衆院選の自公過半数割れで石破内閣総辞職? まとめサイトの見出し【ファクトチェック】(追記あり)

衆院選の自公過半数割れで石破内閣総辞職? まとめサイトの見出し【ファクトチェック】(追記あり)

2024年10月27日投開票の衆議院選挙で、自民党と公明党は選挙前の計279議席から64議席減らして215議席となりました。過半数割れが判明した直後、「石破 総辞職へ」という言説が拡散しましたが、誤りです。拡散させたまとめサイトは根拠を示しておらず、石破茂首相は、衆院選から一夜明けた28日午後、記者会見で「現下の厳しい課題に取り組んでいく。職責を果たしてまいりたい」と述べ、続投する意欲を明らかにしています。

検証対象

衆院選では自民党が大きく議席を減らした。公明党と合わせた与党が過半数を下回る状況が判明しつつあった10月27日の夜、「石破 総辞職へ」という言説がX(旧Twitter)で拡散した。28日には110万を超す閲覧があり、リポストも1700を超えた。

この投稿に対しては「石破さんお疲れ様」「やったね!!!それで次は誰がなるの」といったコメントのほか「まだそのような報道はなされていません。ミスリードを招く投稿はやめましょう」という指摘もある。

検証過程

まとめサイトによるもの

検証対象の投稿に添付されたリンクは「Tweeter Breaking News-ツイッ速!」というまとめサイトの記事だ。この記事には、Yahoo!ニュースの「衆院選2024年 開票速報」のリンクがついている。

リンク先は選挙結果を伝える特集ページで、「石破退陣へ」などの内容は書かれていない。特集ページにはFNNプライムオンラインの「もし与党過半数割れなら連立再編か石破退陣か」という記事もあるが、これは開票前の25日に配信されており、選挙後の政局を予測する記事だ。

石破首相「職責を果たしていきたい」

石破首相は28日午後、記者会見で「国民の御批判にきちんと厳粛に適切におこたえをしながら、現下の厳しい課題に取り組んでいく。国民生活と日本を守ることで職責を果たしていきたい」と述べ、政権継続に意欲を示した。

判定

衆院選で与党が過半数を割ったことは事実だが、石破首相は28日午後の会見で辞任の意志は示さず、続投意向である。「石破 総辞職へ」は、まとめサイトの見出しで根拠は示されておらず、誤り。

あとがき

石破首相に対し、退陣を求める声もあります(読売新聞「衆議院選挙:首相の退陣論、自民内で浮上」)。しかし、10月28日現在、石破首相自身は続投する意志を示しています。

報道機関が「内閣総辞職へ」などの記事を出す場合、首相がその意志を政権幹部などに伝え、退陣まで間がないケースです。今回のまとめサイトの例はまったく根拠を示しておらず、取材などの痕跡もないため「誤り」と判定しました。

検証:宮本聖二
編集:古田大輔、藤森かもめ、野上英文

追記

この記事に関して、石破内閣が11月11日に総辞職したことから、「ファクトチェック記事が間違っている」という指摘があります。

日本国憲法70条は「衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったときは、内閣は、総辞職をしなければならない」と定めています。この規定に則り、石破内閣は総辞職をしました。しかし、召集された特別国会で総理指名を受け、第2次石破内閣が誕生しました。

JFCが検証対象とした「ツイッター速報」の「石破 総辞職へ」というまとめ記事は、出典として投開票前の10月25日に公開されたFNNプライムオンラインの記事「もし与党過半数割れなら連立再編か石破退陣か」を挙げています。

つまり、投稿にあった「石破、総辞職へ」は憲法70条の規定による「総辞職」ではなく、10月27日の投開票で過半数割れした石破内閣が責任をとり、総理の座を降りるという意味であることは明らかです。

