イギリス、東大卒と京大卒には無条件で就労ビザを与える?【ファクトチェック】

イギリス、東大卒と京大卒には無条件で就労ビザを与える?【ファクトチェック】

「イギリス『東大卒と京大卒には無条件で就労ビザを与える』」という投稿が拡散しましたが、不正確です。英国政府は実際に世界トップレベルの大学の卒業生を対象とする制度を設けていますが、ビザを取得するためには様々な条件があります。

検証対象

2024年1月28日、「イギリス『東大卒と京大卒には無条件で就労ビザを与える』」という投稿が拡散した。この投稿は2024年1月31日時点で5600回リポストされ、表示回数は670万回を超える。

返信欄には「みんなJTCの学歴フィルターを批判するけどさ、海外の方が全然学歴主義」「懸命な判断」などの反応の一方で、「本当のニュース?」「2022年の記事だけど、なぜ今?」との声もある。

検証過程

拡散したポストには、まとめサイト「News Everyday」へのリンクが付いており、BBCの記事(2022年5月30日)を引用している。言説が示す「就労ビザ」は、「High Potential Individual (HPI) visa」のことだと見られ、2022年5月30日に始まった制度だ。

イギリス政府のサイトによると、申請資格があるのは、イギリス国内の大学を除いた世界ランキング50位以内の大学を過去5年以内に卒業、修了した人だ。2023年版の大学リストにはハーバード大学やコロンビア大学などが並ぶ。日本では東京大学と京都大学が対象校だ。

HPIビザの取得には「5年以内」のほかにも条件がある。申請者は、英語の能力や十分な貯蓄があることを証明することなどが必要だ。またHPIビザは1度しか申請できないなどの細かい条件がある。

これらの条件を満たして審査を通れば、原則2年、博士号取得者は3年間の滞在を許可するという。ジェトロの説明によれば、イギリスでの外国人の就労には通常、企業などのスポンサー(身元引受人)がいるが、HPIビザはEU離脱(ブレグジット)後に移民制度改革の一環で行われている。

判定

イギリス政府は2022年からHPIビザ制度を始めたが、大学上位校を卒業や修了しただけで無条件にビザが発給されるわけではない。したがって、「イギリス『東大卒と京大卒には無条件で就労ビザを与える』」は不正確と判定する。

検証:住友千花、高橋篤史
編集:藤森かもめ、宮本聖二、野上英文


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

自民・小泉進次郎氏「立憲民主・野田代表が農林水産予算10倍と発言」? 新規就農支援に限った話【#参院選ファクトチェック】

自民・小泉進次郎氏「立憲民主・野田代表が農林水産予算10倍と発言」? 新規就農支援に限った話【#参院選ファクトチェック】

自民党・小泉進次郎農林水産相が、立憲民主党・野田佳彦代表が「農水予算を10倍にする」と発言したかのような投稿をしましたが、誤りです。野田代表の発言は農水予算全体ではなく、新規就農支援に限定した話で、立憲民主党の公約にも明記されています。 検証対象 自民党の小泉進次郎農林水産相が立憲民主党の野田佳彦代表の参院選での発言に関する記事のスクリーンショットと共に「農林水産予算を10倍???23兆円にするってことですよね…。やっぱり野党は無責任」とXに投稿した。 投稿には、NHKニュースがXに投稿した「【ノーカット動画】参議院選挙 公示 各党党首らは何を訴えた」のリンクが添付されている。 2025年7月8日現在、この投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は130万回を超える。投稿について「消費税を5%から8%に上げた立憲野田は許さない」「野党は無責任。おっしゃる通り」というコメントの一方で「農業人口増やす為の予算を10倍にしたいんだろ」という指摘もある。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は小泉氏が投稿したように野田氏が農水予算を10倍にすると発言したのか

