ハマスのロケットがコントロールを失い病院に直撃した瞬間?【ファクトチェック】(修正あり)

ハマスのロケットがコントロールを失い病院に直撃した瞬間?【ファクトチェック】(修正あり)

イスラエル軍による空爆が続くパレスチナ自治区ガザの病院で爆発があり、多数が死傷しました。これに関して「ハマスのロケットがコントロールを失い病院に直撃した瞬間」という映像が拡散しましたが、誤りです。この映像は2022年に撮影されたもので、今回の爆発とは無関係です。

※サムネイルの追記で「ハマスが病院を攻撃していないという検証」を「病院の爆発がイスラム勢力のロケット弾によるものでないという検証」に修正しました(修正 2023年10月26日)。

検証対象

2023年10月17日午後7時30分ごろ(現地時間)、ガザ地区北部アル・アハリ病院で爆発があり、ガザ保健当局はこれまでに471人の死亡が確認されたと発表している。爆発について、イスラム組織ハマスは「イスラエル軍によるもの」と非難したが、イスラエル側は関与を否定。ガザ地区内のイスラム組織からのロケット弾によるものだと主張し、双方の意見が対立している。

爆発の原因をめぐって、10月18日、SNS上で「イスラエルがガザにある病院を攻撃したと情報が拡散しているが違う。ハマスのロケットがコントロールを失い病院に直撃した瞬間だ」という投稿が映像付きで拡散した。

画像

動画にはミサイルのようなものが建物に着弾し、白煙があがる様子が映っている。この投稿は、2023年10月24日時点で1400回以上リポストされ、表示回数は55万件を超える。

投稿については「ハマスの自作自演?」などと同調するコメントの一方で、「病院が爆撃されたのは夜」「病院を吹き飛ばすほどの威力はありません」と指摘する声もある。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、映像がいつ撮影されたものかを確認した。

動画の左上にレバノンの衛星ニュースチャンネル「Al Mayadeen」のロゴの表示がある。下のアラビア語テロップを日本語に翻訳すると「ガザへの攻撃 イスラエルメディア:ガザ地区周辺の入植地からの組織的避難作戦計画の実施が開始」と書かれている。

爆発発生より前に動画がアップされていないか調べるため、10月17日以前に期間を絞って「Al Mayadeen Gaza」でGoogle検索をすると、今回の投稿と同じ映像が見つかった。

一つは中東関連のサイトMiddle East Media Research Instituteで、該当する動画は2022年8月7日にガザ地区で撮影された、イスラム組織「イスラム聖戦(PIJ)」のロケットが失火している様子、と紹介されている。

記事から得た情報を追加し、「Al Mayadeen Gaza PIJ」で2022年8月に期間を絞って再びGoogle検索すると、2022年8月8日に同一の映像を使用したX(Twitter)の投稿を確認することができた。

画像

また、BBCAP通信は17日の夜に病院での爆発が起きたとしているが、今回拡散した映像は日中であることからも今回の病院の爆発とは無関係の映像であることが分かる。

判定

今回の映像を用いての「ハマスのロケットがコントロールを失い病院に直撃した」という言説は誤り。証拠とされた映像は2023年10月17日に発生した病院の爆発とは無関係であり、2022年8月に撮影されたものである。

検証:木山竣策
編集:藤森かもめ、古田大輔、野上英文、宮本聖二

イスラエル・パレスチナ情勢をめぐる検証まとめ

イスラエル・パレスチナ情勢をめぐり大量の誤情報/偽情報 検証方法を解説【ファクトチェックまとめ】
イスラエル・パレスチナの武力衝突に関連し、大量の誤情報/偽情報が世界的に拡散しています。互いの憎悪を煽るような投稿もあり、混乱に拍車をかけています。日本ファクトチェックセンター(JFC)がこれまでに検証した事例とともに、対応策をまとめました。 ※新たな検証があれば記事を更新します(最終更新2023年11月17日)。 対立煽る誤情報/偽情報 間違った情報に関して、一般的には「フェイクニュース」や「デマ」という言葉が使われることが多いですが、その内実は複雑です。 真偽が不確かな情報で社会が混乱する「情報汚染」を情報の意図と正誤で3つに分類すると、図のようになります。「誤情報:意図的ではないが誤っている」「悪意ある情報:意図的だが誤っていない」「偽情報:意図的に誤っている」の3つです。 ロシアとウクライナの戦争がそうであるように、イスラエル・パレスチナをめぐっても、大量の誤情報/偽情報/悪意ある情報が拡散しています。情報汚染は対立を煽り、混乱を悪化させます。発信元の確認や他の情報源との比較をするようにしましょう。 誤情報/偽情報の検証方法 大量に流れる情

