マイナ保険証の利用には「紙の資格情報」が必要? 一部の場合のみ【ファクトチェック】

マイナ保険証の利用には「紙の資格情報」が必要? 一部の場合のみ【ファクトチェック】

「マイナ保険証は『紙の資格情報』というのも一緒に持って行く事になる」という言説が拡散しましたが、不正確です。必要になるのはマイナンバーカードの読み取り機がない病院や、システムエラーが起きた時など一部の場合で、通常は必要ありません。

検証対象

2024年11月24日、「12月から運用されるマイナ保険証は『紙の資格情報』というのも一緒に持って行く事になるらしい」「プラスチックではなくて本当にペラッペラの紙らしい」という動画付き言説が拡散した。

動画はフジテレビ系の情報番組「めざまし8」の画面を撮影したもので、マイナ保険証と「資格情報のお知らせ」の紙について紹介している。

2024年11月28日現在、投稿について「何でこんな無駄な事ばかりするのだろう」「どんどん生活が不便になる」というコメントがある一方で「こんなの持っていく必要性ないぞ」という指摘もある。

検証過程

マイナ保険証とは、保険証として利用登録されたマイナンバーカードだ。医療機関・薬局で健康保険証として利用することができる(マイナポータル)。

2024年12月2日以降、紙の保険証は新たに発行されなくなり、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する。手元に健康保険証のある人は有効期限まで最長1年間利用することができる(厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用について」)。

マイナ保険証を持っていない(マイナンバーカードの健康保険証利用登録をしていない)人には、現行の健康保険証の有効期限内に「資格確認書」が無償で配られる(厚生労働省「資格確認書について」)。

「資格情報のお知らせ」が必要な場合は

検証対象にある「紙の資格情報」とは、正確には「資格情報のお知らせ」だ。投稿に添付された動画にも出てくる。

これはマイナ保険証への移行に伴い保険者(勤務先や各自治体など)から送付されるもので、加入する保険資格を確認することができる。

注意が必要なのは、マイナ保険証を持っていない人に配られる「資格確認書」とは別物ということだ。「資格確認書」と違い、「資格情報のお知らせ」だけでは保険診療を受けることができない(デジタル庁)。

拡散した言説に添付されためざまし8の動画を確認すると「(資格情報のお知らせ書面が)どういった時に必要になるかと言いますと、読み取り機がない病院や、読み取り機のシステムエラーがあった場合にマイナ保険証と一緒に提示する場合がある」と、必要になるのは一部の場合であると説明している。

つまり、添付したテレビ番組では正確に説明をしているが、番組を引用した投稿ではマイナ保険証の利用には「紙の資格情報(資格情報のお知らせ)」が必要と間違った説明がされている。

マイナ保険証とスマートフォンでも受診可能

全国健康保険協会によると、マイナ保険証のオンライン資格確認等システムを導入していない医療機関等ではマイナ保険証と「資格情報のお知らせ」が必要になる。

また、「資格情報のお知らせ」の代わりにスマートフォンのマイナポータルの資格情報画面を提示することでも受診することができる。

判定

「紙の資格情報」が必要になるのはオンライン資格確認などシステムを導入していない医療機関を受診する際や、読み取り機のシステムエラーがあった場合のみで、スマートフォンのマイナポータルで代用することも可能だ。よって不正確と判定した。

検証:木山竣策
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

大地震の前にトカラ地方で群発地震が発生する「トカラの法則」? 科学的根拠なし【ファクトチェック】

大地震の前にトカラ地方で群発地震が発生する「トカラの法則」? 科学的根拠なし【ファクトチェック】

鹿児島県・トカラ列島付近で群発している地震は大地震の予兆の「トカラの法則」だという情報がYouTubeなどで拡散していますが、誤りです。群発地震が大地震の予兆だという科学的根拠はありません。 検証対象 2025年6月∼7月、トカラ列島付近で地震が群発していることに関連して「トカラ列島の地震には『トカラの法則』というものがある」「トカラ列島で群発地震があった後、日本で巨大地震が起きる」という情報が複数のプラットフォームで大量に拡散している(例1,2,3,4)。 投稿について「とても勉強になります」「参考になりますね」などのコメントの一方で「恐怖を煽るのは、止めなさい」などの指摘もある。 検証過程 トカラ列島での群発地震 鹿児島県のトカラ列島では、2025年6月21日から7月1日までに700回を超える震度1以上の地震が群発的に続いている。(朝日新聞"トカラ列島の地震700回超す 悪石島では崖から砂煙も、男性が撮影”)。 この群発地震にあわせて、ネット上では大地震の予兆であるかのような情報が拡散した。 動画の内容と「トカラの法則」 トカラ列島で群

