日本赤十字社が「レプリコンワクチン接種後の献血をお控えいただく場合がある」と広報? 接種後48時間で献血できる【ファクトチェック】

日本赤十字社が「レプリコンワクチン接種後の献血をお控えいただく場合がある」と広報?  接種後48時間で献血できる【ファクトチェック】

元総務大臣で立憲民主党の原口一博氏が「日本赤十字社はレプリコンワクチン接種後の献血をお控えいただく場合があることを広報」と投稿しましたが、ミスリードで不正確です。日赤は他のワクチンと同様に採血制限の時間を設けているだけで、レプリコンは接種後48時間で献血できます。

検証対象

2024年10月5日、原口氏が「日本赤十字社はレプリコンワクチン接種後の献血をお控えいただく場合があることを広報(2023.12.22) 同社はレプリコンが今までのワクチンと違うことを認識している」とX(旧Twitter)に投稿した。

投稿には原口氏が語る動画が添付されている。その中で原口氏はワクチン、特にレプリコンワクチンの危険性を主張しており、採血制限にも触れている。

この投稿には10月11日までに33万以上の閲覧と600を超すリポストがある。「大切な情報ですね」などとレプリコンワクチンの危険性を懸念する投稿がある一方で、「どんなワクチンでも接種後一定期間献血できないって今まで通りだろ」「国会議員が間違った情報を流すのはどうなんですかね」といった批判的なコメントもついている。

検証過程

ワクチン接種後は採血制限がある

血液事業に取り組む日本赤十字社は、新型コロナに限らず、ワクチン接種後は一定の時間が経過するまで献血を受け入れていない(採血制限)。

その理由について、採血制限を検討する厚生労働省「薬事審議会血液事業部会(安全技術調査会)」は「献血する人の保護」「血液製剤の安全性の向上」の2つの観点からと説明する(厚労省「新型コロウイルス感染症に係る対応について」)。 

採血ができない期間はワクチンの種類によって異なる。

厚労省薬事・食品衛生審議会 (血液事業部会安全技術調査会)の資料より

レプリコンワクチンの採血制限は48時間

新型コロナのワクチンは、2024年10月1日から65歳以上の高齢者などへの定期接種が始まった。これまでのmRNAワクチンだけでなく、Meiji Seika ファルマ社の「レプリコンワクチン」が今回初めて使用される。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、厚労省血液対策課にレプリコンワクチン接種後の採血制限について取材した。

mRNAワクチンは、2021年4月の厚労省の薬事審議会血液事業部会安全技術調査会で、接種後の発熱などが多く見られる期間を考慮し、接種後48時間の採血制限が設けられた。レプリコンワクチンは2024年9月27日に、臨床試験の結果から接種後の副反応の発現時期や持続期間は従来のmRNAワクチンと同等だと判断された。

また、血液製剤の安全性の点では、筋肉内注射した部位からmRNAが血中に排出される量は48時間で1/100にまで減衰するという報告に基づいて、採血制限は48時間となった(厚労省「新たに承認された新型コロナウイルスのワクチン接種者の採血制限について」)。

日本赤十字社もワクチンの採血制限の期間について、同様の内容を一覧にしてウェブサイトで公開している(日赤「一定期間内に予防接種を受けた方)。

判定

「日本赤十字社はレプリコンワクチン接種後の献血をお控えいただく場合があることを広報」「同社はレプリコンが今までのワクチンと違うことを認識している」という言説は、ミスリードで不正確。日赤は、レプリコンワクチンを接種した人も他のmRNAワクチン同様、接種から48時間で献血できると説明している。

あとがき

10月1日から65歳以上の高齢者などを対象に新型コロナウイルスワクチンの定期接種が始まりました。今回から「レプリコンワクチン」と呼ばれる新しいmRNAワクチンが使われるようになりましたが、このワクチンに対する偽・誤情報が多数拡散しています。

ワクチンを接種する際は、公的機関の発信を確認するなど、正しい情報をもとに判断することが大切です。

検証:宮本聖二
編集:古田大輔、藤森かもめ

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

ファクトチェックやメディア情報リテラシーについて学びたい方は、こちらの無料講座をご覧ください。ファクトチェッカー認定試験や講師養成講座も提供しています。

理論から実践まで学べるJFCファクチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験
JFCファクトチェック講師養成講座を開講 お申し込みはこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックや関連するメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を開始します。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 開講は10月26日で、お申し込みはこちら。1回の受講で修了となり、今後の開講予定はウェブサイトやニュースレターなどで公開します。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識と行動が偽・誤情報対策として有効かを分析し、誰でも無料で視聴できる「ファクトチェック講座」を2024年7月に公開しまし

