石破首相「自民党は公約を守る気が一切ありません」と国会答弁? 文脈を無視した切り取り【ファクトチェック】

石破首相「自民党は公約を守る気が一切ありません」と国会答弁? 文脈を無視した切り取り【ファクトチェック】

石破茂首相が国会で、「自民党は公約を守る気が一切ありません」などと答弁したかのような動画が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。石破首相の発言を切り取り、キャプションには発言していない内容も加えています。

検証対象

2025年2月1日、「石破茂『自民党は公約を守った事ありません、私もやりません』現役の総理大臣が公約を守る気が一切無いと国会答弁で言い切りやがった」というタイトルを付けたショート動画がYouTubeにアップロードされた。

この動画は、長さが59秒で最初から43秒間は国会で石破首相が発言している様子、その後の16秒間は、れいわ新選組の山本太郎代表の国会ではない場で発言する様子で構成されている。動画は2月26日時点で約120万回再生されている。

「政治家として1番言ってはいけないこと」「堂々と、『私総理大臣は、詐欺します』と国民に宣言してしている」などのコメントが付く一方で、フェイクや切り取りを疑う声もある。

検証過程

59秒に編集された動画

拡散した動画は59秒間。「石破茂『自民党は公約を守る気が一切ありません』」「石破茂 内閣総理大臣 2024年12月5日」などのテロップと、国会で石破首相が答弁する様子や、れいわ新選組の山本太郎代表が「選挙が終わった後、その人たちの本当の姿が透けて見える」などと発言する様子が映っている。

動画における石破首相の発言は以下の通り(「えー」などの野次は除外)。

(以下、動画より文字起こし)
当選させていただきました。そこにおいて掲げました政策が、当選をしたのだからこの通りにやるということにはなりません。それは…いや『えー!?』というほうが。私はそう思う。
当選をしたら自分が掲げたこと、「全て我が党はこれでやる」という様なことを私どもの党はやったことがございません。
「私は当選したのだから私が選挙中に言ったことを全部実現するぞ」ということは、それは私は一度も存じません。
例えば、安全保障のあり方とか、日本とアメリカの地位協定とか、こういうことを言って当選をしたと。だけども議論として取り上げるという仕組みがあるのは我が党の良い所だと思っております
(文字起こしここまで)

動画を見ると石破首相の発言が不自然にぶつ切りになっていることがわかる。文字にしてみても意味が通りにくい部分がある。発言が切り貼りされているからだ。

2024年12月5日の予算委員会での石破首相の発言

動画には「2024年12月5日」とある。国会会議録検索システムで検索すると、衆議院予算委員会での発言が見つかる。マイナ保険証をめぐって、岡本あき子議員(立憲民主党)が、石破首相の総裁選時からの姿勢の変化を聞いた。

石破首相は以下のように答弁した。下線部が拡散した動画に使われた部分だ。

(以下、石破首相の発言)
総裁選のときに、何しろこの間は9人も出ましたからね、我が党の総裁選というのは。いろいろな人がいろいろな意見を言う、それはそうあるべきものだと思っております。
そこにおいて、では、当選をさせていただきました、そこにおいて掲げました政策が、私は当選をしたのだからこのとおりにやるということにはなりません。いや、なりません。いや、ええっと言う方が問題で、失礼、私はそう思う。
では、そこで当選をしたら、自分が掲げたこと、全て我が党はこれでやるというようなことを私どもの党はやったことがございません。私は何度も、総裁選挙というものは、自分が出る出ないは別として、経験をいたしてまいりました。私が当選したのだから私が選挙中に言ったことを全部実現するぞということは、それは私は一度も存じません。
我が党の中でそれをどう考えるのか。例えば、この後御議論があるのかもしれませんが、アジア太平洋地域における安全保障の在り方とか、日本とアメリカの地位協定とか、そういうことも掲げました。それは、党においてそのような組織を求めて、総裁はこういうことを言って当選もした、だけれども、我が党の中にはいろいろな意見があるわけで、それを議論として取り上げるという仕組みがあるのは我が党のいいところだと思っております。
(引用、ここまで)

つまり、自民党総裁選で自身が掲げた政策を当選後にそのまま全て反映するのではなく、党内の様々な意見を盛り込むという趣旨だ。総裁選や総選挙などで掲げた公約を「守る気が一切ない」とは言っていない。

れいわ新選組、山本代表の発言

拡散した動画の最後の16秒は、れいわ新選組の山本太郎代表の映像が付いている。この画像を検索すると、れいわ新選組公式サイトで見つかった。

前半12秒は2024年12月24日の記者会見、最後の4秒は10月28日の記者会見で、これらの発言はいずれも消費税減税について述べた箇所を切り貼りしたもので、石破首相の発言に直接は言及していない。

判定

石破首相が「公約を守らない」と国会で発言し、それをれいわの山本代表が批判するように見えるショート動画が拡散した。拡散した動画は、石破首相の発言を切り貼りしたうえで「自民党は公約を守る気が一切ありません」という石破氏の実際の発言にないキャプションが加えられていることから、ミスリードで不正確だと判定した。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔、宮本聖二、藤森かもめ、野上英文

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

ファクトチェックやメディア情報リテラシーについて学びたい方は、こちらの無料講座をご覧ください。ファクトチェッカー認定試験や講師養成講座も提供しています。

理論から実践まで学べるJFCファクチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験
JFCファクトチェッカー認定試験 教材と申し込みはこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や
JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月22日で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1222.peatix.com/event/4221579/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的に

