アメリカでは帰化して三世代おかないと政治家になれない? 大統領や連邦議会議員に親の国籍は関係ない【ファクトチェック】

アメリカでは帰化して三世代おかないと政治家になれない? 大統領や連邦議会議員に親の国籍は関係ない【ファクトチェック】

「アメリカでは帰化して三代、間におかないと政治家になれない」という言説が拡散しましたが、誤りです。大統領や連邦議会上下院議員になるために、年齢や在住期間の規定はありますが、親の国籍は関係ありません。また、添付画像は日本に関する「帰化した国会議員」のリストですが、実際に帰化した人物はわずかで、ほとんどが誤ったものです。

検証対象

2024年11月3日、X(旧Twitter)で「米国では帰化してから3代間にないと選挙に出られない、つまり政治家になれない」という言説が拡散した。11月19日現在、230万以上の閲覧と1万件を超えるコメントがついている。

誤った個人名が拡散しないようにぼかしを入れています(JFC注)

コメントには「日本も規制した方がいいですね」「日本も帰化3世までは立候補出ないようにする必要がある」などと同調する意見が続く一方で、「米国で、流石に三世代はないです。」という指摘もある。

検証過程

大統領と連邦議会上下院議員の資格要件を調べると、合衆国憲法に規定がある。

米国大統領の資格要件

合衆国憲法では、大統領は年齢35歳以上であること、生まれながらのアメリカ国民であること、最低14年間アメリカに居住していることの3つを要件にしている。(Constitution Annoted)。

米連邦議会上院議員の資格要件

合衆国憲法で、上院議員は年齢30歳以上、米国市民権を得て9年以上、選挙時に選出された州に居住していること、この3つを要件にしている(Constitution Annoted)。

米連邦議会下院議員の資格要件

合衆国憲法で、下院議員は年齢25歳以上、米国市民権を得て7年以上、選挙時に選出された州に居住していること、この3つを要件にしている(Constitution Annoted)。

つまり、大統領や連邦議会議員の資格には「生まれながらのアメリカ国民」や「一定の年齢」などの要件はあるが、親や祖父母の国籍や出身国は関係しない。

ホワイトハウスの公式サイトなどによると、2024年の米大統領選で敗れたカマラ・ハリス副大統領は、父親がジャマイカ出身、母親がインド出身であり、ホワイトハウスのウェブサイトに「移民の子として生まれた」と記載されている(The White HouseNHK)。

2008年に大統領に選出されたバラク・オバマ氏は、父親がケニア人だ(The White House)。

日本の議員のリストはほとんどが誤り

言説には、「帰化した国会議員」という見出しの画像がつき、国会議員の名前が並んでいる。2011年に発行された「國民新聞」の紙面の一部だ。日本ファクトチェックセンター(JFC)は国会図書館で現物を確認した。

この新聞は、明治期に徳富蘇峰が創刊した「國民新聞」とは別のもの。政治団体が発行していたが、現在は休刊している。

記事の冒頭には「日本会議埼玉支部の吉田滋相談役が入手した『帰化人国会議一覧』によると民主党所属議員(元職を含む)が最多だった」とあり、小沢一郎氏、菅直人氏、故土井たか子氏など、当時の国会議員の名前が並ぶ。

帰化した人は官報に掲載され、国会図書館などで調べることができる。日本ファクトチェックセンター(JFC)が画像からフルネームが読み取れるすべての政治家を調べたところ、帰化を確認したのは、白眞勲氏とツルネン・マルテイ氏だけだった。

この國民新聞の記事をもとにしたブログが2013年に拡散し、在日だと名指しされた自民党の河野太郎衆院議員が「法的措置も検討」とTwitter(現X)に投稿。現在、そのブログは消去されている。

判定

「アメリカでは帰化して三代、間におかないと政治家になれない」という言説が拡散したが、誤り。大統領も連邦議会上下院議員も、年齢や在住期間の規定はあるが、親の国籍は関係ない。また、拡散した画像も実際に帰化が確認できた人物は二人で、ほぼ誤り。

あとがき

日本では、国会議員をはじめ都道府県知事、都道府県議会議員、市区町村長、市区町村議会議員は、日本国民であることが条件になっています(総務省)。

これまでも日本の歴代内閣総理大臣の多くが帰化しているなどの言説が繰り返し拡散しています。JFCはこうした言説の検証記事を書いています。参考にしてください。

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検証:宮本聖二
編集:藤森かもめ、野上英文、古田大輔


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