注目の集まる出来事では多くの偽情報が拡散するフランス暴動【ファクトチェックまとめ】
フランスで、北アフリカ系の少年の射殺事件をきっかけに広がった抗議や暴動と関連付けたと見られる画像や言説が世界中で拡散し、その中には多くの誤情報/偽情報がありました。検証結果をまとめました。
検証対象
フランスでは、2023年6月27日、警察官が交通検問を拒否した北アフリカ系の17歳の少年を射殺。この事件への抗議がフランス各地へ広がり、暴動に発展。逮捕者は7月6日までに3000人を超えた。今回は、フランスの暴動に関連した複数のツイートを検証対象とした。
検証過程
①「フランスで1時間前に撮影された警察車両の写真」
2023年7月2日、「こちらが、フランスで1時間前に撮影された写真になります」という文言とともに、複数の人物が警察車両から身をのりだしている画像がTwitter上で拡散した(例1)。同一の画像を使った英文の別のツイートでは、例1を超える拡散があった(例2、例3)。
Forbesの記事やBBCのファクトチェック記事は、この画像がフランス映画の一場面で、フランス警察による北アフリカ系少年射殺事件をきっかけに起きた暴動との関連はないとして、「偽画像」だと判定している。
拡散した画像をGoogleレンズなどで検索すると、もとの画像に行きつくことができなかったものの、BBCの記事が検索上位にヒットした。
この記事によると、画像は、米配信大手のNetflixが2022年から配信公開しているフランス映画「アテナ(原題:Athena)」の一場面だという。Youtube上で公開されている映画のインタビュー動画やメイキング動画を確認したところ、拡散した画像が、映画の一場面であることがわかった。NHKの記事も同様に報じている。
②「テロ組織が動物園から動物を逃がした」
逃げ出した動物の映像で、今回の暴動によるフランス国内の混乱ぶりを強調する言説もある。たとえば、道路上を走る馬やシマウマの動画とともに、「テロ組織が動物園(フランス)の檻を外してしまった。街中にライオン、シマウマ、象が走り回ってる。ライオンが走り回ってるなら外にも出られない。」というものだ。
仏日刊紙のLe Parisianの記事によると、動画は、ロックダウン下の2020年4月10日にパリ郊外のシャンピニー(Champigny)とシュヌビエール(Chennevières)で撮影されたもの。道路を走るシマウマなどは、近くのサーカスからに逃げ出したという。この動画については、フランス語版のHUFFPOSTの記事や英Daily Mail紙の記事も同様に報じている。
③「パリで連続する空爆や爆発」
暴動に関連して「フランス(パリ)は先日から再び、あちこち爆破され続け😢燃え続け、ベルギーにも飛び火している。移民によるテロとの話だが、何が何だか。。。」とする引用リツイートも拡散した。引用したのは、パリ市内にあるエッフェル塔とみられる建造物などで爆発が起きる動画つきのツイート。
この動画を付けた別のツイートには、Twitterのコミュニティノートがつけられている。コミュニティノートやそのソースであるNewsweek紙の記事によると、動画は、ウクライナ国防省が2022年3月に作成したものだという。
実際に、ウクライナ国防省のアカウントが2022年3月にこの動画をツイートしている。動画内のパリとみられる街での爆撃や爆破の様子は合成だった。動画の目的は、NATOに対して、ウクライナ上空に「飛行禁止空域(No Fly Zone)」の設定を求めることだったとされる。なお、Forbesの記事はウクライナ国防省がこの動画を公開した直後、この動画が偽情報に利用されるリスクを指摘していた。
④「抗議や暴動に参加する黒づくめの集団」
「これが(フランス)市民なのか?戦闘部隊だろ。テロ確定。」という文言とともに、黒い衣服をまとった集団がトラックから降りている動画をのせたツイートが拡散した。動画の作成者による別のツイートには、コミュニティノートが付けられている。
コミュニティノートによると、動画が撮影されたのはフロリダ州タラハシー市で、近くにはフロリダ州立大学がある。もとの動画では、同大学の学生らがそろいの衣装を身につけている姿が確認でき、拡散したトラックから降りる黒い衣服の集団もそのひとつであるとわかる。
⑤「フランスのルイ・ヴィトンを襲撃する人々の動画」
「フランスのルイ・ヴィトンを襲撃する人々」とコメントをつけた動画(例4、例5)もTwitter上で拡散した。この動画については、AP通信の記事や日本のファクトチェック団体のリトマスの記事がファクトチェックをしており、いずれも「誤り」だと判定している。もとの動画は、2020年にアメリカのポートランドで撮影されたものだった。VOAの記事によると、当時、ポートランドのルイ・ヴィトンの店舗には、窃盗の目的で多数の人が侵入したという。
⑥「教会がイスラム教徒によって焼き払われた」
射殺事件の被害少年が北アフリカにルーツを持つことに関連させて「美しい 16 世紀に建てられたフランスの教会がイスラム教徒によって焼き払われた。」との文言のツイートが拡散(例6)。300万回以上の表示と7800件以上のリツイートを獲得しているが、コミュニティノートには教会での火災の背景情報が載せてある。
フランス文化省の発表によると、2023年7月7日、フランス北東部マルヌ県のドルネ(Drosnay)にある木造教会が焼失した。この木造教会は、16世紀に代表的なハーフティンバー様式を採用しており、1982年12月には国の歴史的建造物の指定を受けていた。
同省によると、マルヌ県都のシャロン=アン=シャンパーニュの検察が出火原因の調査を開始したという。出火原因は未だ不明だが、フランスのJournal L'Est Éclair紙は電気系統のトラブルの可能性を指摘している。
判定
①について、拡散した画像はフランス映画の一場面で、「フランスで1時間前に撮影された写真」ではない。②について、動画が撮影されたのは2022年で今回のフランスの暴動との関連はない。③について、爆撃や爆発に見舞われる街の動画はウクライナ国防省が作成したもので、実際に空爆は起きていない。④について、トラックから降りる黒づくめの集団の動画はアメリカで撮影されたもので、フランスの暴動との関連はない。⑤について、フランスの店舗ではなく、アメリカの店舗だった。⑥は、検察による捜査が終了していないため、出火原因は判明していない。したがって、今回取り上げた言説は全体として「誤り」であると判定した。
検証:高橋篤史
編集:古田大輔
検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。
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