カーニバルで原爆投下を揶揄して喜ぶブラジルの朝鮮人? 原爆の被害を表現し日系人も協力【ファクトチェック】

カーニバルで原爆投下を揶揄して喜ぶブラジルの朝鮮人? 原爆の被害を表現し日系人も協力【ファクトチェック】

「ブラジルのカーニバルで原爆投下を揶揄して喜ぶブラジルの朝鮮人」という言説が拡散しましたが、誤りです。拡散した動画の山車はブラジルのサンバチームが原爆の被害を伝えようと作成し、日系人が協力したものです。

検証対象

2024年9月5日、「ブラジルのカーニバルで原爆投下を揶揄して喜ぶブラジルの朝鮮人」という言説が拡散した。添付された動画には広島の原爆ドームやきのこ雲をモチーフにした山車が映っている。

2024年9月6日現在、この投稿は5200件以上リポストされ、表示回数は770万件を超える。投稿について「これは酷い」「日本でニュースにしないといけない内容」などのコメントがある。

検証過程

動画は2020年のカーニバル

動画をGoogleレンズで検索すると、ブラジル・サンパウロで開催されたカーニバルについての記事(南米のカーニバルに原爆山車 日本人に誤解された意図 朝日新聞)がヒットする。記事によると、出場したサンバチーム「アギア・ジ・オウロ」が、B29やキノコ雲、炎に燃える原爆ドームを山車で再現し、広島や長崎にルーツを持つ日系人も参加したという。

このカーニバルは「知識の善悪」をテーマにし、サンバチームは「史上、最悪な形で知識が使われた例」として原爆を山車で表現したという。参加した川添博・長崎県人会会長(当時)は「参加する県人会の人も、これを機会に原爆について学び、パレードを目にしたブラジル人にも原爆の悲惨さを感じてもらえたと思う。参加した人は、カーニバルがただ騒ぐものではないと理解したはずだ」と語っている(サンパウロ=アギア・デ・オウロが初優勝=原爆ドーム山車に賛否両論も=今年も日本人・日系人大活躍 ニッケイ新聞)。

サンバチーム「世界に対する強い警告」

一方で、当時、現地報道を見た日本人からは「不愉快だ」などの意見も出たという。

日本からの批判をうけ「アギア・デ・オウロ」は在日ブラジル大使館のXアカウントを通して「私たちブラジル人にとってこのパレードは実は大規模な野外オペラであり(中略)ブラジルには様々な形態のカーニバルがあり、ブロッコやヘシッフェのフレーヴォ、サウヴァドールのカーニバルなどは単なる娯楽の祭りです」と全てのカーニバルが娯楽だけの祭りではないと説明。

原爆ドームをモチーフにした山車については「この山車では、広島と長崎出身の移民の子や孫、ひ孫の方々をはじめとする日系人が悲劇を演じています」「他の民族や人々にかくも大きな苦しみを与えることを二度と許してはならないという、世界に対する強い警告です」と声明を出している。

当時の長崎市長「カーニバルで表現しようとした意図に賛同します」

田上富久長崎市長(当時)は「長崎市長として、今回皆さんがサンパウロのカーニバルで表現しようとした意図に賛同します。そして、カーニバルでの表現のどこにも私たちの平和への思いや文化を汚そうとする気持ちがないことを信じます」とコメントしている(長崎市長が感謝のメッセージ=サンパウロ市カーニバルの原爆騒動に=県人会の意図を理解、賛同 ニッケイ新聞)。

判定

拡散した動画の山車はサンバチーム「アギア・デ・オウロ」によって製作され、カーニバルの意図に賛同した日系人が演じている。よって「原爆投下を揶揄して喜んでいたのはブラジルの朝鮮人たち」は誤りと判定した。

検証:木山竣策
編集:宮本聖二、古田大輔

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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