トランプ前大統領が「岸田首相はグローバリストの操り人形」と発言する動画?【ファクトチェック】

トランプ前大統領が「岸田首相はグローバリストの操り人形」と発言する動画?【ファクトチェック】

トランプ前大統領が「岸田首相はグローバリストの操り人形でビジョンもリーダーシップもない」と発言している動画が拡散しましたが、誤りです。AIによって作られた音声と映像です。

検証対象

2024年4月29日に、X(旧Twitter)でアメリカのトランプ前大統領が岸田首相をおとしめるような言葉を語る動画が拡散した。この25秒の動画の中でトランプ氏は、「日本の総理大臣の岸田文雄は、大変災難なことに、グローバリストの操り人形(パペット)にすぎず、ビジョンもリーダーシップのスキルもない、日本を愛するナショナリスト安倍晋三とは大違いだ」などと英語で話している。

この動画と内容をテキストにした投稿は、71万を超える閲覧、2800以上のリポストがある。「バイデンのいいなりだ」「その通り」など賛同の書き込みがある一方で「言ってることは良いけど音声とリップシングが少し同期外れる瞬間があるね」「AIだろAI」などと指摘する書き込みも多い。

検証過程

この25秒の動画は途中に4ヶ所の編集点があって、5つのカットがつなぎ合わされている。注意して見ていくと同じ5秒ほどのカットが繰り返し使われていることがわかる。カットの初めは必ず目が下に向き、手が胸に上がってくる。 

動画の冒頭
動画が始まって10秒後、3カット目の冒頭

ポストへの指摘にもあるように注意してみると発話と唇の動きがあっていない。また、画質が荒いのも改変された動画によくある特徴だ。

このトランプ氏の発言の映像の一場面をGoogle画像検索にかけるとYouTubeやインスタグラムなどで複数見つかるが、それぞれ再生してみると話している内容が異なる。中には、同じ映像でトランプ氏の声にもかかわらず、ルーマニア語で語っているものもあった。

Google画像検索の結果画面

拡散した動画は、左上に「made with TryParrotAI.com(TryParrotAI.comにより作成)」と書かれている。このサイトはトランプ氏やバイデン大統領、オバマ元大統領ら著名人をリストから選び、語らせたい言葉を打ち込むと、本人そっくりの音声付き動画がAIで生成される。

日本ファクトチェックセンター(JFC)が、このサイトでトランプ氏を選択して、「Kishida is a great Japanse Prime Minister(キシダは素晴らしい日本の首相だ)」と英語と日本語でそれぞれ入力すると、拡散動画とほぼ同じアングルの動画が30秒ほどで生成された。(英語の例日本語の例

判定

(動画)「トランプ前大統領が『岸田首相はグローバリストの操り人形だ』と発言」は誤り。AIによって生成された映像と音声だ。

あとがき

生成AIによって誰でも簡単に著名人の映像や音声を捏造できるようになりました。しかも、その精度はどんどん向上しています。

驚くような、あるいは怒りを駆り立てるような発言をしていたら、複数の報道機関が伝えていないか探してみたり、画像検索してみたりするなど自ら確認することが必要です。

日本ファクトチェックセンター(JFC)ではこれまでもAIによるフェイク動画についての検証記事を書いています。参考にしてください。

「(動画)アメリカの人気モデルがイスラエル支持を表明」は誤り AIで改変【ファクトチェック】
イスラエル・パレスチナでの武力衝突に関連し、アメリカのファッションモデルのベラ・ハディッドさんが「イスラエルを支持します」と語る動画付き言説が拡散しましたが、誤りです。この動画は2016年のスピーチ映像を改変したものです。 検証対象 2023年10月29日、X(旧Twitter)上でアメリカのファッションモデルであるベラ・ハディッドさんが「イスラエルを支持します」と語る動画が拡散した。このポストは9000回以上リポストされ、表示回数は3034万件を超える。 投稿について「とても嫌だ」とショックを受けるコメントの一方で、「AIによるフェイクだ」という指摘もある。 検証過程 拡散した動画の背景 父がパレスチナ出身のベラ・ハディッドさんはモデルとして活躍するとともに、姉で同じくモデルのジジ・ハディッドさんとともに、パレスチナの平和を訴える発言でも知られる。 今回の武力衝突が始まった後、ジジさんが「イスラエル政府を非難することは反ユダヤ主義ではないし、パレスチナ人を支持することはハマスを支持することでもない」などとInstagramストーリーに投稿。イス

