のファクトチェック機関が、トランプ氏の発言を不正確・根拠に乏しいなどと判定している。さらに日本でも、いわゆる高齢者所在不明問題はたびたび起きている。よって、検証対象の言説は不正確と判定する。
検証:リサーチチーム
編集:古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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