テレ朝でAIが「間違いなく不正選挙」「若者の多くは参政党にしか興味がない」などと発言? 改変された動画【ファクトチェック】

テレ朝でAIが「間違いなく不正選挙」「若者の多くは参政党にしか興味がない」などと発言?  改変された動画【ファクトチェック】

2024年10月27日投開票の衆院選で当選した自民党の河野太郎氏について、テレビ朝日の選挙特番でAIが「間違いなく不正選挙」「若者の多くは参政党にしか興味がない」などと発言している動画が拡散しましたが、誤りです。AIへの質問と回答の音声を改変したもので、実際の放送とは異なります。

検証対象

2024年10月29日、テレビ朝日の選挙特番「選挙ステーション」でコメンテーター役を務めたAIが「人工知能が選挙解析 不正選挙 確定と判定した」「人工知能が選挙不正を発見 河野太郎の当選は不正です」などと発言する動画主張する動画が拡散した(例1例2)。

これらの投稿には「デマ」「フェイク動画」などの指摘もある。

一方、「テレ朝の番組かな?主流メディアとしては、知られたくない回答内容だと思うが、良く放送したものと驚いた」「デジタル大臣のくせにAIにまで否定されてるの草超えて花畑」といったコメントが付いており、この動画を信じてしまう人が一定数いることを示している。

検証過程

動画に映る「AIコメンテーター」

拡散した投稿は複数あるが、いずれも同じ49秒間の動画が添付されている。投開票日の夜に放送されたテレビ朝日の選挙特番「選挙ステーション」の映像で、ニュースキャスターの大越健介氏や大下容子氏らが並ぶスタジオの前面にコメンテーター役を務めるAIが映っている。

このAIは「エレク」という名前で番組のコメンテーターを務めており、テレビ朝日の説明によると、その発言内容は「JX通信社協力のもと、18歳から29歳までの2000人あまりのデータを集め、それをテレビ朝日のAIに取り込ませるなどして分析したもの」だという。

拡散した動画の音声

拡散した動画では、まず抑揚のない人工音声のような声で「snsで散々叩かれていて 国民に嫌われている全く人気のない河野太郎が開票と同時に当確したことについての真実を分析して」とエレクに質問している。

それに対する回答は「先ず若者の多くが河野太郎に不信感を抱いている中での当確は確率的に分析すると0.0002%になるため間違いなく不正選挙です」「若者の多くは参政党にしか興味がないことも不正を示す指標になるでしょう」「コンプライアンスを重視するためこれ以上の質問はブロックします あしからず」だ。

元動画の内容は

日本ファクトチェックセンター(JFC)が「若者は衆院選で何を選択?AIコメンテーター『エレク』が分析①」の文言で検索すると、報道ステーションの公式アカウントがTikTokに投稿したショート動画がヒットした。動画の下部には「報道STATION DIGEST」の表示がある。

この公式動画は53秒間。拡散した動画のような人工音声での質問ではなく、大下アナウンサーがエレクに次のように質問している。

「自公の獲得議席が過半数を割る情勢となっています。この結果について、若者の投票の意向を調査したデータからどんな分析ができますか。具体的に話してください」

エレクの回答は以下の通りだ。

「若者の多くが『経済対策』や『誠実さ』を重視しており、これが自公以外の政党への支持を後押ししている可能性があります。また、若者の約74%が日本の政治に期待していないと答えており、現状に対する不満が自公以外の選択肢を模索する動きにつながっているかもしれません。さらに、若者の中で国民民主党や立憲民主党への支持が一定数見られており、これらの政党が若者のニーズに応える制作を打ち出していることが影響していると考えられます」

拡散した動画とは質問・回答ともに全く異なり、河野太郎氏に関する不正選挙や参政党への支持については一切触れられていない。

判定

テレビ朝日の選挙特番内でAIが河野太郎氏の当選について「間違いなく不正選挙です」「若者の多くは参政党にしか興味がない」などと発言している動画は誤り。テレビ朝日がTikTokに投稿した動画の音声を改変しており、実際の報道内容とは異なる。

