日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

「外国人による農地取得が全体の3分の2」という言説が拡散しましたが、誤りです。新聞記事を誤読した投稿が拡散しました。

検証対象

2024年7月20日、日本農業新聞の記事を引用して「これやばいだろ?なんで国は規制しない? 外国人による農地取得が全体の3分の2を占めたらしい」という言説が拡散した。


この投稿は43万以上の閲覧と6900のリポストがある。「農地って簡単に買えるの?」「自国の国民のために農地を開拓しているのかもしれない」というコメントのほか、「記事をちゃんと読みましたか」「日本であっても規制はありますよー」といった指摘もある。

「外国人による農地取得が3分の2を占めた」という言説を検証する。

検証過程

言説に添付されたのは、日本農業新聞が2024年7月20日に配信した記事だ。拡散したスクショは「外国人の農地取得 23年は90ヘクタールに 3分の2が国内在住」という見出しで、7月26日朝の時点では「3分の2」が「国内在住の個人・法人中心」に変わっている。

外国資本が「全体の3分の2」ではない

記事の内容は「外国人もしくはその関係法人が2023年に日本国内で取得した農地の面積が計90.6ヘクタールで、その内訳は、日本に住む外国人による取得が60ヘクタール(219人)にのぼり、全体の3分の2を占めた」「日本に住む外国人の関係法人による農地取得は30ヘクタール(20社)だった」となっている。

つまり、外国資本による農地買収(90.6ヘクタール)のうち、3分の2が日本に住む外国人もしくはその関係法人という意味だ。日本国内全体の農地買収における外国資本の割合が3分の2というわけではない。

この記事は、前日の19日の農林水産省のプレスリリースをもとにしている(農水省・「外国法人等による農地取得の調査結果について」)。

外国資本年間の農地売買面積は1%未満

1年間で売買される農地面積(所有権耕作地有償所有権移転)は、農林水産省が公表している(農水省・「農地の移動・借賃等調査」)。

現在公開されている2019-2021年はそれぞれ単位がヘクタールで、3万3594(2019年)、3万7729.6(2020年)、3万1032.7(2021年)となっている。

外国資本が取得した農地90.6ヘクタールは、この3年間の農地売買面積の年平均3万4000ヘクタールから見ると約0.26%だ。

日本ファクトチェックセンター(JFC)が、農水省農地政策課に取材したところ、2022年と23年の売買された農地面積のデータはまだないということだが、2019-21年のデータと変わらないのではないかと話す。

農業従事者の高齢化や後継者不足によって、農地(田畑)面積は年々減少して、2023年には430万ヘクタールになった(農水省・「令和5年耕地面積」)。全農地面積に占める外国人もしくは外国関係企業がどれだけ保有しているかという累積の統計データはない。

農地の売買には規制がある

また、拡散した言説には「規制すべき」とあるが、そもそも農地の売買には規制がある。農地法などに基づき、市町村の農業委員会の許可が原則必要だ(農水省・「農地をめぐる事情について)。

農地法によると「『農地』は耕作に供される土地」であり、さらに「『耕作』は労働及び資本を投じて肥培管理をして、作物を栽培すること」と定義される(徳島市・「農地法上の農地の定義」)。

したがって、農地を購入する場合は、原則は農作物を栽培する耕作地として利用する場合に限られる。農地を転用目的で取得することについても規定があり、その場合は、都道府県知事の許可が原則必要となる(農地法第5条)。

判定

「外国人の農地取得が全体の3分の2」というのは新聞記事の誤読であり、誤り。近年売買された農地面積のうち外国人や関連企業が入手しているのは約0.26%程度。

検証:宮本聖二
編集:古田大輔、野上英文

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、XFacebookYouTubeInstagramでのフォロー・拡散をよろしくお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンからどうぞ。

また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

AIが誤情報を再生産/韓国戒厳令の背景は偽情報とファクトチェックの縮小?【今週のファクトチェック】

AIが誤情報を再生産/韓国戒厳令の背景は偽情報とファクトチェックの縮小?【今週のファクトチェック】

Xが提供する生成AIが、質問に対して過去の誤った情報を取り込んで答えるという事象が起きました。誤情報の再生産です。韓国の尹大統領の非常戒厳宣言の背景に、偽情報の拡散があり、さらにファクトチェックの活動の縮小が関わっているのではないかとNHKが報じました。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 今週のファクトチェック 北九州の中学生殺傷事件、被害者の父親は警察署長?同姓なだけ 2024年12月14日夜、北九州市小倉南区のファストフード店で起きた中学生殺傷事件をめぐって、被害者の父親が福岡県警の警察署長だとする情報が拡散しましたが、誤りです。同姓ですが、県警が否定しています。  北九州の中学生殺傷事件、被害者の父親は警察署長?同姓なだけ【ファクトチェック】2024年12月14日夜、北九州市小倉南区のファストフード店で起きた中学生殺傷事件をめぐって、被害者の父親が福岡県警の警察署長だとす

