今年のインフルエンザワクチンはmRNA?【ファクトチェック】
「今年のインフルエンザワクチンはmRNA」というツイートが拡散しています。欧米の製薬会社は、インフルエンザのmRNAワクチンを開発中ですが、まだ臨床試験中で、接種段階には至っていません。
検証対象
毎年、秋冬に猛威をふるうインフルエンザに関して、2022年度に日本で接種されるワクチンは「(新型コロナウイルスワクチンにも使用されている)mRNAだ」というツイートが広く拡散している。
2022年10月13日時点で1.2万いいねが付き、「私も打ちません」「グローバル企業が政府に命令してまず人口削減をしています」といったコメントがある一方、「インフルエンザワクチンはいつものと同じでーす」「第Ⅲ相治験すらまだです」といった指摘もある。
検証過程
mRNAワクチンは、ウイルスのタンパク質をつくるもとになる遺伝情報の一部を注射するワクチン。日本ファクトチェックセンター(JFC)が、厚労省が業務委託しているインフルエンザなど感染症・予防接種の相談窓口に問い合わせたところ、今年度のインフルエンザワクチンはmRNAワクチンではなく、「従来通りの『不活化ワクチン』です」との回答を得た。不活化ワクチンは、感染力をなくした病原体や、病原体を構成するタンパク質からできている。
厚労省予防接種室が2022年3月23日付で作成した「海外製季節性インフルエンザワクチンの開発状況等について 」には、海外の開発状況も考慮するとの記載があるが、予防接種相談窓口の担当者は「確かに以前はmRNA等の海外製季節性ワクチンが議題に上がることはあったが、現在、日本では承認されていない」と説明。インフルエンザのmRNAワクチン開発が急激に進んだ場合についても、「今シーズンは、2022年4月に決めた製造株をもとに作られたワクチンを接種する。基本的に今年度中の接種には使わない」と話した。
判定
2022年度のインフルエンザワクチンは2021年度までと変わらず不活化ワクチンで、「今年のインフルエンザワクチンはmRNA」というツイートは誤り。
あとがき
mRNAを使用したインフルエンザワクチンは現在、欧米の製薬会社が開発中です。アメリカの経済誌Forbesは、2022年9月18日の記事で「ファイザーによると、ドイツのバイオベンチャー、ビオンテックと開発した新型コロナワクチンと同じmRNA技術を用いたインフルエンザワクチンを、第3相臨床試験の最初の参加者に投与した」と報じています。また、「インフルエンザのmRNAワクチンは米モデルナも開発しており、2022年6月に第3相臨床試験を始めている」とあります。
最新情報を知るため、ファイザーとモデルナに問い合わせました。ファイザーは「インフルエンザウイルスに対するmRNAワクチンに関しては、2022年9月14日付で、米国で第3相試験を開始したことに関するプレスリリースを出しております」と回答。医薬品の研究開発に関して公開しているもの以上の情報は開示できないとのことでした。モデルナも「承認されていない製品に関する情報をお伝えすることはできない」との回答でした。
今回の検証対象は「今年度のインフルエンザワクチンがmRNA」かどうか、でした。誤った情報が拡散する背景にはmRNAワクチンに対する根強い不信感があります。この点を、新型コロナウイルス感染症の情報を発信する「こびナビ」副代表の木下喬弘さんに聞きました。
木下さんは「新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンは治験や市販後の調査で継続的に有効性と安全性が評価されており、技術そのものに問題はありません」と説明します。そのうえでこう指摘しました。
「『有効性と安全性の検証が行われていない医薬品が使用される』というミスリードには問題がある。臨床試験は参加者に十分な説明をし、同意を得て行うもので、知らないうちに参加することや、検証が不十分な医薬品を同意なく使用されることはありません」
検証:杉江隼
編集:藤森かもめ、野上英文
修正
検証対象の文言以外の部分をmRNAからmRNAワクチンという表記に修正しました。
検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。
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