By 木山竣策
小泉進次郎氏が選挙期間ではないのにシートベルトなしで箱乗り?  動画は2024年の選挙期間のもの【ファクトチェック】

小泉進次郎氏が選挙期間ではないのにシートベルトなしで箱乗り? 動画は2024年の選挙期間のもの【ファクトチェック】

自民党の小泉進次郎氏が選挙期間中ではないのにシートベルトをせずに車に乗っていたという動画が拡散しましたが、誤りです。動画は2024年の衆議院議員選挙中に撮影されたもので、選挙期間中、候補者はシートベルトを着用する義務が免除されるので違法にはなりません。ただし、車から体を乗り出す行為については危険視する自治体もあります。 検証対象 2025年7月1日、「小泉進次郎氏が選挙期間でもないのにシートベルトなしで箱乗りしている」と主張する動画つき投稿が拡散した。 動画には、小泉氏が車の後部座席の窓から上半身を出し、手を降る姿が映っている。 2025年7月1日現在、この投稿は1100件以上リポストされ、表示回数は120万回を超える。投稿について「ルール守れや」「牢屋行き」というコメントの一方で「まずいつの動画なのかを調べよう」という指摘もある。 検証過程 動画は2024年の選挙中に撮影 拡散した動画をGoogleレンズで検索すると、2024年10月19日にXに投稿された同じ動画が見つかる。2024年には衆議院議員選挙があり、10月15日に公示、27日が投開票

By 木山竣策
日本政府が75歳以上の中国人観光客に対するビザ申請要件を撤廃? 緩和の発表はあったが撤廃していない【ファクトチェック】

日本政府が75歳以上の中国人観光客に対するビザ申請要件を撤廃? 緩和の発表はあったが撤廃していない【ファクトチェック】

2025年6月30日、「日本政府が中国人観光客に対する75歳以上のビザ申請要件を撤廃した」という投稿がXで拡散しましたが、誤りです。2024年12月、岩屋毅外務大臣が、中国人の観光ビザに関する発給要件を緩和すると発表したのは事実ですが、撤廃ではありません。また、2025年7月1日現在、緩和は始まっていません。 検証対象 2025年6月30日、「日本政府が中国人観光客に対する75歳以上のビザ申請要件を撤廃した」「従来は、75歳を超えると同行者の同伴や追加の健康診断書が必要でしたが、それらがすべて撤廃されました」という情報がXで拡散した。 2025年7月1日現在、リポストは1.9万回、表示回数は874万件を超える。投稿には「迷惑でしかない」「どういう大義でその判断がなされてるのか全く理解できない」などのコメントや、「外務省が6月26日に公開している件でしょうか。『75歳以上』はどこに記載があるのでしょうか」という指摘も寄せられている。 検証過程 中国人の訪日にはビザが必要 外国籍の人が日本を訪れる場合、日本のビザを取得する必要がある。中国はビザ免除国で

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
万博を訪れた子どもたち、肺炎で学級閉鎖が相次ぐ? そのような事実は確認できない【ファクトチェック】

万博を訪れた子どもたち、肺炎で学級閉鎖が相次ぐ? そのような事実は確認できない【ファクトチェック】

「大阪万博の会場でレジオネラ菌入り殺虫剤をまいたため、子どもたちに肺炎の症状が出て学級閉鎖が相次いでいる」という情報が拡散しましたが、根拠不明です。会場で使われた殺虫剤にレジオネラ菌は含まれていません。また、体調不良を引き起こすほどのレジオネラ属菌は検出されておらず、大阪の学校で例年より多い学級閉鎖が起きているという事実も確認できません。 検証対象 2025年6月6日、「大阪の小中学校で学級閉鎖が流行っているらしい。 それも、万博に行った子どもたちが体調不良が続出しているらしい」「暑さ対策のため地面から吹き上がるミストやウォータープラザの海水などから殺虫剤の成分(レジオネラ菌)が噴出→子どもたちが暑さ対策のミスト(殺虫剤成分含む)を浴びて後日肺炎の症状を発症」などと記した投稿が拡散した。 この投稿は2025年7月1日現在、149万回以上の閲覧回数と2700件以上のリポストを獲得している。 投稿について「後先考えずやった結果が未来の子供達にツケを負わせるとはな」「万博へ行く方は殺虫剤ミストにお気をつけて」というコメントの一方で「これはデマです」という指摘もあ

By リサーチ チーム

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は7月22日(火)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0722.peatix.com/ 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的に

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)