都知事選めぐる誤情報/TikTokをNHKが独自調査/アメリカで偽情報研究拠点に閉鎖報道【今週のファクトチェック】

都知事選めぐる誤情報/TikTokをNHKが独自調査/アメリカで偽情報研究拠点に閉鎖報道【今週のファクトチェック】

東京都知事選が始まり、候補者や報道に関する偽・誤情報が拡散しています。日本でもTikTokで誤情報が拡散していることを調査したNHK報道や、アメリカでの偽情報の研究拠点の閉鎖をめぐる報道などを紹介します。

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JFCのファクトチェック記事

鳥インフルエンザワクチン接種に反対する人は逮捕される?

「世界保健機関(WHO)加盟国が鳥インフルエンザワクチンの接種に反対する国民を逮捕することに合意」という言説が拡散していますが、誤りです。厚生労働省は「合意した事実はない」と否定し、そもそもWHO年次総会でも議論されていません。

鳥インフルエンザワクチン接種に反対する人は逮捕される?【ファクトチェック】
「世界保健機関(WHO)加盟国が鳥インフルエンザワクチンの接種に反対する国民を逮捕することに合意」という言説が拡散していますが、誤りです。厚生労働省は「合意した事実はない」と否定し、そもそもWHO年次総会でも議論されていません。 検証対象 2024年6月7日、「WHO加盟194カ国が、鳥インフルエンザワクチンの接種に反対する国民を逮捕することに合意」という言説が、WHOのテドロス事務局長の写真とともに拡散した。 6月17日現在12万を超える閲覧があり、「WHOなんかいらない」「鳥インフルエンザワクチンに反対します」といったものから「こんなもん合意するはずが…」など疑問視するコメントもある。 検証過程 鳥インフルの流行と厚労省の対応 鳥インフルエンザは、感染した鳥に濃厚接触した場合など、まれに人に感染する。現在はヒト-ヒトで持続的な感染が起こっている段階ではないが、今後ヒト-ヒトで持続的な感染がおこり、新型インフルエンザになる危険性もある(厚生労働省・鳥インフルエンザに関するQ&A)。 日本もWHO加盟国の一つ。日本ファクトチェックセンター(JFC

日本がウクライナに10年間で58兆円を支払う?

「日本政府が10年間でウクライナに58兆円を支払い、それを年金に充てる」という言説が拡散していますが、誤りです。58兆円は、ウクライナの復興に必要な総額の試算として世界銀行や国連が2023年3月に出したもので、日本が全額を負担するわけではありません。

日本がウクライナに10年間で58兆円を支払う?【ファクトチェック】
「日本政府が10年間でウクライナに58兆円を支払い、それを年金に充てる」という言説が拡散していますが、誤りです。58兆円は、ウクライナの復興に必要な総額の試算として世界銀行や国連が2023年3月に出したもので、日本が全額を負担するわけではありません。 検証対象 ロシアに侵略されているウクライナを支援するために「日本が58兆円を支払う」という言説が繰り返し拡散している(例1,2)。 「10年間で58兆円をウクライナ人の年金に充てるそうです」というX(旧Twitter)上の投稿は6月20日現在20万以上の閲覧数があり、TikTokなどでも繰り返し、拡散している。 検証過程 映像は2023年3月の岸田首相のウクライナ訪問 拡散したX につけられたTikTok動画のスクリーンショットを画像検索すると、2023年3月に岸田首相がウクライナを訪問して首脳会談をした際の映像だとわかる。 この会談で、岸田首相は「総額71億ドルの支援を着実に実施していく」と表明している(外務省「日・ウクライナ首脳会談」)。 2024年6月の首脳会談では 2024年6月13日

小池百合子都知事が都議会で自身に批判的な議員を退席させた?

小池百合子都知事が都議会で自身に批判的な発言をした議員を退席させたという言説が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。小池都知事に批判的な発言をした都議が委員会で退席を命じられたことは事実ですが、発言の取消しを求める動議について、当事者は議事に参加できないという条例にそった対応です。

小池百合子都知事が都議会で自身に批判的な議員を退席させた?【ファクトチェック】
小池百合子都知事が都議会で自身に批判的な発言をした議員を退席させたという言説が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。小池都知事に批判的な発言をした都議が委員会で退席を命じられたことは事実ですが、発言の取消しを求める動議について、当事者は議事に参加できないという条例にそった対応です。 検証対象 小池都知事が自身を批判した都議を退席させたという言説が動画とともに拡散している。 2024年6月11日に拡散したX(旧Twitter)上の投稿には動画とともに「小池百合子って都議会でこんなんなんや」「独裁者に刃向かえば退席させられるねんよ」などといったコメントもついていた。 2024年6月20日現在、このポストは1.2万件以上リポストされ、表示回数は65万件を超える。また、TikTokではこの動画が複数のバージョンで拡散している。 検証過程 拡散した動画は57秒に編集されている 添付された動画は57秒間。まず、「3月13日都議会予算特別委員会」の様子として、関口健太郎都議(立憲民主党)が以下のように発言する様子が映っている。 「知事の答弁拒否率は76%」

東京都知事選、NHKニュースで紹介する候補者の順番が不自然?

