「フィリピンの裁判所がビル・ゲイツに国際逮捕状を発行」は誤り【ファクトチェック】

「フィリピンの裁判所がビル・ゲイツに国際逮捕状を発行」は誤り【ファクトチェック】

「フィリピンの裁判所が、ワクチン導入に関する計画的殺人の疑いでビル・ゲイツ氏に国際逮捕状を発行した」という言説が拡散しましたが、これは誤りです。逮捕状に関する事実は確認できず、発行したとされる裁判所(Heinous Crimes Court)はフィリピンに存在しません。

検証対象

フィリピンの裁判所が、ワクチンで死者が急増したことを理由に「殺人の疑いでビル・ゲイツ氏に国際逮捕状を発行した」などという言説が拡散した(例1例2)。3月22日現在、例2は180万回以上の表示、1.4万件以上のいいねを得ている。

リプライ欄には「マジですか?」などと、この言説を真に受ける反応も見られた。一方で、この言説は誤りであるとの指摘が多くなされている。

例1の投稿には、「この投稿は信頼に値しないソースひとつのみに依拠し、フェイクである」として以下の通り、コミュニティノートが付けられている。

This is a fake story, with only one unreliable source reporting it (other sources have picked it up, but cite this original from NewsPunch).

Twitterのコミュニティノートは「誤解を招く可能性があるツイートに、Twitterユーザーが協力して役に立つノートを追加できるようにすることで、より正確な情報を入手できるようにすること」を目的とした機能だ。

この言説に対し、ロイター通信USAトゥデイPolitiFactLead StoriesFactcheck.orgがファクトチェックし、いずれも「誤り」と判定した。

検証過程

この言説が論拠としているのは、米国に拠点を置くNewsPunchによる2023年3月2日の記事。NewsPunchは、偽情報の拡散を繰り返していることで知られており、ロイターなどのファクトチェックでたびたび「誤り」の判定を受けている。

NewsPunchの記事には、マニラにあるHeinous Crimes Court(HCC、直訳すると凶悪犯罪裁判所)が改正刑法248条(共和国法7659号)に基づいて、ゲイツ氏の逮捕状を発行したとの記述がある。しかし、フィリピン国内でゲイツ氏に逮捕状が請求あるいは発行されたとするニュースは確認できない。たとえば、「bill gates arrest warrant philippines」などと検索しても、海外のファクトチェック記事が並ぶ。

そもそも、記事に書かれたHCCという裁判所が存在しない。凶悪犯罪(Heinous Crimes)を専門に扱った裁判所(Heinous Crimes Courts)は2004年に廃止された。フィリピン最高裁判所のホームページのCourt Locatorというサービスで、マニラ市内のすべての裁判所の位置を確認しても、HCCの名前は無い。

検証対象の言説のなか(例2)には、フィリピンが2016年にゲイツ氏のフィリピンの入国を禁止し、国際刑事警察機構(ICPO)に対して「逮捕状」を要請したという主張がある。

元ネタのNewsPunchの記事では、フィリピンが国際逮捕状を発行し、ICPOにRed Noticeとして世界中の警察に取り次ぐように依頼したと記されている。ICPOによると、Red Noticeとは手配人物に関する国際的なアラートで、逮捕状ではない。また警察庁作成の「2022 国際刑事警察機構 ICPO-INTERPOL」を参照すると、ICPOが発行する手配書は8種類あり、赤手配書(Red Notice)は「引渡し又は同等の法的措置を目的として、被手配者の所在の特定及び身柄の拘束を求めるもの」として発行される。

つまり、元ネタのNewsPunchの記事自体も事実無根だが、それを元にした検証対象のツイートはさらに「逮捕状をインターポールに要請」と間違いを重ねていることになる。

ICPOサイトでは発行されているRed Noticeを検索できるが、ゲイツ氏のものはなかった。

判定

以上より、「フィリピンの裁判所がビル・ゲイツ氏に国際逮捕状を発行」は誤りであると判定した。

検証:高橋篤史
編集:古田大輔


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