ホワイトハウスが新型コロナウイルスの起源を武漢の研究所と正式認定? 現時点では言及にとどまる【ファクトチェック】

ホワイトハウスが新型コロナウイルスの起源を武漢の研究所と正式認定? 現時点では言及にとどまる【ファクトチェック】

新型コロナウイルスは中国・武漢にある研究所から出たとホワイトハウスが正式に認めたかのような投稿が拡散しましたが、不正確です。投稿に添付されたホワイトハウス報道官による会見動画を確認すると、新型コロナの起源に触れているものの、正式に認定したとは言えません。

検証対象

2025年2月5日、「ホワイトハウス、新型コ〇ナウィ〇スが中国武漢ウィ〇ス研究所からきていると正式認定」という情報がXで拡散した。

2025年2月10日現在、この投稿は1.2万回リポストされ、表示回数は425万回を超える。投稿には、「誰もがそう思ってた」「一層中国に対して慎重にならなければ」などのコメントがついている。

検証過程

ホワイトハウス報道官の会見内容は

検証対象の投稿には、ホワイトハウスのレビット報道官による会見を約30秒に編集した日本語字幕付き動画が添付されている。字幕は以下の通り。

「数年前 私は ここのメディアの一員として働いていた頃 トランプ大統領が新型コロナは武漢のある実験室から来ていることを暗示したが ここに集まった大勢の人々に陰謀論者だと笑われた しかし 彼は陰謀論者ではなく あれは事実そのものだと今になって我々も分かったのだ トランプ大統領は正しかったのだ」

ホワイトハウスの公式YouTubeチャンネルのライブ動画一覧に、添付動画と同じ服装のレビット報道官のサムネイルがある。タイトルは「Press Secretary Karoline Leavitt Briefs Members of the Media, Jan. 31, 2025」(キャロライン・レヴィット報道官がメディア関係者にブリーフィング 2025年1月31日)だ。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、レビット報道官の発言を確認した。約39分の動画のうち、新型コロナウイルスの起源に関係があるのは2か所だ。

冒頭から21分46秒、「CIAはCOVID19が中国・武漢の研究所から発生したと信じていると明かした。大統領はどのように対応するつもりか。また、それは関税への対応に影響を与えるのか」という記者からの質問に対し、報道官は次のように回答している。

「数年前、トランプ大統領はこの演壇に立ち、アメリカ国民に向けてCOVID-19について説明した。彼は、COVID-19は中国・武漢の研究所から発生した可能性が高いと示唆したが、この部屋にいた多くの人々は『陰謀論を広めている』と嘲笑した。しかし、大統領は間違っていなかった。今では、それが確認可能な真実であることが分かった。明らかになるまでに何年もかかったが、この件でも大統領は正しかったのだ。」
(Several years ago, when I was working in this press shop and president Trump would take this podium to brief the American people on COVID19 he suggested that COVID may very well came from a lab in Wuhan China, and many members in this very room mocked him for that, said he was spewing conspiracy theory but he was not. We now know that to be the confirmable truth. It took many years for it to come out, but the president was right in this instance again.)

検証対象に添付されているのはこの部分だ。報道官は「confirmable truth」=「確認可能な真実」と述べており、「confirmable」は「confirmed(確定済み)」とは異なる。添付動画の字幕「事実そのもの」は、意訳が過ぎる。

また、33分59秒、別の記者から「トランプ大統領はコロナの起源に関して中国にどのように対応していくのか」と問われ、報道官は次のように回答している。

「新型コロナウィルスの起源に関してはまだ大統領と話していない。特に、大統領がこの件に関して中国にどう対応するのか、あるいはしないのかについては話していない。だが、大統領はあす(2月1日)、中国に対して10%の関税を適用する」
(I haven’t spoken to the president about the COVID origins, specifically in regards to any actions he may or may not take when it comes to China, but as I have previewed quite a few times today, he will be implementing a 10 %  tariff on China tomorrow.)

CIAの声明を踏まえた会見

米中央情報局(CIA)は新型コロナウイルスの起源について中国のウイルス研究所から流出した可能性があるとする声明を1月25日に出している。一方で、この評価の確信度は「低い」と留保を付け、自然界から中間宿主の動物を介して人に広がった可能性も含めて分析を続ける(朝日新聞産経新聞)。

レビット報道官はこの声明を踏まえ、トランプ前大統領が以前から武漢の研究所起源説を示唆していたことに言及し、「確認可能な真実」であると表現した。

なお中国政府は、CIAの新たな評価に強く反発。中国外務省の報道官は「研究所からの流出は極めて可能性が低い」と主張している(CBS NEWS)。

判定

報道官は「新型コロナウイルスは武漢の研究所から発生した可能性は、確認可能な真実となった」と発言しているが、「この件についてはまだ大統領と話していない」とも述べているため、ホワイトハウスが正式に認定したとは言えず、不正確と判定した。

あとがき

新型コロナウイルスの起源については、アメリカ政府機関内でも自然発生説を支持しているところもあり、まだ統一見解はないと報じられています(アル・ジャジーラ)。

科学界からも、動物から人間への自然な感染経路を示唆する研究が多数発表されています(The Cell)。

この検証は2025年2月10日時点のものです。今後、トランプ大統領や報道官らが正式認定をする可能性はあります。その場合は追記します。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔、野上英文

