期日前投票はブラックボックスで不正し放題? 各選管で厳重な対策【ファクトチェック】

期日前投票はブラックボックスで不正し放題? 各選管で厳重な対策【ファクトチェック】

2024年10月27日投開票の衆院選で「期日前投票は完全なブラックボックスで不正し放題」という言説が拡散しましたが、誤りです。各自治体の選挙管理委員会は投票箱に複数の錠をかけたうえで封印し、施錠された倉庫への運び込み・運び出しは複数職員で実施するなど厳重な不正対策を実施しています。

検証対象

衆院選投開票直後の2024年10月28日未明、「不正選挙と言えばムサシと思われがちですが、現在は『期日前投票の入れ替え』がメインです。やり方は、勝たせたい候補者票とゴッソリ入れ替えるという方法ですよ。期日前投票は完全なブラックボックスでセキュリティもガバガバなので、不正し放題なのです」という投稿が拡散した。

投稿に添付された動画には投票所のような場所の手前で、人がピンク色のカギを見せる様子が映っている。100万を超える閲覧があり、3100以上のリポストがついている。

この投稿に関連して「期日前投票はごっそりすげ替えられてしまうんですね」「知らずに期日前投票に行ってしまった」「期日前投票は身分証がなくても投票できる、不正ができちゃうんじゃ…」などの書き込みや動画が並ぶ(例1例2)。

検証過程

期日前投票とは

期日前投票は選挙が始まった翌日(今回の衆院選では10月16日)から投開票日前日までに、期日前投票所で投票できる制度だ(総務省「期日前投票制度の概要」)。

投票日1日だけでは、その日に外せない用事が入っている人が投票できないうえに、投票所が混雑する。期日前投票を実施することで、円滑な投票や投票率アップが期待される。

投票箱は複数の錠がかけられ、夜間は厳重に保管

投票所は市区町村の選挙管理委員会が設置する。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、東京・港区の選挙管理委員会事務局に期日前投票の投票箱の保管方法について取材した。

港区では、期日前投票の期間中は、その日の投票が締め切られると投票箱に錠を2つかける。鍵は封筒に入れ、その日の立会人が封印する。投票箱の錠にもビニールテープを撒いて封印し、複数の職員が、鍵のかかる倉庫に運び、翌朝も複数の職員で運び出す。必ず複数職員で実施するのは相互監視による不正防止のためだ。(東京・港区「期日前投票の夜間保管について」)。

このような不正防止対策は全国の自治体選管で実施しており、その状況を各ホームページなどで解説している。

2つの鍵がかけられた投票箱(福島・いわき市のウェブサイトより)

不正選挙に関する言説

今回の言説には「不正選挙といえばムサシ」という言及もある。「ムサシ」とは投開票に関する機器の大手メーカーで、不正選挙に関与しているという言説が選挙のたびに拡散する。JFCはすでにこのような言説へのファクトチェック記事も出している。

開票機器大手「ムサシ」の筆頭株主は安倍晋三氏で票を操作? 選挙のたびに拡散する誤情報【ファクトチェック】
総選挙に関連して、「開票機器大手の筆頭株主は安倍晋三氏」「不正が行われやすい」という言説が拡散しましたが、誤りです。筆頭株主が安倍氏だったという事実はなく、また開票作業は不正防止のため、機械だけでなく、人の目でも監視しています。 検証対象 2024年10月24日、森友学園事件で有罪判決を受けた籠池泰典氏が「我が国の選挙制度について、本来、手で開票していましたが、いまではムサシという機械が使われています」「ムサシという機械の筆頭株主も、安倍晋三首相とも聞いております」「自動集票することによって、不正が行われやすい状況」と語る過去の動画が再拡散した。投稿には「#ムサシ」のハッシュタグがつけられていた。 2024年10月24日午後2時現在、この投稿は240件以上リポストされ、表示回数は8000件を超える。投稿について「日本も選挙は茶番」「これは大事な情報」というコメントが付いている。 検証過程 筆頭株主は「上毛実業株式会社」 筆頭株主は、企業の有価証券報告書から確認することができる。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、開票システム「ムサシ」を展開す

