CIAのアレックス・メイソンがケネディ大統領の射殺犯だった? ゲームキャラを用いた冗談【ファクトチェック】

2025年3月18日、米国は1963年のケネディ大統領暗殺事件で非公開だった機密文書を公開しました。関連して「CIAエージェントのアレックス・メイソンがケネディ大統領の射殺犯だった」とする主張が拡散しましたが、誤りです。アレックス・メイソンは米ソ冷戦を題材にしたゲームに登場する架空のキャラクターで、最初にこの主張をした海外のネットユーザーも冗談だと認めています。
検証対象
2025年3月19日、経済アナリストでインフルエンサーの藤原直哉氏が自身のXアカウントで「JFK ファイルからの速報です。CIA エージェントのアレックス・メイソンが、この現場で 2 人目の射殺犯だったことが明らかになりました。アレックス・メイソンと JFK の写真が公開されました」「アレックス・メイソンは1989年に任務中に殺害され、遺体は発見されなかった」などと主張する投稿をした。
投稿は英語の投稿を引用している。藤原氏は引用元をそのまま翻訳したとみられる。投稿は1600件以上のリポストと70万件以上のインプレッションがある。
「以前から言われていたように CIAが絡んでいたと 答え合わせする感じかな」「もう封印させない。扉は開かれて、情報は流れ出し、止まらない」などのコメントが付き、一定数はこの主張を信じてしまう人がいることを示す一方で、ゲームの登場人物であると指摘する声も多数ある。
検証過程
ケネディ大統領暗殺事件とJFK文書
1963年11月22日、米国第35代大統領のジョン・F・ケネディ氏は、テキサス州ダラスでのパレード中に銃撃されて死亡した。暗殺の実行犯として、ソ連への亡命経験がある元海兵隊員で狙撃地点とされる倉庫の従業員リー・ハーヴェイ・オズワルドが逮捕された。オズワルドは2日後にダラス警察署内で実業家ジャック・ルビーに射殺された。
ケネディ大統領暗殺事件を調査した通称「ウォーレン委員会」は、連邦最高裁長官アール・ウォーレン氏を委員長とし、1964年9月に報告書を発表した。報告書はオズワルドによる単独犯行と認定したが、オズワルドの動機が不明なことや、冷戦下で米国と対立した国家との関わり、オズワルドが殺されたことなどから、事件後も陰謀論が根強く広がっている。
捜査資料などケネディ大統領暗殺事件に関する「JFK文書」は1992年の法律で2017年までの全面公開が義務付けられ、第一次トランプ政権やバイデン政権などでも公開が進められていたが、個人情報の保護や安全保障上の理由から一部は非公開とされてきた。
2025年1月に第二次政権を発足させたトランプ大統領は、政府が機密指定しているJFK文書の全面公開を指示する大統領令に署名。3月18日に米国立公文書館(NARA)のウェブサイトに1000点を超える文書が掲載された。
新たに公開された文書の精査には時間がかかる。しかし、ウォーレン委員会の報告書による結論を覆すような新事実が含まれる可能性は低いと見られている(以上、ロイター通信、CNN、ニューヨーク・タイムズ、BBC、日本経済新聞)。
「アレックス・メイソン」はゲームに登場する架空のキャラクター
藤原氏や引用元の投稿は、「アレックス・メイソン」という名前のCIA職員がケネディ大統領暗殺の実行犯だったと主張している。
日本ファクトチェックセンター(JFC)がアレックス・メイソンとされる人物の画像をGoogleレンズで画像検索したところ、2010年に発売された米ソ冷戦を舞台にしたFPSシューティングゲーム「Call of Duty: Black Ops」の登場キャラクター「アレックス・メイソン」の画像と一致した。
現在、「Call of Duty」公式サイトには最新作の情報しか掲載されていないが、Call of Duty JapanがYouTubeにアップロードしている動画や当時のゲーム専門サイトの記事によれば、メイソンはアメリカ軍特殊部隊員でCIA工作員という設定で、彼が過去に経験した作戦をプレイヤーがなぞっていくというストーリー。「Call of Duty: Black Ops」シリーズの物語は1961年に始まり、劇中の1989年に任務に失敗したメイソンは他の登場人物に殺されてしまうという(Call of Duty Japan、ファミ通.com、4gamer.net)。
つまり、アレックス・メイソンはゲーム内の登場人物で、彼がCIAエージェントであることや1989年の任務中に殺害されたという情報は全て架空の設定だ。
引用元の投稿者は冗談だと明言
藤原氏が引用した引用元の投稿者は、藤原氏の投稿をさらに引用する形で「こんにちは、日本の友達の皆さん。でもこのツイートはアレックス・メイソンのCall of Duty: Black Ops(2010)のもので、冗談です」などと日本語で投稿。
また、海外ユーザーからの「Almost got with Call of Duty lore(Call of Dutyの設定をほぼ踏襲している)」とのリプライに「Dawg mfers actually believe this 😂😂😂(馬鹿は本当にこれを信じている)」と返答している。
なお、記事執筆時点で藤原氏は投稿の撤回や訂正、冗談であったという補足はしていない。
判定
「CIAエージェントのアレックス・メイソンがケネディ大統領の射殺犯だった」とする主張は誤り。ゲーム「Call of Duty」に登場する架空のキャラクターを用いた冗談だ。
あとがき
今回公開された「JFC文書」は約8万ページに上る膨大な量で、全てのファイルを開くだけでも2日を要するなど解析には時間が掛かると報じられています(共同通信、読売新聞)。
政治家が襲撃・暗殺されるような社会的に大きな事件は、陰謀論を含めた偽・誤情報が拡散します。
今回検証対象としたケネディ大統領の事件では、60年以上が経った現在に至るまで米国民の6割以上がオズワルドによる単独犯行ではなく組織的な暗殺だと考えているとの調査結果があります(NHK)。
日本でも、岸田文雄首相(当時)が演説中に爆弾を投げつけられた事件や、政治団体党首の立花孝志氏が刃物で切り付けられた事件で偽・誤情報が拡散しました。JFCではこれらを検証し、「誤り」と判定しています。


疑わしい情報を目にしたときは、落ち着いて事実を確認することが大切です。
検証:リサーチチーム
編集:藤森かもめ、古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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