もっと見る

アメリカ・ヴァンス副大統領が日本のSNS規制を批判? 欧州に向けた発言【ファクトチェック】

アメリカ・ヴァンス副大統領が日本のSNS規制を批判? 欧州に向けた発言【ファクトチェック】

アメリカのJ・D・ヴァンス副大統領が日本のSNS規制を批判したという言説が拡散しましたが、誤りです。ヴァンス氏は2025年2月に欧州のSNS偽情報対策を批判する演説をしていますが、日本に向けた発言ではありません。 検証対象 2025年2月24日、「JDヴァンス副大統領が日本のSNS規制を批判」という情報が動画と共に拡散した。 2025年3月3日現在、この投稿は6700件以上リポストされ、表示回数は83万回を超える。この投稿について「ヴァンス副大統領の言う通りです」「ありがとう!」というコメントの一方で「どこ情報?」という指摘もある。 検証過程 動画の内容は 拡散した投稿の動画は1分5秒。ヴァンス副大統領と石破茂首相の画像を使って、独自のナレーションをつけている。以下のような内容で、ヴァンス氏が日本政府を批判したと説明している。 「アメリカの副大統領ヴァンス氏は日本政府が進めるSNS規制について言論の自由を脅かすものだとして強烈な批判を展開している」「ヴァンス氏はSNS上の言論を政府が規制することが単なる情報のコントロールにとどまらず民主主義の根幹

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
マイナンバーカードでの本人確認が禁止される?まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

マイナンバーカードでの本人確認が禁止される?まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

「マイナンバーカードでの本人確認を禁止」との投稿が拡散しましたが、誤りです。拡散した投稿はまとめサイトのもので、見出しは掲示板サイトのスレッドタイトルを引用しているだけです。警察庁はマイナンバーカードの画像を送信して本人を確認する方法を2027年4月に廃止する方針です。 検証対象 2025年2月27日、「マイナンバーカードでの本人確認を禁止、偽造カードで銀行口座やクレカの不正取得が相次ぐ」との投稿が拡散した。 投稿は3月3日時点で2500件以上のリポストと70万件以上のインプレッションを獲得している。「役立たずのカード」「何の為にマイナカード作ったんだか?」などのコメントが付く一方で、「正しくはマイナンバーカードの画像での本人確認ね」との指摘もある。 検証過程 検証対象のリンクは、まとめサイト「Tweeter Breaking News —ツイッ速!」の記事だ。タイトルは掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「マイナンバーカードでの本人確認を禁止、偽造カードで銀行口座やクレカの不正取得が相次ぐ」で、NHKが2025年2月27日に配信した記事「マイナンバーカ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
外国人への生活保護は違法?/増える政治系の切り取り動画/国内外で拡散する災害陰謀論【今週のファクトチェック】

外国人への生活保護は違法?/増える政治系の切り取り動画/国内外で拡散する災害陰謀論【今週のファクトチェック】

外国人への生活保護は違法だと主張する投稿が何度も拡散しています。根拠とされる最高裁判決について検証しました。2024年以降、政治系の切り取り動画の拡散が目立ちます。岩手・大船渡市の山火事では、アメリカでも拡散した陰謀論が再び広がりました。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 今週のファクトチェック トランプ大統領、消費税やガソリン税などを撤廃しない国は関税を10倍に? まとめサイトによるもの 米国のトランプ大統領が「消費税やガソリン税、自動車重量税を撤廃しない国は関税を10倍にすると発表した」と主張する投稿が複数拡散しましたが、誤りです。拡散元はまとめサイトで、見出しは掲示板サイトのスレッドタイトルを引用しているだけです。 トランプ大統領、消費税やガソリン税などを撤廃しない国は関税を10倍に?まとめサイトによるもの【ファクトチェック】米国のトランプ大統領が「消費税やガソリン税、自

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
岩手・大船渡の山火事は兵器によるもの? 災害時の陰謀論に注意【ファクトチェック】(追記と修正あり)

岩手・大船渡の山火事は兵器によるもの? 災害時の陰謀論に注意【ファクトチェック】(追記と修正あり)

岩手県大船渡市の山火事をめぐって「兵器によって起こされた」「スマートシティ化のために狙ってやっている」などの主張が拡散していますが、誤りです。アメリカの火災でも同様の情報がありました。災害時にはこうした陰謀論が拡散します。 検証対象 2025年2月27日頃から、岩手県大船渡市の大規模な山林火災をめぐって「火災は兵器によって引き起こされた」「DEW(指向性兵器)で焼き払っている」「大船渡市のスマートシティ化のために土地を確保して住民を追い払うことを狙って起こされた」などの主張が複数拡散している(例1 、例2、例3)。 中には44万を超える閲覧と1700のリポストを獲得しているものもあり、「狙い済まして町を潰すってときに今後もこういうことが起きますね」「不自然な火事が多すぎる」「やはり立候補地でしたか」など投稿内容を真に受けるコメントが多くついている。 これらの情報に関しては、NHKが「根拠のない情報」「偽情報」などと注意喚起する記事を出している。 検証過程 岩手・大船渡の山火事 2月26日頃、岩手県の大船渡市で山火事が発生した。3月3日の朝までに焼

By 宮本聖二