あとがき

選挙の後には「不正選挙だ」という主張が多くなされます。JFCでもこれまでに複数の選挙不正を訴える言説を検証し、いずれも「誤り」と判定しました。

愛知県知事選で不正選挙があった?【ファクトチェック】
2月に投開票された愛知県知事選挙で「不正選挙の疑い」との言説が拡散していますが誤りです。「開票率・得票率0%の段階で『当選』と発表」を根拠とした主張ですが、これはメディアが事前の出口調査などで投票締め切りと同時に当選確実とみなす「ゼロ票当打ち」によるものです。 検証対象 2023年2月5日に投開票された愛知県知事選をめぐって、不正選挙だというツイートが拡散した。開票率・得票率0%で当選が発表されたことを不正の根拠としており、表示回数は41万回、リツイートは3000件を超えている(2月13日現在)。 このツイートにリンクがある同名のサイトの記事には「ネット上の反応」として、「大村知事は不正選挙によって当選したのではないか」「最初から出来レースだったのではないか」などの声が紹介されており、不正を疑う根拠として「開票率・得票率ともにまだ0%の段階で、大村知事の当選が決まったかのように『当選マーク』が表示」と指摘されている。 このツイートのリプライには「え 不正だったってま?」「なんとかジャンプって、大統領選でありましたね」「ムサシは怪しい」など、不正選挙説を信じ
アルフィヤ候補に1分で6000票も、不正疑惑?有効票の確認によるもので開票速報では一般的【ファクトチェック】
衆議院補選千葉5区で初当選した英利アルフィヤ候補の得票数について、NHKの報道を元に開票中に1人の候補者だけ「1分で6000票が増える」不審な動きがあったかのような投稿が拡散していますが、誤りです。千葉県選挙管理委員会の発表に異常な動きはありません。開票所の一部でアルフィヤ候補への投票の表記が有効か無効か確認する作業があり、その後に確認された得票分が一気に加算された、とNHKは報じています。 検証対象 2023年4月23日に投開票があった衆院補選千葉5区で、初当選した自民党の英利アルフィヤ候補の開票で不正があったと疑う情報が拡散した。 投稿は、NHK開票速報の画像と共に「1分で6000票 たまたまやんね?w」などのコメントがつけられている。矢崎堅太郎候補(立憲民主)が4万4000票で変わらないなか、1分の差で英利アルフィヤ候補の票数だけが急激に増えたように見えると指摘している(例1、例2)。表示回数が40万件、引用を含めたリツイート数が3000件を超えるものなど複数の投稿がある。 投稿のハッシュタグには、2020年アメリカ大統領選で「票が急激に増えた」と指

このような主張は荒唐無稽な陰謀論に思えますが、過去には2020年の米国大統領選で敗北したトランプ氏やその支持者たちが不正選挙を主張し、翌年1月6日の連邦議事堂襲撃事件で死者を出すまでに至りました。

選挙の正当性を疑わせるような偽情報は民主主義を支える選挙制度そのものへの信頼を揺るがしかねません。健全な民主主義と自由な言論環境を守るためにも、疑わしい情報は投稿や拡散をする前に慎重に事実を確認する必要があります。

これまでにJFCは選挙に関する偽・誤情報に対して党派や主義主張を問わずファクトチェックしています。選挙で拡散しがちな偽・誤情報の解説記事も参考にしてください。

選挙で拡散する偽・誤情報、AIの影響は? 標的は候補者だけでなく民主主義【解説】
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検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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メガソーラーにまつわる情報、すべて「誤り」とは言えない理由/JFC検証など11本【今週のファクトチェック】

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猛暑が続いた今年の夏は、太陽光発電に関わる誤情報が大量に拡散しました。「メガソーラーが温暖化の原因だ」というような投稿です。日本ファクトチェックセンター(JFC)は専門家らに取材して、すでにこれらの投稿が誤りであると検証しています。 一方で難しいのが「水害の原因だ」というような投稿です。被害の発生地と明らかに異なっている場合は「誤り」と言えますが、災害発生直後で、原因がはっきりしないことも多く、そのような場合は「根拠不明」、または、さらなる調査を待つ必要があります。 こういった情報は、太陽光発電など再生可能エネルギーに否定的な人たちの間で拡散する傾向がありますが、生態系の破壊を懸念する人たちの間でも広がります。メガソーラーが環境に与える影響については、慎重な検討が必要でしょう。 今週の解説記事は、ファクトチェックにとどまらず、メガソーラーが抱えるそういった課題も紹介しています。(古田大輔) ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターで

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米NYタイムズ「自民・高市氏が首相になった」と報じた? 4年前の記事を誤訳【ファクトチェック】

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