By 木山竣策
写真に一言「気持ち悪すぎだろ」と書くだけで拡散する偽・誤情報 何をどう検証したのか【ファクトチェックの舞台裏】

写真に一言「気持ち悪すぎだろ」と書くだけで拡散する偽・誤情報 何をどう検証したのか【ファクトチェックの舞台裏】

日本ファクトチェックセンター(JFC)は設立から2年半あまり、700本を超えるファクトチェック記事を公開してきました。一方で、検証を進めたものの、記事として公開に至らなかったものも数百本あります。日本でもファクトチェックに取り組む組織や個人が増えつつあります。そうした流れの中で、私たちは検証の舞台裏や、判断が難しいケース、世界で行われている新たな手法などを紹介するコラムを始めることにしました。 各コラムでは「どう検証したか」「どこで迷ったか」「どんな工夫をしたか」「なぜ掲載を見送ったか」など、編集の舞台裏を紹介します。現場の悩みも交えながら、やわらかくお伝えできればと思います。情報を見極めるヒントになれば幸いです。 第1回は、投稿の内容があいまいな場合、どのように検証対象とするかについて書きます。 曖昧な言葉と闘うファクトチェックの裏側 たとえば、「また、ワクチンで医師と看護師が1か月で〇〇人死亡。危険」という投稿があったとします。これは新型コロナワクチンの危険性を訴えているようにも読めますが、「新型コロナ」という言葉自体は使われていないため、具体的に何を

By 藤森かもめ(Kamome Fujimori)
「期日前投票は不正し放題」「鉛筆だと書き換えられる」? 選挙のたびに拡散【#参院選ファクトチェック】

「期日前投票は不正し放題」「鉛筆だと書き換えられる」? 選挙のたびに拡散【#参院選ファクトチェック】

参院選の開始とともに、投票のなりすましや書き換えなどの選挙不正を疑う投稿が拡散しています。これらは選挙のたびに広がる偽・誤情報で、根拠がないか誤った根拠に基づいています。 検証対象 選挙に不正があるという投稿は今回の参院選でも多数広がっている(例1,2)。 「期日前投票は不正し放題」「票を数える機械にからくりがある」「鉛筆で書かせるのは書き換えるため」など、不正の根拠とされる情報は様々だが、その多くはこれまでに何度も投稿されているものだ。 検証過程 日本ファクトチェックセンター(JFC)ではこれまでにも選挙不正に関するファクトチェックを実施している。以下、それらを引用しつつ検証する。 開票システム「ムサシ」による不正? 「開票システム『ムサシ』が自民党と繋がっていて、票を数える際に操作している」というような情報は今回も拡散している。以前は「筆頭株主は安倍晋三元首相」という形で広がっていた。 株式会社ムサシの有価証券報告書を確認すると、筆頭株主は上毛実業株式会社。投票用紙の読取分類機、計数機、交付機、投票箱の中で自然に開くオリジナル投票用紙、投開

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
党首討論CM中に石破首相がアナウンサーを恫喝? 恣意的な切り貼り【#参院選ファクトチェック】

党首討論CM中に石破首相がアナウンサーを恫喝? 恣意的な切り貼り【#参院選ファクトチェック】

石破茂首相が党首討論でテレビ出演した際、CM中に「舐めない方がいい」とアナウンサーを恫喝したという投稿が拡散しましたが、誤りです。添付された動画は恣意的に切り取られています。実際は、石破首相が団塊世代の高齢化が社会保障費の負担増になると語っている場面です。 検証対象 7月1日、党首討論で日本テレビ「news every」に出演した石破首相が、CM中にアナウンサーを恫喝したという動画つきの投稿が拡散した。 7月7日現在、投稿は2.7万回以上リポストされ、表示回数は3100万回を超える。投稿には「CM中に素性が露わになったようで」や「ネットと言うツールが発達して良かった✋これが無かったことにされるところだった!」のほか、「この切り取り方は悪質」という指摘もある。 検証過程 アナウンサーに対して「舐めないほうがいい」? 7月1日、石破首相は日本テレビの生放送番組「news every」の党首討論に出演した。拡散した動画はこの番組の一部で、10秒と短い。 この動画では、石破氏が「あんまり舐めない方がいいですよ、今50代の人達ね」と述べた後にカットが変わり

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は7月22日(火)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0722.peatix.com/ 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的に

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)