もっと見る

今も続く兵庫県知事選の誤情報/政治家の偽情報が相次ぎ拡散/生成AIのリスクに対応する法案【今週のファクトチェック】

今も続く兵庫県知事選の誤情報/政治家の偽情報が相次ぎ拡散/生成AIのリスクに対応する法案【今週のファクトチェック】

兵庫県知事選挙からひと月以上が経過しても関連した誤った情報が出続けています。国会議員に関して発言の切り取りや捏造した画像が拡散しました。日本でも高まる生成AIのリスクに対して、政府が法案を作成する方針を出しました。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのニュース 2024年はこれまで以上に大量の誤情報/偽情報が拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)は1年間で330件(2023年173件)の検証記事、50件の解説記事や教育講座を公開しました。その中で「10大ファクトチェック」をまとめました。 選挙、兵庫県知事、偽広告... 2024年の10大ファクトチェックは2024年はこれまで以上に大量の誤情報/偽情報が拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)は1年間で330件(2023年173件)の検証記事、50件の解説記事や教育講座を公開しました。 選挙の年だっただけに、

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
選挙、兵庫県知事、偽広告... 2024年の10大ファクトチェックは

選挙、兵庫県知事、偽広告... 2024年の10大ファクトチェックは

2024年はこれまで以上に大量の誤情報/偽情報が拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)は1年間で330件(2023年173件)の検証記事、50件の解説記事や教育講座を公開しました。 選挙の年だっただけに、最も多く検証した話題は「政治」で、全体の32.1%を占めました。2位「国際」(16.8%)はアメリカ大統領選やトランプ次期大統領がらみの情報が目立ちました。3位「災害」(9.2%)は主に能登半島地震です。 この記事は2024年に拡散した偽・誤情報やその検証の中でも影響が大きく、注目を集めたものをまとめました。選考基準は読まれた回数だけでなく、ソーシャルメディアでの反応、社会的な影響の大きさなども加味しました。 誤った情報は繰り返し拡散します。間違いだと知りつつ故意に発信する人もいれば、正しいと信じて拡散する人もいます。まとめ記事で傾向を知ることは、2025年に同様のフェイクニュースが拡散することを防ぐことにも役立ちます。 情報生態系の混乱は、さらに拡大していくでしょう。備えるためにも、ぜひ御覧ください。良いお年を。 能登半島地震 1月1日に発生

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
2025年1月から軽自動車の自賠責保険、修理費用が170%値上げ? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

2025年1月から軽自動車の自賠責保険、修理費用が170%値上げ? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

2025年1月から軽自動車の自賠責保険170%、車検費用は120%、修理費用が170%値上げという情報が拡散しましたが、誤りです。情報はまとめサイトの記事を引用したもので、情報のソースはありません。 検証対象 2024年12月16日、自動車保有者の負担の国別比較とする棒グラフと共に、「【悲報】2025年1月から軽自動車の維持費が大幅値上げ」「自賠責保険証170%、車検費用平均120%、修理費用平均170%値上げ、10年落ちの軽自動車は更に自賠責保険料増額」という情報が拡散した。 2024年12月26日現在、この投稿は2万件以上リポストされ、表示回数は300万回を超える。投稿について「軽自動車のメリットがなくなっていく」「車ないと生活できないのに」というコメントの一方で「これで合ってるかな?」という指摘もある。 検証過程 ソースのないまとめサイトを引用 検証対象のリンクはまとめサイト「NewsSharing」の記事だ。2つのX投稿を引用している。 1つは2024年12月15日にXユーザーが投稿した「軽自動車の維持費こんなに値上げすんのか?」という投

By 宮本聖二
トルコ・エルドアン大統領が「クルドを絶滅させる」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

トルコ・エルドアン大統領が「クルドを絶滅させる」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

トルコ・エルドアン大統領が「クルドを絶滅させる」と発言したという情報が拡散しましたが、不正確です。拡散した投稿は、まとめサイトのXアカウントで、見出しは掲示板サイトのスレッドタイトルを引用しているだけです。引用元とされるサイトは、円と外貨の為替レートを表示するもので、エルドアン大統領の発言に関する情報ではありません。 検証対象 2024年12月25日、「トルコ、エルドアン大統領『ク◯ドを絶滅させる』」という情報が拡散した。 2024年12月27日現在、この投稿は600件以上リポストされ、表示回数は7万回を超える。投稿について「是非ともお願いします」「流石」というコメントの一方で「んなわけあるか」という指摘もある。 検証過程 まとめサイトと添付記事の内容が不一致 検証対象のリンクは、まとめサイト「TweeterBreakingNews-ツイッ速!」の記事だ。タイトルは掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「トルコ、エルドアン大統領『クルドを絶滅させる』」で、ソースと書かれているリンクは為替レートのサイトでエルドアン大統領に関する情報は一切ない。 関連

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)