北朝鮮の外相は横田めぐみさんだとNHKが報道?【ファクトチェック】

北朝鮮の外相は横田めぐみさんだとNHKが報道?【ファクトチェック】

北朝鮮の外相を「日本名・横田めぐみ」とNHKのニュースが伝えたかのような画像が拡散しましたが、誤りです。加工された画像で、NHKも注意を呼びかけています。

検証対象

3月29日夜、北朝鮮のチェ・ソニ外相について「崔チェソンヒ(崔善姫)=日本名・横田めぐみ」という字幕付きの映像がNHKニュースで流されたとする画像が拡散した。投稿には「NHKでとうとう出たの!? 北朝鮮外務省 崔チェソンヒ(崔善姫)=日本名・横田めぐみってテロップ!」というコメントも付けられ、北朝鮮の外相が1977年に拉致された横田めぐみさんと同じ人物だと主張している。

この投稿は390万件の閲覧があり、1100件を超えるリポストがついた。「教えて頂きありがとうございます」「十分あり得ますね」という反応の一方で、「明らかにNHK側のテロップではないですよ」「どう見てもガセですね」と否定するコメントも多い。

検証過程

拡散した画像は、左上に「NHK NEWS」、右上に「NHK」「1月」というテロップが入っている。2024年1月に北朝鮮のチェ・ソニ外相がロシアのプーチン大統領を訪問、会談しており、NHKニュースウェブで確認したところ、このニュース自体はNHKニュースで実際に放送された。

しかし、画面下の「崔チェソンヒ(崔善姫)=日本名・横田めぐみ」という字幕はNHKの表記と異なる。

崔善姫外相の日本語表記は、各社で異なる。例えば朝日新聞の場合は「チェソンヒ」で、毎日新聞は「チェ・ソニ」だ。NHKは「チェ・ソニ」と表記しており、拡散した画像は「崔チェソンヒ」と異なっている。

NHKは2024年4月1日、この画像について「SNSでNHKのニュースを装った北朝鮮関連の偽情報広がる 注意を」とする記事で、「拉致被害者の横田めぐみさんと北朝鮮のチェ・ソニ外相が同一人物であると伝えられたとする全く根拠のない偽情報が拡散」と報じた。

判定

NHKがニュースで「崔チェソンヒ(崔善姫)=日本名・横田めぐみ」と報じたかのような画像が拡散したが、誤り。画像は加工されたもので、NHKも否定して注意を呼びかけている。

あとがき

政治家が登場するニュースの一場面や映像に、異なる文脈の字幕をつけて加工する偽情報が増えています。また、AIを利用してニュース映像そのものを加工したものや、偽造した映像にテレビ局のロゴをつけた映像も拡散しています。

驚くような内容や、人物の日頃の言動とは異なる発言をしている映像や画像を見た時は、安易に拡散せず、真偽を確認することが必要です。

日本ファクトチェックセンター(JFC)では、これまでにも、同様の画像や映像の検証をしています。

岸田首相に関する偽の画像や動画が相次ぎ拡散

「(動画)前ウクライナ軍司令官ザルジニー氏が退職金5300万ドルを受け取ったとBBCが報道」は誤り

バイデン大統領「食べ物と飲み物は汚染され、全ての戦争は嘘に基づいている」と発言は誤り AIによる偽動画

検証:宮本聖二
編集:藤森かもめ、野上英文


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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宮城県知事選で投票用紙が盗まれる?選挙不正? 選挙経費の紛失と誤認か【ファクトチェック】

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2025年10月26日に投開票された宮城県知事選について「投票用紙が盗難」「期日前投票が30倍と言われる選挙で10ポイント程度も下がるなんて統計的にもおかしい」などと選挙不正を示唆する投稿がThreadsで拡散しましたが、誤りです。県選挙管理委員会は日本ファクトチェックセンター(JFC)の取材に「投票用紙の盗難はなかった」と答えています。 検証対象 拡散した言説 2025年11月3日、「宮城県民は和田さんを当選させていた」「投票用紙が盗難」「期日前投票が30倍と言われる選挙で10ポイント程度も下がるなんて統計的にもおかしい」などと、選挙で不正があったかのような投稿がThreadsで拡散した。 検証する理由 11月10日現在、投稿には4900を超えるいいねがつき、表示は4万回を超える。 投稿には「投票用紙が盗難て事実ですか!?」という指摘の一方で、「投票用紙盗難はやり直しすべき!」や「絶対不正。間違いない。盗難の捜査は?これだけ不正あるんだから選挙のやり方変えるべき!!」など、同調するコメントが多い。 検証過程 宮城県選管「投票用紙の盗難は認

