「愛知県知事選で不正選挙があった」は誤り【ファクトチェック】

「愛知県知事選で不正選挙があった」は誤り【ファクトチェック】

2月に投開票された愛知県知事選挙で「不正選挙の疑い」との言説が拡散していますが誤りです。「開票率・得票率0%の段階で『当選』と発表」を根拠とした主張ですが、これはメディアが事前の出口調査などで投票締め切りと同時に当選確実とみなす「ゼロ票当打ち」によるものです。

検証対象

2023年2月5日に投開票された愛知県知事選をめぐって、不正選挙だというツイートが拡散した。開票率・得票率0%で当選が発表されたことを不正の根拠としており、表示回数は41万回、リツイートは3000件を超えている(2月13日現在)。

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このツイートにリンクがある同名のサイトの記事には「ネット上の反応」として、「大村知事は不正選挙によって当選したのではないか」「最初から出来レースだったのではないか」などの声が紹介されており、不正を疑う根拠として「開票率・得票率ともにまだ0%の段階で、大村知事の当選が決まったかのように『当選マーク』が表示」と指摘されている。

このツイートのリプライには「え 不正だったってま?」「なんとかジャンプって、大統領選でありましたね」「ムサシは怪しい」など、不正選挙説を信じているかのようなコメントが寄せられている。

この「RAPT理論+α」と呼ばれるアカウントは「真実を伝えるニュースサイト」と名乗り、ゼレンスキー大統領と中国共産党などが繋がり、ユダヤ人富豪の支援を受けて世界統一政府の樹立を目指しているなどと主張する記事を掲載している。

RAPT理論とは、ツイッターやYouTube、ブログなどで拡散している言説。取り上げるテーマは多岐に渡り、明確な根拠を示さずに特定の人物や団体を結びつけるような内容が多い。

検証過程

愛知県知事選は2023年2月5日の投票締切と同時刻の午後8時ちょうどに、NHK東海テレビ放送などのメディアが一斉に大村候補(推薦:自民党愛知県連、立憲民主党、公明党、国民民主党)の当選を報じた。

大村候補はこれを受けて直後に万歳三唱をしている(名古屋テレビ放送)。したがって、開票率・得票率が0%なのに当選確実の報道がなされ、万歳三唱しているのは事実だ。

しかし、これは不正選挙の根拠とはならない。

報道業界では、開票率・得票率が0%の段階で「当選確実」と報じることを「ゼロ票当打ち」などと呼び、選挙結果の報道ではごく一般的な手法だ。

担当記者らが選挙前から、選挙区の情勢を細かく取材。さらに世論調査や期日前と当日の出口調査などで、誰がどれだけリードしているかを予想し、逆転不可能なほどに差が開いている場合に、ゼロ票当打ちがなされる。衆院選や参院選などの国政選挙で、投票締切と同時に選挙結果の大勢が報じられるのはそのためだ。

こういったゼロ票当打ちについては、各メディアの選挙担当者や有識者らが語った舞台裏の記事なども多数出ている(BuzzFeed Japan)(東洋経済オンライン)(読売新聞)。

また、最終的に愛知県知事選の開票率100%での結果は、大村候補が得票数145万2648票で有効投票数に占める得票率67.5%、2位の尾形慶子候補で得票数25万1263票となっている(県選挙管理委員会)。

判定

以上のことから、開票率・得票率0%で当選が報じられたことを根拠に愛知県知事選は不正選挙とする主張は誤り。

あとがき

不正選挙に関する言説の多くは、荒唐無稽であるかのように思われます。しかし、2020年秋のアメリカ大統領選挙の後には数多くの誤情報/偽情報が発信され、日本でも拡散しました。トランプ前大統領が当選したと主張するデモは、東京や大阪など日本各地でも実施されました。日本国内の選挙でも「選挙機材メーカー・ムサシが不正選挙に加担している」という言説が選挙のたびに拡散しており、私たちと無縁ではありません。

2021年1月のアメリカ連邦議事堂襲撃事件や2022年12月のブラジルでの暴動は不正選挙という主張を信じた人々によって起きた事件でした。民主主義を揺るがす事態が発生するのを防ぐためにも、選挙についての情報を発信したり、拡散したりする際には、慎重に事実を見極めることが求められます。

検証:リサーチチーム
編集:藤森かもめ、古田大輔

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