「在日特権」 働かずに年600万円もらって税金は払わない? 繰り返し拡散する誤情報【ファクトチェックまとめ】
「在日特権」という見出しで「働かず年600万円貰って遊んで暮らす優雅な生活」「税金は納めません」などと書かれたチラシの画像が拡散しました。その多くは誤りで、同様の情報は長年にわたって拡散し続けています。
検証対象
2024年11月頃、「差別被害者を装った特権階級 在日特権」と題したチラシの画像がSNSで拡散した。
タイトルの下には「働かず年600万円貰って遊んで暮らす優雅な生活」「犯罪犯しても実名出ません」「税金は納めません」「相続税も納めません」「医療、水道、色々無料」「住宅費5万円程度なら全額支給」などと書かれている。
この投稿には2月3日現在、1.2万超のリポストと170万超の閲覧がある。「こんな在日養うために税金納めてると思うとバカバカしい!」「祖国に帰れ」といったコメントがついている一方で、「ウソを流すのは止めましょう」という指摘もある。
検証過程
ネットで言及される「在日特権」とは
「在日特権」という言葉は、ネット上で繰り返し拡散している。1945年の太平洋戦争終結後、日本による植民地支配が終わったことに伴って日本国籍から離脱した後も日本に住み続けた朝鮮半島や台湾出身者とその子孫である「特別永住者」が日本人やその他の外国人に対して特権を持っているという主張だ。
ジャーナリストの安田浩一さんが2023年9月に公開した記事を参照すると、拡散した画像にかかれている各項目は、2013年に東京・新宿区新大久保でのヘイトデモの際に撒かれたチラシと同じものだとわかる。これらは10年以上にわたって拡散し続けている。
「特別永住者」とネットで拡散する「特権」の違い
日本人として日本で暮らしていて、突然外国人とされたのが特別永住者だ。その不安定な立場を少しでも安定的なものにするために他の外国人と異なる扱いがある。ただし、ネット上で何度も拡散している、金銭や納税義務免除などの「特権」ではない。
「出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律(入管特例法)」によると、他の外国人永住者の申請先は入国管理局だが、特別永住者は居住している自治体だ。また、特別永住者には、外国人永住者に対する「素行善良であること」「独立生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」「日本国の利益に合すると認められること」などの要件や証明書(在留カード)の携帯義務は無い(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法)。
日本政府は、2015年5月の参議院法務委員会で「特別永住者に特権があるのか」と問われて、井上宏法務省入国管理局長(当時)が歴史的経緯からの入管特例法による法的地位だと説明したうえで、以下のように答えている。
「この特例措置は、特別永住者の法的地位の安定を図るために法律により特に設けられたものでございまして、このような措置を根拠として日本社会から排斥するようなことは、これはあってはならないことだというふうに理解しております」(第189国会参議院法務委員会)
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、チラシの画像に書かれている主張を個別に検証した。
「働かず年600万円貰って遊んで暮らす優雅な生活」は誤り
特別永住者であることを理由に無条件に金銭を給付する制度はないため、誤り
なお、「年金を払っていないのに年金を受け取っている」という主張がなされることがある。過去に国民年金に外国人が加入できなかったことで、自治体によって無年金になった人を対象にした福祉的な給付金制度があるからだ。その対象は特別永住者一般というわけではなく、ごく一部に限られている。以下のような制度だ。
国民年金は、1959年の制度発足時加入できなかった外国人が1982年に加入できるようになった。これは、日本政府が国際人権規約と難民条約に批准したことで国籍条項を撤廃したことによる(厚生労働省「公的年金制度の歴史」4ページ)。
しかし、この時点で35歳を超えていた人は加入しても、60歳までに年金を受け取るために必要な25年の加入期間を満たせなかった。そこで1986年に外国人を除外していた20年9ヶ月間を算入して25年の加入期間を満たせば国民年金を受給できる措置ができた。ただし、その算入期間は受給額に反映されない。
また、この措置によっても1986年時点で60歳を超えていた人は算入期間を入れても25年を満たせず、無年金となった。そのため、無年金となった高齢の特別永住者に対して、自治体の制度によって「在日外国人高齢者給付金」「特別永住者福祉給付金」などの名称の給付金ができた。
1926年4月1日以前に生まれて、国民年金の受給資格を制度上得られなかった人(無年金)が対象で、公的年金や生活保護を受給していないことなどを条件に自治体が給付する。
給付額は自治体によって異なり、金額は月7000円から1万5000円程度が多い(広島市、北九州市、久留米市、葛飾区、墨田区)。兵庫県内の市町(神戸市や西宮市など)では3万4740円となっている。兵庫県が半額を補助する県と市町との共同事業で、年間で41万6880円だ。
なお、「1926年4月1日以前に生まれた」などの条件を満たして受給している人は、神戸市で9人(2024年12月16日時点)にとどまる。
