選挙、兵庫県知事、偽広告... 2024年の10大ファクトチェックは
2024年はこれまで以上に大量の誤情報/偽情報が拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)は1年間で330件(2023年173件)の検証記事、50件の解説記事や教育講座を公開しました。
選挙の年だっただけに、最も多く検証した話題は「政治」で、全体の32.1%を占めました。2位「国際」(16.8%)はアメリカ大統領選やトランプ次期大統領がらみの情報が目立ちました。3位「災害」(9.2%)は主に能登半島地震です。
この記事は2024年に拡散した偽・誤情報やその検証の中でも影響が大きく、注目を集めたものをまとめました。選考基準は読まれた回数だけでなく、ソーシャルメディアでの反応、社会的な影響の大きさなども加味しました。
誤った情報は繰り返し拡散します。間違いだと知りつつ故意に発信する人もいれば、正しいと信じて拡散する人もいます。まとめ記事で傾向を知ることは、2025年に同様のフェイクニュースが拡散することを防ぐことにも役立ちます。
情報生態系の混乱は、さらに拡大していくでしょう。備えるためにも、ぜひ御覧ください。良いお年を。
能登半島地震
1月1日に発生した能登半島地震に関連して、大量の偽・誤情報が溢れた。海外のアカウントが「偽の救助要請」を大量に拡散させたことは、ソーシャルメディア規制の議論にもつながった。
「実際と異なる被害投稿」「偽の救助要請」「偽の寄付募集」「根拠のない犯罪情報」などは、災害時に広がる典型的な偽情報で、能登半島でも同様だった。
発災直後に広がる「被害投稿」「救助要請」などだけでなく、時間が経ってからは、避難所に関する情報、政府や自治体の支援、ボランティア絡みなどの誤った情報が拡散しやすい。災害という注目を集める事象には、偽・誤情報がつきものだということを知って備える必要がある。
偽広告/詐欺
偽広告や詐欺の被害は拡大している。これは世界的に共通している現象で、各国のファクトチェック団体が「Scam(詐欺)」という特集ページを設けるほどだ。
「ユニクロの柳井正氏が拘束された」「自民党の高市議員が日本銀行に提訴された」など、著名人の顔と名前を無断で使い、捏造記事をソーシャルメディアの広告機能で拡散して、クリックを誘う。手口は似通っており、事前に知っておけば、落ち着いて無視することが可能だ。
自民党総裁選
9月に実施された自民党の総裁選は、次の首相を決める戦いであり、大きな注目を集めた。当然、偽・誤情報も広がった。最初に主な標的となったのは、いち早く立候補を表明した小林鷹之議員、続いてリードしていると報じられた小泉進次郎氏だった。
また、普段からアンチ小泉的な言論がネットで拡散する傾向があるために、総裁選の際にも同じような情報が蒸し返されるようにシェアされる事例もあった。
総選挙
その国の行方を左右する総選挙は、最も偽・誤情報が拡散しやすい場となる。ファクトチェック団体にとっても正念場だ。JFCは28本の検証記事と5本の解説記事を公開。日本で選挙期間に公開されたファクトチェック記事の大半がJFCのものでだった。
選挙の全体像を左右するほどに拡散した偽・誤情報はなかったが、各政党や個別の候補者を狙い撃ちにしたり、「不正選挙だ」という情報で民主主義の正当性を貶めたりするような情報が大量に拡散していた。
アメリカ大統領選
2016年、2020年に続き、2024年の米大統領選も偽・誤情報が大量に拡散した。それらは日本語訳されて日本でも広がった。また、米大統領選に絡めて日本独自に広がるものもあった。
世界的に注目される選挙だけに、日本だけでなく国境を超えて世界中で同じような偽・誤情報が各国の言語で拡散していた。Google Fact Check Toolsにはそれらの事例が集まっている。
兵庫県知事選
11月の兵庫県知事選は、多くの意味で画期的な選挙となった。斎藤元彦知事をめぐるパワハラなどの疑惑で始まった出直し選挙は、失職して再選困難と見られていた斎藤氏が逆転勝ちした。
国政選挙以上の注目、新聞やテレビ以上に影響力をもったソーシャルメディア、「斎藤氏を貶めたマスコミを含む既得権益層とソーシャルメディアで草の根で支えられた斎藤氏」という作られた対立構図...。JFCでは個々の偽・誤情報の検証だけでなく、ソーシャルメディアをめぐるこの選挙の全体像を解説した。
東京都知事選の石丸旋風、総選挙での国民民主党の躍進、そして、兵庫県知事選での斎藤再選。これらの背景にあるソーシャルメディアの影響力拡大は、来年も間違いなく続く。
マスメディアへの攻撃
選挙の際には「公正ではない」「偏向している」などとマスメディアへの批判が特に高まる傾向がある。その批判の中には事実に基づいた批判もあり、それはファクトチェックされるようなものではない。
一方で「選挙不正に加担している」というような根拠のない批判も毎回のように広がり、選挙とそれを報じるマスメディアという民主主義の根幹への攻撃となっている。
兵庫県知事選で斎藤知事のパワハラなどの疑惑を報じていたことで、2024年は特にマスメディアへの批判が高まった。選挙から1ヶ月以上が経っても、その状況に変化はない。
ヘイトスピーチ
「2023年十大フェイクニュース」でも取り上げたヘイトスピーチは、今年も目立った。対象も女性、性的マイノリティ、移民など、昨年と同様だ。ヘイトスピーチは偽・誤情報と相まって、ある特定の集団への敵対心を煽る。
2024年に特に目立ったのは、クルド人をめぐるものだった。こちらも事実に基づく批判はあって当然だ。問題は、まったく根拠のない情報も大量に流れてしまうことにある。それが冷静な議論をさらに難しくする。
生成AI
世界的な選挙の年となる2024年は「生成AIによる偽・誤情報が溢れかえって対処不能になるのでは」という懸念が持たれていた。しかし、結論から言うと、どの国を見てもそこまでの事態にはならなかった。
ChatGPTやGeminiなど生成AIの進化は早く、画像・動画・音声など人間では見分けられないレベルの精細さを再現できるようになっている。しかし、現実に拡散している偽画像や動画の多くは、一部を改変したり、関係のない別のビジュアルを転載したりしただけの「チープフェイク」だ。
現状の生成AIは、本物と見分けがつかないコンテンツを作れるほどには高性能だが、人々がシェアしたくなるコンテンツを作れるほどではない。しかし、2025年にさらに進化することは間違いない。いまから技術的な対策が必要だ。
ワクチン
パンデミックは終わったが、インフォデミックは終わっていない。2024年10月から新たに始まった新型コロナウイルスのワクチン定期接種とともに、ワクチンに関する大量の偽・誤情報が投稿され続けている。
特にレプリコンワクチンをめぐっては、科学的な根拠がまったくない主張や海外で拡散した偽・誤情報の日本語化が日々続いている。JFCでは引き続き、これらを検証して行く予定だ。
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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