東京都知事選に関して「NHKがニュースで報じる候補者の順番が不自然」と、一部の候補を贔屓しているかのような言説が拡散しましたが、誤りです。NHKは候補者を届け出順に紹介しています。

東京都知事選、NHKニュースで紹介する候補者の順番が不自然?【ファクトチェック】
東京都知事選に関して「NHKがニュースで報じる候補者の順番が不自然」と、一部の候補を贔屓しているかのような言説が拡散しましたが、誤りです。NHKは候補者を届け出順に紹介しています。 検証対象 2024年6月20日に告示された東京都知事選報道をめぐって、NHKのニュースで放送した候補者の演説の順番が不自然だという言説が拡散した。小池都知事が最初で、元参院議員の蓮舫氏が5番目だったことから「発言の印象を弱めるためではないか」と指摘している。 このXの投稿は、6月22日現在38万を超える閲覧がある。「届出順のはずだ」というコメントが数多くついている一方、「人気順でじゃね?」と言った反応もあった。 検証過程 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、20日のNHKニュース7を視聴した。 都知事選のニュースでは、まず立候補者56人全員を顔写真と名前(字幕)で紹介。その後、小池百合子知事の紹介と演説を放送した。名前と三期目を目指すといった7秒間の紹介コメントをつけて、編集した演説を放送した。演説の放送尺は26秒間だった。 その次に放送したのは、広島・安芸高

今週のJFC動画

感染症の世界的大流行の予防や対策を強化する「パンデミック条約」をめぐり、「ワクチンを強制接種させる条約だ」という言説が拡散しましたが、誤りです。条約案にはワクチンの強制接種を求める文言はありません。

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TikTokにあふれる誤情報… 総再生数は3億回超

若者に人気のTikTok。しかし、誤情報や根拠のない情報を含む動画が数多くあり、総再生回数が3億回を超えることがわかったとNHKが独自に分析しました。

【独自検証】TikTokにあふれる誤情報… 総再生数は3億回超に | NHK
【NHK】自分の好みに合った短い動画を次々と気軽に見られ、若い世代で利用が増えている「TikTok」。NHKが投稿されている動画を…

米大学「偽情報」研究の主要拠点に「閉鎖」報道、相次ぐ圧力受け

スタンフォード大学の偽情報研究拠点が「閉鎖」と報道されました。大学は否定していますが、偽・誤情報対策への保守派からの圧力の一環と指摘されています。JFC運営委員でもある平和博・桜美林大教授の記事です。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/95aadb828dbde4a439528213fc8565905a712df5

ネットの偽情報を学生が通報 「学生サイバーパトロールコラボレイター」に群馬県警が40人委嘱

群馬県警はネット上にある偽のサイトや情報を発見し通報する「学生サイバーパトロールコラボレイター」に、学生40人を委嘱した、と上毛新聞が報じています。

ネットの偽情報を学生が通報 「学生サイバーパトロールコラボレイター」に群馬県警が40人委嘱 | 上毛新聞社のニュースサイト
群馬県警は、インターネット上にある偽のサイトや情報を発見し通報する「学生サイバーパトロールコラボレイター」に、学生40人を委嘱した。 前橋市の県警本部で委嘱式を行った。県警サイバーセンターの武島…

英国総選挙、リフォームUKに誘導するボットによるコンテンツが溢れている?

7月4日投票の総選挙を前に、イギリスではEUからの離脱や反ロックダウンを訴えてきた政党「リフォームUK」への支持を訴える大量のコンテンツが様々なプラットフォームにあふれていて、ボットではないかとBBCが報じています。

Are fake pro-Reform UK social accounts influencing the election?
The BBC traces people behind social media profiles posting hundreds of repetitive messages backing Reform UK.