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

ファクトチェックやメディア情報リテラシーについて学びたい方は、こちらの無料講座をご覧ください。ファクトチェッカー認定試験や講師養成講座も提供しています。

理論から実践まで学べるJFCファクチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験
JFCファクトチェッカー認定試験 教材と申し込みはこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や
JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月22日で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1222.peatix.com/event/4221579/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的に

もっと見る

黄砂は中国の農業が引き起こしている? 無関係な動画【ファクトチェック】

黄砂は中国の農業が引き起こしている? 無関係な動画【ファクトチェック】

多数のトラクターが砂塵を巻き上げながら走っている動画と共に「黄砂は中国の人工的なテロ」と主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。拡散した動画はブラジルの農業風景を映したもので、中国は関係ありません。動画はこれまでにも世界中で違う文脈で拡散しています。 検証対象 2025年3月13日、「黄砂🇨🇳って人工的なテロだったんだね…」と書かれた投稿が拡散した。多数のトラクターが砂塵や土埃のようなものを巻き上げながら走っている様子が映った動画が添付されている。 投稿は約1500件のリポストと約17万件のインプレッションを獲得している。「日本に飛来するようにわざとやってます⁉」「もしかしてワタシの持病の粉塵アレルギーや気管支喘息ももしかしてコレの所為?」などのコメントが付く一方で、フェイクを指摘する声もある。 検証過程 過去に中国とは別の文脈で拡散した動画 日本ファクトチェックセンター(JFC)が投稿に添付された動画の一部をGoogle画像検索で調べたところ、同じ動画を使ったYouTube動画やXの投稿がヒットした(投稿1、投稿2、投稿3)。 これらの投稿

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
兵庫県百条委、告発7つを全否定? テレビ画像を加工【ファクトチェック】

兵庫県百条委、告発7つを全否定? テレビ画像を加工【ファクトチェック】

兵庫県・斎藤元彦知事に関する県議会の百条委員会が、告発された7項目全てを否定したという情報が拡散しましたが、誤りです。根拠とされたテレビ画像は加工されています。 検証対象 2025年3月9日、「7つの告発」という見出しに、「職員へのパワハラ」「不当な解任で理事長急死」など、斉藤知事に対する告発の7項目が書かれ、いずれもバツ印と「否」の文字がついているテレビ番組と思われる画像の投稿が拡散した。「百条委員会ってやる意味あったの?」という文言がついている。 3月14日現在、46万以上の閲覧と280あまりのリポストがついて、「結論ありきでホント酷かった」「ないですよね…微塵も」「時間と税金の無駄遣い委員会」などのコメントがついている。一方、コミュニティノートが付き「加工された画像」だと指摘している。 検証過程 画像はサンデージャポンの一場面 拡散した画像の右上には爆笑問題の太田光さんらが映っており、TBS「サンデージャポン」のように見える。拡散した投稿のリプ欄にはサンデージャポンの該当箇所と思われる動画をつけた投稿もある。 この動画を見ると、拡散した画像

By 宮本聖二
新型コロナワクチンで寿命が短くなる? 根拠不明のデータ【ファクトチェック】

新型コロナワクチンで寿命が短くなる? 根拠不明のデータ【ファクトチェック】

新型コロナワクチンで寿命が短くなることを示したデータがあるという情報が拡散しましたが、根拠不明です。同じような情報が過去に世界でたびたび拡散していますが、いずれも「根拠不明」と判定されています。 検証対象 2025年2月12日ごろから、30歳の人が3回新型コロナワクチンを打ったら55歳までしか生きられないデータが出たという主張や、新型コロナワクチンは人口削減ワクチンだなどと言う投稿がXで複数拡散した(例1、例2)。 投稿は、多いものは3000回以上リポストされ、表示は269.3万回を超える。投稿には「そもそも政府がグレートリセットって発言されてます」「3回打たされた小中学生はどうなるんだろう…」などのコメントのほか「統計出せるほど年数経ってませんがね」「どうやってデータ取ったんだよ笑」という批判もある。 検証過程 新型コロナワクチンの接種から約4年しか経っていない 検証対象は、「30歳の人が3回コロナワクチンを打ったら55歳までしか生きられないデータが出た」「統計が出ている」などと主張する。同ワクチンの一般人への接種が始まったのは英国が初めてで、2

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
菅元首相がワクチン注射を誤魔化した? 映像の角度によるもの【ファクトチェック】

菅元首相がワクチン注射を誤魔化した? 映像の角度によるもの【ファクトチェック】

菅義偉元首相が「刺すと引っ込む針」を使ってワクチン接種を誤魔化したという情報が拡散しましたが、誤りです。拡散した動画では注射針が消えたように見える場面がありますが、別の映像では針がはっきりと映っています。 検証対象 2025年3月3日、菅元首相(当時)が2021年3月16日に新型コロナのワクチン接種をする動画とともに「日本国民のみなさん、まだ騙されたままですか? 首相を含め政府関係者が、インチキなAIR接種をしてることに気づきましょう」という投稿が拡散した。 この動画を見ると注射の針が消えているように見える場面がある。そこを指摘して「刺すと引っ込む針ですね」「生物兵器であることを知ってて、わざわざ自分から打つわけないでしょ」などのコメントがついている。この投稿は910万の閲覧と2500を超えるリポストがある。 検証過程 拡散した動画の内容は 投稿につけられた動画は15秒。マスク姿の菅氏が注射を受けている。医者が注射を取り出すと針が飛び出たように見える。これが「刺すと引っ込む針」「AIR注射」などと批判が出る根拠となっている。 動画の左上にはテレビ

By 宮本聖二