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Meta社は詐欺広告から多額の売上を得ている/JFC検証など5本/ファクトチェック選手権、参加者募集【今週のファクトチェック】

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FacebookやInstagramを運営しているMetaは年間売上の約10%にあたる160億ドル(約2兆4000億円)を、詐欺などの不正な広告から得ていると推計していた--。関連記事にも取り上げたロイターの報道が話題です。 Meta社は報道にある10%という推計について「大まかで過度に包括的」であり、「数字はもっと低かったと判明した」と反論しています。しかし、具体的な数字は示していません。 10%より低かったとしても、Metaが詐欺広告の存在を把握したうえで、どれだけ積極的に対策をとっていたのかが問題です。 今週の検証記事でも、高市早苗首相の映像を使った詐欺広告がありました。ソーシャルメディア上に大量の詐欺広告が溢れていることは事実であり、被害額は日本だけでなく世界でも増える傾向にあります。 ファクトチェックの実践やメディアリテラシーの普及といった情報の受け手側からの対策だけでなく、そもそも詐欺広告が投稿されることを防がなければ、被害を減らしていくことは難しいでしょう。(古田大輔) ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その

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在日朝鮮人の生活保護に年間2兆3千億円? 外国籍の受給世帯は2.8%【ファクトチェック】

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在日朝鮮人の生活保護に年間で2兆3千億円が使われているかのような言説が拡散しましたが、誤りです。日本全体の生活保護の総額は、近年、約3.5兆〜3.7兆円で推移しています。2兆3千億円だと全体の6割超ということになりますが、世帯主が外国籍の受給世帯数は全体の約2.8%にとどまります。 検証対象 拡散した言説 2025年11月1日、「在日特権の廃止に賛成の人!! 手を上げて!!」という文言付きの画像が拡散した。 画像には「日本人差別をなくそう」「年計2兆3千億円が在日朝鮮人の生活保護費として使われているのをご存じですか?」などと書いてある。 検証する理由 11月4日現在、投稿は6000回以上リポストされ、表示は14.4万件を超える。 投稿には「流石に2兆円はない」「日本の生活保護の年間予算全体が約3兆円程度であり、そのうち外国籍世帯は2〜3%、約1200億円前後しかありません」などの指摘もあるが、「在日朝鮮人の生活保護者は帰国してもらいましょう」「日本の政治家は日本人を何だと思っているんだろう」など同調するコメントも多い。 検証過程 近年の日

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クマによる人身被害は増えていないのに騒いでいる? 死者数はすでに過去最多【ファクトチェック】

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クマによる人身被害の数を示すグラフとともに「報道が過熱している」という趣旨の情報が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。拡散したグラフの2025年度分の数値は9月末までの6か月分のデータです。2025年4~10月のクマ被害による死者は過去最多の12人。人身被害者数も過去最多の2023年度と同水準で、被害や目撃情報の増加とともに報道も増えています。 検証対象 拡散した言説 2025年11月4日、「マスコミの報道が今年だけ過熱していないか?」という文言とともに「クマ類による人身被害」というグラフが付いた投稿がXで拡散した。 検証する理由 この投稿を引用している人の中には「やっぱりそうだったか。テレビ見てると今年だけ異常に熊被害が多いように感じるが、実際はそうじゃない。報道が多いだけ」や「メディアにとって、人々の関心をクマに向けておきたい何かがあるのだろうね」など、2025年度のクマの被害が少ないかのような反応が多数ある。 検証過程 グラフは2025年9月末時点までの数字 拡散した棒グラフには「Yahoo!ニュースオリジナル」「出展:環境省(2

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ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

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理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

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JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

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