また、NHKも不正選挙に関する多数の偽・誤情報を検証した記事を公開し、不正対策について説明している(NHK「不正選挙? 選挙に関する“偽情報”を調べてみると…」)。

判定

「期日前投票はブラックボックスで不正し放題」は、誤り。投票箱は夜間は複数の錠をかけて封印し、複数職員で厳重に保管するなどの対策が取られている。

あとがき

選挙時には、政党や立候補者のほか選挙制度やメディアの報道に対する偽・誤情報が拡散します。選挙そのものの信頼性を損なうような言説は、民主主義そのものを傷つけるものでもあります。JFCの選挙に関する様々な偽・誤情報の検証記事や信頼できる情報源について解説記事を参考にしてください。

総選挙の出口調査でメディアは老人だけを選ぶ? サンプル調査のため全員には聞かない【ファクトチェック】
衆議院選挙で報道機関が実施した出口調査について「自分は調査されなかった、報道機関の出口調査は老人ばかり選んでいる」という言説が拡散しましたが、誤りです。出口調査はサンプル調査のため全員には聞かず、世代などによる偏りを避けるために万遍なく聞くように設計されています。 検証対象 2024年10月27日投開票の衆議院選挙で「期日前投票行ったら出口調査やってたんだけど老人は待たせてでもアンケ取ってたのにボクは自然にスルーされてまさかなと思ってしばらく観察してたらマジで老人“だけ”選んで声掛けてたw」という言説がX(旧Twitter)で拡散した。10月28日現在で、670万の閲覧があり、リポストは1万6000を超えている。 この投稿に「いつもそうだね」「老人の人口が多いですからね、この国は」などのコメントの他、「出口調査は各年齢層満遍なく取りますよ」といった書き込みがある。 検証過程 選挙報道に欠かせない出口調査 選挙報道では、選挙前から選挙区の情勢を細かく取材。さらに世論調査や期日前と当日の出口調査(投票所から出てきた人への聞き取り)で、誰がどれだけリード
総選挙で拡散した/する偽・誤情報への「情報のワクチン」【解説】
総選挙がいよいよ始まります。すでに政党や候補者に関する偽・誤情報が次々と拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)は連日検証記事を出しています。すでに拡散したものだけでなく、これから拡散が予想される偽・誤情報も事前にまとめて解説します。 「情報のワクチン」を打つプレバンキング 事前に拡散が予想される偽・誤情報について解説し、人が実際にデマや不確かな情報に接した際の抵抗力を高める手法を「プレバンキング」と言う。 ウイルスに感染しないように事前に備える「情報のワクチン」とも言える手法で、事後的に情報を検証するファクトチェックよりも効果が高いという指摘もある。 筆者(古田)が「選挙で拡散する偽・誤情報、AIの影響は? 標的は候補者だけでなく民主主義」で解説したように、選挙に関する偽・誤情報には世界共通とも言える一定のパターンがある。 今回の記事ではこの類型に基づいて、すでに拡散したものやこれから拡散するものを具体的に紹介・検証し、プレバンキング記事とする。 政党・候補者を直接の標的とした情報 自分が支持する政党や候補を有利にするため、逆に対立する陣営

検証:宮本聖二
編集:藤森かもめ、野上英文、古田大輔

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

ファクトチェックやメディア情報リテラシーについて学びたい方は、こちらの無料講座をご覧ください。ファクトチェッカー認定試験や講師養成講座も提供しています。

理論から実践まで学べるJFCファクチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験
JFCファクトチェック講師養成講座を開講 お申し込みはこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックや関連するメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を開始します。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 開講は10月26日で、お申し込みはこちら。1回の受講で修了となり、今後の開講予定はウェブサイトやニュースレターなどで公開します。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識と行動が偽・誤情報対策として有効かを分析し、誰でも無料で視聴できる「ファクトチェック講座」を2024年7月に公開しまし

もっと見る

JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月30日で、お申し込みはこちら。 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識と行動が偽・誤情報対策として有効かを分析し、誰でも無料で視聴できる「ファクトチェック講座」を

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
米大統領選の世論調査、全米で共和党が勝利?結果を操作できる地図が拡散【ファクトチェック】