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

新型コロナのレプリコンワクチンは死亡率がファイザー製の75倍? 元資料の誤読【ファクトチェック】

新型コロナのレプリコンワクチンは死亡率がファイザー製の75倍? 元資料の誤読【ファクトチェック】

新型コロナのワクチンについて、レプリコンはファイザー製に比べて死亡率が75倍だという情報が拡散しましたが、誤りです。厚労省の資料をもとに主張していますが、これは副反応疑いの件数で因果関係が立証されたものではなく、また、死亡報告2件は、のちに製造元が「ワクチンとの因果関係を医師が否定した」という理由で報告を取り下げています。 検証対象 2025年4月17日、「レプリコンはファイザー製の75倍の死亡率」という投稿が拡散した。投稿には表も添付され、製薬会社ごとに接種者の「重篤」と「死亡」の報告数の比率を比べている。 4月21日現在、8万2000を超える閲覧と1200のリポストがついている。「こんなもん国民に打たせるな」「ワクチンじゃない、殺人兵器だ!!」などの他「真面目に副作用報告を収集しているから副作用発現率が高く見えてる可能性がありますね」という指摘もある。 検証過程 レプリコンワクチンとは レプリコンワクチンは、日本の製薬企業Meiji Seikaファルマが開発製造しているmRNAワクチン。mRNAが体内で複製されて増えるため、従来のmRNAワクチ

By 宮本聖二
佐藤正久・参院議員「JAL123便は自衛隊が訓練中に誤って撃墜」と発言? 恣意的な切り取り【ファクトチェック】

佐藤正久・参院議員「JAL123便は自衛隊が訓練中に誤って撃墜」と発言? 恣意的な切り取り【ファクトチェック】

参院議員・佐藤正久氏(自民)が「1985年のJAL123便墜落事故は、自衛隊が訓練中に誤って撃墜したために起きた」と主張しているとの情報が拡散しましたが、誤りです。検証対象の添付動画で佐藤氏が読み上げているのは、事故に関する書籍で、佐藤氏自身の見解と正反対の内容です。 検証対象 2025年4月16日、「1985年のJAL123便墜落事故は、自衛隊が訓練中に誤って撃墜したために起きた」「証拠を隠滅した疑惑がある」という趣旨の投稿がXで拡散した。 投稿には「ついに国会で元自衛隊幹部が重い口を開きました」という文言とともに、佐藤氏が「自衛隊の標的機がJAL123便を撃墜してしまった」などと話す英訳つきの動画が添付されている。 2025年4月21日現在、投稿は1300回以上リポストされ、表示回数は46.5万回を超える。投稿には、「聞き覚えのある話やな」「初期に言われていたことだよ」などのコメントのほか「極めて悪質な切り抜き加工動画ですね」という指摘も寄せられている。 検証過程 日航機(JAL123便)墜落事故とは 日航機墜落事故とは、1985年8月12日

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
エジプト・ルクソール神殿近くで発見された謎の部屋の動画? 生成AIによるディープフェイク【ファクトチェック】

エジプト・ルクソール神殿近くで発見された謎の部屋の動画? 生成AIによるディープフェイク【ファクトチェック】

「(エジプトの)ルクソール神殿の近くで発見された謎の部屋」という動画が拡散しましたが、生成AIで作った「ディープフェイク」です。AIによく見られる特徴が複数あり、投稿者もAIで作ったと書いています。 検証対象 2025年4月17日、「ルクソール神殿の近くで発見された謎の部屋」という動画つきの投稿が拡散した。 2025年4月21日現在、この投稿は700回以上リポストされ、表示回数は320万件を超える。投稿について、「AIすぎる」「カメラに写っている映像が背景と一致していない」という指摘や、AIによる動画生成を危惧するコメントが多数を占めていた。 検証過程 拡散した動画を日本ファクトチェックセンター(JFC)が確認したところ、光の当たり方やカメラに映る映像と背景の不一致など生成AIによる動画に見られる特徴がある。 上の画像は、動画の24秒付近だが、松明の燃え方が不自然だ。また、手前の人物のカメラの映像と背景が一致していない上にカメラを持つ手が不自然だ。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、拡散した動画の一部のスクリーンショットをGoogle画像検

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本の消費税は重複課税されている? 累積しない仕組み【ファクトチェック】

日本の消費税は重複課税されている? 累積しない仕組み【ファクトチェック】

日本の消費税は、原料の仕入れや商品の加工など、取引の段階ごとに何重にも課税されているという趣旨の投稿が拡散しましたが、誤りです。事業者が仕入れの際に支払った消費税分は、売上時に納める消費税から差し引ける「仕入税額控除」という制度があり、何重にも課税されているわけではありません。 検証対象 2025年4月11日、「日本の消費税は詐欺?」という投稿が拡散した。 2025年4月21日現在、この投稿は、1100回以上リポストされ、表示は46.8万件を超える。投稿には「中抜きがはびこっている」や「なんで消費税取られるのか」といったコメントや、「簿記を学んでください」「仕入れを控除するから税額同じ」などの指摘もある。 検証過程 検証対象にはイラストが添付されている。「日本の消費税は取引のたびに何度も課税されていて、二重課税のような仕組みである」と主張しているように見える。 消費税とは 消費税は商品の販売やサービスの提供などに広く公平に課税する制度。消費者が負担し、事業者が納付する(国税庁)。 生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)