「税金は納めません」は誤り
特別永住者に限らず、日本に住む全ての外国人には住民税等の納税義務があるため、誤りだ(総務省「外国人の方の個人住民税について」)。
2024年2月28日の衆議院予算委員会で、日本維新の会の高橋英明議員は税制について特別永住者に優遇があるか質問している。
国税庁の田原芳幸課税部長は「国税当局が、対象者の国籍でありますとか特定の団体に所属しているということをもって特別な扱いをするということはございません」と答えている(第213回国会衆議院予算委員会第3分科会)。
「相続税も払いません」は誤り
「法の適用に関する通則法」によると、外国籍でも、日本国内にある財産については相続税が課されるため、誤り(法の適用に関する通則法36条)。
国税庁の「よくある税の質問」によると、日本国内に相続税を課税すべき財産がある時は相続税の対象となる。
「試験の免除も各種ご用意」は誤り
試験が何を指すかは不明だが、国家試験など主だったもので特別永住者であることを理由にした免除制度は見当たらないため、誤り。
ただし、2011年に終了した旧司法試験では、学校教育法に定められた大学(短期大学を除く)に合わせて、在日コリアンが多い朝鮮大学校の卒業生は、省庁管理の海上保安大学校、水産大学校、気象大学校などとともに旧司法試験の一次試験を免除されていた。
法務省の「旧司法試験第一次試験免除に関する個別の受験資格審査について」で、「学校教育法に定める大学(短期大学を除く)を卒業した者と同等以上の学力があると認められた者については、旧司法試験第一次試験が免除される」となっていたからだ。
「犯罪犯しても実名出ません」は誤り
捜査機関が犯罪容疑者を逮捕した際に報道各社に配られる資料には、通称名や本名が書かれている。報道する際の対応は各社によって異なり、報道は本名も通称もある(金泰泳東洋大学社会学部教授「本名か通名か?-新聞報道における在日コリアンの名前表記をめぐって-2019」)。
このため、「犯罪犯しても実名出ません」は誤り。
「公務員にも就職できます」は誤り
日本の国籍を有しない者は、国家公務員採用試験を受けられないと定められている(人事院)。
しかし、地方公務員として外国籍の人を採用する自治体はあり、外国籍の永住者でも「公権力の行使にあたる業務」や「公の意思の形成に参画する職」以外での就業を認めている。いずれも外国籍の永住者としており、特別永住者だけを優遇しているわけではない(大阪府、京都市、広島市)。
したがって、特別永住者だから公務員に就職できるという意味では、誤りだ。
「医療、水道、色々無料」「住宅費5万円程なら全額支給」は誤り
特別永住者であることを理由にしたこのような措置はなく、誤り。
ただ、特別永住者であるかに関わらず生活保護を受給していれば、自治体によっては医療扶助や水道料金の減免措置を受けられる。これは特別永住者とは関係のない制度だ。
判定
在日特権として「働かず年600万円貰って遊んで暮らす優雅な生活」や「税金を納めない」などの主張が繰り返し拡散しているが、それぞれ誤り。
あとがき
今回検証した「在日特権」はネットで長年拡散していますが、誤りです。これ以外にも様々な「特権」があるとの主張がありますが、誤りだったり、根拠がなかったりします。
「入管特例法がある事自体が特別扱いであり、在日特権だ」という主張もあります。
しかし、「特例法」と「特権」はまったく関係ありません。特例法は、戦後、本人の意思とは無関係に日本国籍を離脱させられた人の「在留資格」を安定させるためのもので、ネットで拡散する「税金優遇」などとは全く異なります。
根拠なく悪意を広げるような情報を拡散しないようにしましょう。JFCでは過去にも同様の主張を検証しています。参考にしてください。
山本太郎氏「在日コリアンの方々は何年も納税されてきた!参政権ぐらい与えてもいいだろう!」と発言?
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/inaccurate-statement-voting-rights/
外国人留学生には学費免除と10数万円の生活費が税金から支払われる?
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/inaccurate-foreign-student-scholarship-claim/
衆院補選、江東区では外国人学校に通う生徒の家庭に補助?
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/inaccurate-foreign-school-support-in-koto/
参考文献
ネットと愛国 安田浩一著 講談社 2012
在日特権の虚構 野間易通著 河出書房新社 2015
特別永住者に関しては特にこちらを御覧ください。
日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法
法的地位に関して 第189国会参議院法務委員会
税金に関して 第213回国会衆議院予算委員会第3分科会
検証:宮本聖二
編集:古田大輔、藤森かもめ、野上英文
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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