米大統領選の世論調査、全米で共和党が勝利?結果を操作できる地図が拡散【ファクトチェック】

「米大統領選の世論調査、全米で共和党が勝利」など、共和党がアメリカのすべての州、あるいはほとんどの州で勝利するという選挙結果の予測地図が拡散しましたが、誤りです。2024年10月時点の各社の選挙予測とは異なります。この地図は、ユーザーが自由に操作できる地図サービスで作成されました。 検証対象 2024年10月14日、アメリカ大統領選の選挙結果予測に関する投稿が複数拡散した(投稿1、投稿2、投稿3)。 投稿1は、「日本国民❗️おい日本国民‼️/アメリカの国民はもうとっくに目を覚ましてんぞ〜‼️」という文言とともに共和党がほとんどの州で優勢になっている地図が添付されている。この投稿は現在削除されているが、10月15日までに5.7万回以上の閲覧回数と6000件以上のリポストを獲得している。 投稿2は「米大統領選の世論調査で、全米がトランプさんと共和党の勝利で真っ赤に染まってます🥳👏👏」と書かれ、すべての州が共和党優勢だ。10月31日現在、5.1万回以上の閲覧回数と180件以上のリポストを得ている。 投稿3は「圧勝じゃないの👍👍👍👍まぁ当然でしょう

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
鳥インフルエンザは鳥から人間に感染しない? 国外では感染、発症例も【ファクトチェック】

鳥インフルエンザは鳥から人間に感染しない? 国外では感染、発症例も【ファクトチェック】

「鳥インフルエンザは鳥から人間に感染しない」という言説が拡散しましたが、誤りです。国外では感染した事例があり、国内でも監視を続けています。 検証対象 2024年10月16日、「鳥から人間に感染しないのに、何でこんなニュースをやるのか」「卵を食べても感染しない、鶏肉を食べても感染しない」などと書かれた投稿が拡散した。 検証過程 リンクにあるNHKニュースには 投稿には鳥インフルに関連するNHKニュース記事「鳥インフル 北海道の野鳥で検出 対応レベルを引き上げ 環境省」へのリンクがある。 記事は、北海道内の2か所で見つかった野鳥の死骸などから高病原性の鳥インフルエンザウイルスが検出され、環境省が全国の対応レベルを最も高い「3」に引き上げたことを伝えている。 記事の後半では「鳥インフルエンザウイルスは感染した鳥と過度な接触をしない限り、人には感染しないとみられる」と書いている。 鳥ーヒト感染は国外では発生 鳥インフルエンザは、A型インフルエンザウイルス(H5N1亜型)が病原体で、鳥類(主に水禽類)に感染する。2021年以降、世界的な感染拡大で野生

By 宮本聖二
テレ朝でAIが「間違いなく不正選挙」「若者の多くは参政党にしか興味がない」などと発言?  改変された動画【ファクトチェック】

テレ朝でAIが「間違いなく不正選挙」「若者の多くは参政党にしか興味がない」などと発言? 改変された動画【ファクトチェック】

2024年10月27日投開票の衆院選で当選した自民党の河野太郎氏について、テレビ朝日の選挙特番でAIが「間違いなく不正選挙」「若者の多くは参政党にしか興味がない」などと発言している動画が拡散しましたが、誤りです。AIへの質問と回答の音声を改変したもので、実際の放送とは異なります。 検証対象 2024年10月29日、テレビ朝日の選挙特番「選挙ステーション」でコメンテーター役を務めたAIが「人工知能が選挙解析 不正選挙 確定と判定した」「人工知能が選挙不正を発見 河野太郎の当選は不正です」などと発言する動画主張する動画が拡散した(例1、例2)。 これらの投稿には「デマ」「フェイク動画」などの指摘もある。 一方、「テレ朝の番組かな?主流メディアとしては、知られたくない回答内容だと思うが、良く放送したものと驚いた」「デジタル大臣のくせにAIにまで否定されてるの草超えて花畑」といったコメントが付いており、この動画を信じてしまう人が一定数いることを示している。 検証過程 動画に映る「AIコメンテーター」 拡散した投稿は複数あるが、いずれも同じ49秒間の動画が

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)