トランプ関税延期は農林中金が米国債を売却したから? 売却は2024年度【ファクトチェック】

トランプ大統領が「相互関税」を90日間延期したのは、日本の農林中央金庫による米国債の売却が影響したという情報が拡散しましたが、誤りです。農林中金が米国債を売却したのは関税に関する発表前の2024年度です。
検証対象
2025年4月11日、トランプ大統領が「相互関税」を延期したのは、日本の農林中央金庫が米国債を売り、米国債の価格低下と金利上昇を招いたからだという趣旨の投稿がXが拡散した。
投稿には、米国債の下落や金利上昇、株・ドル・債券のトリプル安を報じるテレビニュースの画像が添付され、「トランプ『相互関税発動!』→農林中金『バーゼル規制に引っかかって米国債強制決済…』→トランプ『え、米国債売られまくってる…!?ヤバい!関税90日延期で。日本め、報復しないとか言いながら、とんでもないことしやがる』→石破『なんか知らんけど助かった』→世界『日本ありがとう!』」などと書かれている。
4月18日現在この投稿は840万を超える閲覧、リポスト4900を超える。「日本が神風を起こし世界を救う」「相手はともあれ、やっぱり日本は神の国」といったコメントのほかに、「関税発動直後に農林中金が米国債を売却したのか、時系列が正しいかチェックして」という指摘もある。
検証過程
2025年4月2日、トランプ大統領は米国が輸入する全製品への新たな関税計画を発表。しかし、9日の発動後すぐにこの「相互関税」の90日間停止を発表した。背景には、米国の株式、国債、通貨のトリプル安などがあると指摘されている(NHK)。
農林中金とは
農林中金は農林水産業者の協同組織を基盤とする全国金融機関(農林中金)。貯金規模100兆円、運用資産50兆円規模だ(農林中金)。
農林中金は、2024年6月の段階で、外国債による巨額損失のために2024年度中に10兆円規模で米国債などを売却する方針を打ち出していた(読売新聞)。2024年4〜12月期の連結決算では「含み損を抱えた低利回りの外国債券などを12兆8000億円売却」している(日経新聞)。
理事長が4月の米国債売却を否定
この外国債券の大量売却が、今回の情報拡散に影響していると見られるが、農林中金の北林太郎理事長は日経新聞の記事「農林中金、4月の米国債大量売却否定 運用改革は中長期に」(2025年4月14日)で、「米国債を4月に売却した」という噂について「事実ではない」と否定した。米国債売却は2024年度で終えたと説明している。
北林理事長は、Bloombergの記事「農中新理事長、米国債処理は3月で完了-『分散投資ぶれずにやり抜く』」(2025年4月14日)でも、収益性の悪化した米国債などの債券処理は3月末までに終えたと明らかにしている。
日本ファクトチェックセンター(JFC)は農林中金に米国債の売却について確認した。担当者によると「2024年度は、低利回りの米欧国債の売却を通年で進めた。12月末までの9ヶ月間で12兆8000億円を売却、その後3月までに売却を終えた」という。
判定
農林中金が米国債を大量売却したことが、トランプ氏が相互関税を90日間停止したことに繋がったという主張が拡散したが、誤り。農林中金が米国債を売却したのは相互関税措置発表以前の2024年度。
検証:宮本聖二
編集:藤森かもめ、古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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