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次々と出現する企業や著名人の偽アカウントに注意 一つの神社だけで100を超える事例も

次々と出現する企業や著名人の偽アカウントに注意 一つの神社だけで100を超える事例も

XやInstagramなどのSNSで、企業や著名人や神社などの公式を装う偽アカウントが続々と出現しています。通報されて削除されても、また新しいものが生まれる状況で、一つの神社だけで100を超える偽アカウントが確認される例もあります。日本ファクトチェックセンターだけでなく、新聞やテレビなどもこの問題を取り上げて来ましたが解決していません。 上野東照宮の偽アカウントが100を超える 東京都台東区にある上野東照宮のX公式アカウントは2025年4月22日、大量の偽アカウントがあると注意喚起の投稿をした。 「Xの上野東照宮偽アカウントが、報告しても報告しても減らず、日に日に増えるばかり、今朝数えたら120ほどありました」 Xでアカウント検索すると、プロフィール欄に「PayPayポイントをプレゼント」と書かれた上野東照宮を騙るアカウントが大量に見つかる。 神社の偽アカウントは他にも確認されている。 東京大神宮(東京都千代田区)のX公式アカウントも4月21日、「偽アカウントの存在が複数確認されました。当宮の写真を使用しておりますが一切関係ございません」と投稿している

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本ファクトチェックセンターは「反日左翼」? データだけ見ると「自民党の犬」? 偽情報の標的と検証対象はどう変わっていくのか

日本ファクトチェックセンターは「反日左翼」? データだけ見ると「自民党の犬」? 偽情報の標的と検証対象はどう変わっていくのか

日本ファクトチェックセンター(JFC)への批判で最も多いのは「偏っている」「検証対象を恣意的に選んでいる」というものです。「JFCは偏っていません」と口だけで反論しても説得力がありません。データを見てみましょう。 「反日」「反自民」などの批判の中身 X上での日本ファクトチェックセンターや筆者(古田)あての批判には、例えば、以下の様なものがあります。 「反日的なファクトチェック」「左翼御用達偏向機関」「反日圧力団体」「立憲民主党のサポーター」 これらの批判の多くに共通するのはJFC編集長(古田)が過去に朝日新聞で働いていたことに言及していることです。批判の論理としては「朝日新聞=反日であり、朝日新聞で働いていた古田も反日であり、現在も朝日新聞の影響下にあると見られる」というものです。 ちなみに古田が朝日新聞を辞めたのは10年前の2015年。以降、取材を受けたことやイベントのゲストに呼ばれたことはありますが、給与をもらったことや何らかの契約を交わしたり、指示を受けたりしたことはありません。また、取材を受けた回数では、朝日よりも読売新聞の方が多いです。 JF

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
ヒカキン氏「サリンは撒かれてよかったと思う」と発言? 捏造した画像【ファクトチェック】

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YouTuberのヒカキン氏が「サリンは撒かれてよかったと思う」と発言したという情報が拡散しましたが、誤りです。ヒカキン氏は過去にそのような投稿をしていません。投稿したアカウントは過去にもヒカキン氏の誤情報を拡散しています。 検証対象 2025年4月22日、「麻原大好きなHIKAKINマジでエグい」という文言と共に、ヒカキン氏のXアカウントが「サリンは撒かれて良かったと思う 今の政治は日本の魚介ぐらい終わってるからな みんなも今は亡き真の聖人麻原様に敬意を払おう」と発言しているかのような画像付き投稿が拡散した。 2025年4月24日現在、この投稿は1000件以上リポストされ、表示回数は615万回を超える。投稿について「ヒカキンさんを見る目が変わったわ」「これガチならエグすぎる」というコメントの一方で「HIKAKINの名を使ってこの記事はやり過ぎ」という指摘もある。 検証過程 投稿主は過去にも誤情報を拡散 今回拡散した投稿を発信した「麻原彰晃名言bot」は、オウム真理教の元代表麻原彰晃(本名・松本智津夫)元死刑囚の名言を紹介するbotを名乗っている。

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本は車の安全試験でボンネットにボウリング球を落とす?  過去に否定された誤情報【ファクトチェック】

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アメリカのトランプ大統領が各国との関税交渉に関連して、非関税障壁の一例として日本ではボウリング球を車に落とす安全試験があると主張しましたが、誤りです。過去にも検証された誤情報です。 検証対象 4月20日、トランプ氏は自らが設立したソーシャルメディアTruth Socialで各国の非関税障壁の例を8つ記して投稿した。6番目に「Protective Technical Standards(保護技術基準)」として「Japan’s bowling ball test(日本のボウリング球テスト)」を挙げている。 検証過程 トランプ氏は、大統領1期目の2018年に同様の発言をしていた。ワシントンポストの当時の記事によると、日本では車体の耐久性を確認するために「ボーリング球テスト」があり、「車のボンネットに20フィート(約6メートル)の高さからボウリング球を落としてへこんだら不合格になる」と演説したという。 ボウリングボールを落とすテストはない 国土交通省によると、日本の自動車の製造・販売業者は、国が定める安全や環境の基準について、43項目の審査に合格したうえで

By 宮本聖二

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

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日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)