検証:宮本聖二
編集:野上英文、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

日本は世界一の重税国? 繰り返し拡散する誤情報【ファクトチェック】

日本は世界一の重税国? 繰り返し拡散する誤情報【ファクトチェック】

日本は世界一の重税国だという投稿が拡散しましたが、誤りです。国民所得で割った租税負担率や社会保障も加えた国民負担率は、OECD加盟国の中でも比較的低い水準にとどまります。同様の誤った言説は、過去に何度も拡散しています。 検証対象  検証する投稿 2025年11月27日、「日本は世界一の重税国です。皆さん知ってますか?日本は世界一の重税国です。その税金は正しく使われてません。」という投稿が拡散した。 検証する理由 12月1日現在、この投稿は5500件以上リポストされ、表示回数は27万回を超える。投稿について「使い方の説明と改善をしてほしい」「その通りです」というコメントの一方で「OECD平均以下の負担率で助かる」という指摘もある。 検証過程 日本の税負担は諸外国と比べて重いのか。国税や地方税を合計した租税収入金額を国民所得で割った「租税負担率」だけでなく、租税負担に年金や国民健康保険などの社会保障負担を加えた「国民負担率」の両方を比べた。 経済発展や途上国援助などを目的とした国際機関「経済協力開発機構(OECD)」などのデータをもとに、財務省は

By 木山竣策
日本ファクトチェックセンター エディター募集【JFC採用】

日本ファクトチェックセンター エディター募集【JFC採用】

日本ファクトチェックセンター(JFC)では、ファクトチェックやメディアリテラシー教育などの活動を強化するため、エディターを募集しています! インターネットやソーシャルメディアは、私たちの世界を大きく広げてくれました。一方で、拡散する不確かな情報や、悪意ある偽・誤情報によって、社会の分断や混乱が生まれているのも事実です。 「インターネット上の情報を、誰もが安心して活用できる社会にしたい」 そんな思いを共有し、日本ファクトチェックセンター(JFC)の活動をさらに加速させてくれる新しい仲間(エディター)を募集します! 明るく、前向きに、デジタル空間の健全化に取り組んでくれる方を待っています。 検証とリテラシー教育の「両輪」を強化する 総務省の情報通信白書などのデータを見るまでもなく、私たちが日々接する情報量は爆発的に増え続けています。 JFCは、日々拡散する疑わしい言説を検証する「ファクトチェック」とともに、情報の受け手が自分自身で情報の真偽を見極める力を養う「メディアリテラシー教育」の強化にも務めています。 検証と教育。この「両輪」を回すことで、情報の

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ロシアではイスラム教は禁止? 法律で伝統的な宗教の一つと認定【ファクトチェック】

ロシアではイスラム教は禁止? 法律で伝統的な宗教の一つと認定【ファクトチェック】

ロシアでイスラム教が禁止されているという投稿が拡散しましたが、誤りです。ロシアは憲法で宗教の自由を認めています。連邦法でもイスラム教がキリスト教などと並ぶ4つの伝統的な宗教の一つだとしており、イスラム教徒が多数暮らしています。 検証対象 拡散した言説 2025年11月21日、「ロシアではイスラム教が禁止されている」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 12月2日現在、投稿は1900回以上リポストされ、表示は20万件を超える。投稿には「ロシアで禁止されているのは,イスラム原理主義。イスラム教自体は禁止されていない」「デマ流すなよ。ロシア国民の15~20%はイスラム教徒だよ」などの指摘もあるが、「正しい対応。イスラム教は普通の宗教とは違う」「プーチンさんさすが👍それに比べて日本人は?」など同調するコメントも多い。 検証過程 ロシアは法律で宗教の自由とイスラム教を尊重 ロシア憲法は、ロシア語、英語、フランス語、ドイツ語で公開されている。第28条に以下のような条文がある。 「すべての人は、良心の自由および宗教の自由を保障される。これには、個

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
北九州市が50万人のインド人を受け入れ? 全国規模の双方向交流【ファクトチェック】

北九州市が50万人のインド人を受け入れ? 全国規模の双方向交流【ファクトチェック】

「北九州市で 50万人のインド人受け入れが進められてる」という言説が拡散しましたが、誤りです。5年間かけて日本とインドが進める全国規模の双方向交流と混同したものです。北九州市にも交流プログラムはありますが「具体的に何人という話ではない」と説明しています。 検証対象 拡散した言説 「北九州市がインド人50万人を受け入れる」という情報は、遅くとも2025年9月ごろから何度も拡散している(例1、例2、例3)。 2025年11月29日の動画付き投稿では「北九州市で50万人のインド人受け入れが進められている」「インド政府と懇談して交流促進を確認した」「10兆円投資する」などと語られている。 検証する理由 2025年12月1日現在、この投稿だけでも3800件以上リポストされ、表示回数は25万回を超える。同様の投稿は遅くとも9月頃から複数のプラットフォームで何度も拡散している。 投稿について「マズい話が進められてますよ」「インド人が50万人も受け入れたらヤバいことに」というコメントの一方で「国の相互交流として50万人」という指摘もある。 検証過程 イン

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月20日(土)午後2時~3時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1220.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)