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
秋田県知事「熊に小型の爆発物を食べさせて爆破すればハンターは必要ない」と発言? 後半部分が捏造【ファクトチェック】

秋田県知事「熊に小型の爆発物を食べさせて爆破すればハンターは必要ない」と発言? 後半部分が捏造【ファクトチェック】

秋田県の佐竹敬久知事が「熊に小型の爆発物を食べさせて爆破すればハンターは必要ない」と発言したとする情報が拡散しましたが、不正確です。拡散した投稿はまとめサイトのXアカウントからで、見出しは掲示板サイトのスレッドタイトルを引用しているだけです。後半部分が捏造です。 検証対象 2024年12月18日、「秋田県知事『熊に小型の爆発物食べさせて爆破すればハンター必要ない』」という情報が拡散した。 2024年12月20日現在、この投稿は340件以上リポストされ、表示回数は8万回を超える。投稿について「狂ってる」「それはちょっと」というコメントの一方で「マジでいった?」という指摘もある。 検証過程 まとめサイトは掲示板サイトのタイトルを引用 検証対象のリンクは、まとめサイト「TweeterBreakingNews-ツイッ速!」の記事だ。 タイトルは掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「【悲報】秋田県知事「熊に小型の爆発物食べさせて爆破すれはハンター必要ない」←🧸」で、読売新聞オンラインが2024年12月17日にライブドアニュースで配信した記事「秋田県知事、ク

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
年金支給開始年齢は80歳からにすべきと小泉進次郎氏が発言? AIが誤情報を再生産【ファクトチェック】

年金支給開始年齢は80歳からにすべきと小泉進次郎氏が発言? AIが誤情報を再生産【ファクトチェック】

「小泉進次郎氏が2024年9月に年金支給開始年齢は80歳からにすべきと発言した」という情報が拡散しましたが、誤りです。拡散した情報はAIが生成したもので、小泉氏の発言は年金受給開始の選択の幅を広げる内容のものでした。 検証対象 2024年12月19日、「忘れっぽい日本国民の皆様のために貼っておきます」という文言と共に、「年金支給開始年齢は80歳からにするべきだと発言していた政治家は誰ですか?」という質問に生成AIが「小泉進次郎です」と回答したという情報が拡散した。 2024年12月20日現在、この投稿は8300件以上リポストされ、表示回数は224万回を超える。投稿について「元取れるの100歳超え」「AIが社会問題解決する」というコメントの一方で「少し調べればデマ」という指摘もある。 検証過程 以前にも拡散した誤情報をAIが再生産 自民党の小泉進次郎氏が「年金支給開始年齢は80歳からにすべき」と発言したという情報は以前にも拡散している。 自民党総裁選に絡んで2024年9月、日刊ゲンダイの記事をもとにしたまとめ記事などによる情報が拡散したもので、日本

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
WHO事務局長が「コロナ感染に効くワクチンは無い」と発言? ワクチン開発前のニュースの切り取り【ファクトチェック】

WHO事務局長が「コロナ感染に効くワクチンは無い」と発言? ワクチン開発前のニュースの切り取り【ファクトチェック】

世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長が「コロナ感染に効くワクチンは無い」と発言したとの主張が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。2020年8月3日の会見で「(新型コロナウイルスの)感染から守ってくれるワクチンをみんなが期待している。しかし現時点で特効薬はなく今後もないかもしれない」と発言していますが、当時は新型コロナウイルスのワクチンを開発中でした。 検証対象 2024年12月18日、「WHO テドロス事務総長 コロナ感染に効くワクチンは無い と言う」などと主張する投稿が拡散した。 投稿にはニュース番組と思われる22秒の動画が添付されている。「WHO ワクチンに期待高まるも「感染から守る特効薬ない」などの字幕が出た後、以下のようにニュースが読み上げられる。 アナウンサー:WHOは、新型コロナウイルスのワクチン開発が進んでいる一方、現時点では感染から守る特効薬はないとして過度な期待に警鐘を鳴らしました。 テドロス事務局長(字幕):感染から守ってくれるワクチンをみんなが期待している。 しかし、現時点で特効薬はなく、今後もないかもしれない。

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)