しかし、大勢が判明した段階から石破氏は退陣を否定していたことから「誤り」と判定しました。そして、実際に第2次石破内閣が発足しました。

JFCのXへのこの記事の投稿にはコミュニティノートがついており、憲法70条の規定があることから、以下のように指摘をしています。

「『石破 総辞職へ』という言説が拡散しましたが、【誤り】です。」という表現は誤解を与える表現です」

たしかに、誤解を与える面がありましたので、今回の追記をつけて、改めて検証対象がなんだったのかを説明しました。ご指摘、ありがとうございました。


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

次々と出現する企業や著名人の偽アカウントに注意 一つの神社だけで100を超える事例も

次々と出現する企業や著名人の偽アカウントに注意 一つの神社だけで100を超える事例も

XやInstagramなどのSNSで、企業や著名人や神社などの公式を装う偽アカウントが続々と出現しています。通報されて削除されても、また新しいものが生まれる状況で、一つの神社だけで100を超える偽アカウントが確認される例もあります。日本ファクトチェックセンターだけでなく、新聞やテレビなどもこの問題を取り上げて来ましたが解決していません。 上野東照宮の偽アカウントが100を超える 東京都台東区にある上野東照宮のX公式アカウントは2025年4月22日、大量の偽アカウントがあると注意喚起の投稿をした。 「Xの上野東照宮偽アカウントが、報告しても報告しても減らず、日に日に増えるばかり、今朝数えたら120ほどありました」 Xでアカウント検索すると、プロフィール欄に「PayPayポイントをプレゼント」と書かれた上野東照宮を騙るアカウントが大量に見つかる。 神社の偽アカウントは他にも確認されている。 東京大神宮(東京都千代田区)のX公式アカウントも4月21日、「偽アカウントの存在が複数確認されました。当宮の写真を使用しておりますが一切関係ございません」と投稿している

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本ファクトチェックセンターは「反日左翼」? データだけ見ると「自民党の犬」? 偽情報の標的と検証対象はどう変わっていくのか

日本ファクトチェックセンターは「反日左翼」? データだけ見ると「自民党の犬」? 偽情報の標的と検証対象はどう変わっていくのか

日本ファクトチェックセンター(JFC)への批判で最も多いのは「偏っている」「検証対象を恣意的に選んでいる」というものです。「JFCは偏っていません」と口だけで反論しても説得力がありません。データを見てみましょう。 「反日」「反自民」などの批判の中身 X上での日本ファクトチェックセンターや筆者(古田)あての批判には、例えば、以下の様なものがあります。 「反日的なファクトチェック」「左翼御用達偏向機関」「反日圧力団体」「立憲民主党のサポーター」 これらの批判の多くに共通するのはJFC編集長(古田)が過去に朝日新聞で働いていたことに言及していることです。批判の論理としては「朝日新聞=反日であり、朝日新聞で働いていた古田も反日であり、現在も朝日新聞の影響下にあると見られる」というものです。 ちなみに古田が朝日新聞を辞めたのは10年前の2015年。以降、取材を受けたことやイベントのゲストに呼ばれたことはありますが、給与をもらったことや何らかの契約を交わしたり、指示を受けたりしたことはありません。また、取材を受けた回数では、朝日よりも読売新聞の方が多いです。 JF

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
ヒカキン氏「サリンは撒かれてよかったと思う」と発言? 捏造した画像【ファクトチェック】

ヒカキン氏「サリンは撒かれてよかったと思う」と発言? 捏造した画像【ファクトチェック】

YouTuberのヒカキン氏が「サリンは撒かれてよかったと思う」と発言したという情報が拡散しましたが、誤りです。ヒカキン氏は過去にそのような投稿をしていません。投稿したアカウントは過去にもヒカキン氏の誤情報を拡散しています。 検証対象 2025年4月22日、「麻原大好きなHIKAKINマジでエグい」という文言と共に、ヒカキン氏のXアカウントが「サリンは撒かれて良かったと思う 今の政治は日本の魚介ぐらい終わってるからな みんなも今は亡き真の聖人麻原様に敬意を払おう」と発言しているかのような画像付き投稿が拡散した。 2025年4月24日現在、この投稿は1000件以上リポストされ、表示回数は615万回を超える。投稿について「ヒカキンさんを見る目が変わったわ」「これガチならエグすぎる」というコメントの一方で「HIKAKINの名を使ってこの記事はやり過ぎ」という指摘もある。 検証過程 投稿主は過去にも誤情報を拡散 今回拡散した投稿を発信した「麻原彰晃名言bot」は、オウム真理教の元代表麻原彰晃(本名・松本智津夫)元死刑囚の名言を紹介するbotを名乗っている。

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本は車の安全試験でボンネットにボウリング球を落とす?  過去に否定された誤情報【ファクトチェック】

日本は車の安全試験でボンネットにボウリング球を落とす? 過去に否定された誤情報【ファクトチェック】

アメリカのトランプ大統領が各国との関税交渉に関連して、非関税障壁の一例として日本ではボウリング球を車に落とす安全試験があると主張しましたが、誤りです。過去にも検証された誤情報です。 検証対象 4月20日、トランプ氏は自らが設立したソーシャルメディアTruth Socialで各国の非関税障壁の例を8つ記して投稿した。6番目に「Protective Technical Standards(保護技術基準)」として「Japan’s bowling ball test(日本のボウリング球テスト)」を挙げている。 検証過程 トランプ氏は、大統領1期目の2018年に同様の発言をしていた。ワシントンポストの当時の記事によると、日本では車体の耐久性を確認するために「ボーリング球テスト」があり、「車のボンネットに20フィート(約6メートル)の高さからボウリング球を落としてへこんだら不合格になる」と演説したという。 ボウリングボールを落とすテストはない 国土交通省によると、日本の自動車の製造・販売業者は、国が定める安全や環境の基準について、43項目の審査に合格したうえで

By 宮本聖二

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)