「トランプを攻撃するために新ウイルスを設計」とビル・ゲイツが認めた? 発言の改変と誤引用【ファクトチェック】

「トランプを攻撃するために新ウイルスを設計」とビル・ゲイツが認めた? 発言の改変と誤引用【ファクトチェック】

「トランプ氏を攻撃するために新ウイルスを設計していた」とビル・ゲイツ氏が認めたという情報が拡散しましたが、誤りです。情報の元となった発言はゲイツ氏のものではなく、しかも、改変されています。

検証対象

2024年12月7日、「ビルゲイツ、トランプ大統領を弱体化させる為にエリートが致死的な新ウイルスを設計していた事を認める」というポストが拡散した。

ポストは「世界のエリート等は、政治的な出来事を混乱させ、トランプ政権を機能不全に陥れる為に戦略的にタイミングを計り、新たな致命的なウイルスの波を解き放つ計画を立てていると報じられている」などと続く。

2024年12月11日現在、このポストは1600件以上リポストされ、表示回数は38万回を超える。投稿について「何だコイツは💢」「えっまだ野放しですの⁉️」というコメントの一方で、「じゃあなぜ捕まえない?」などの意見もある。

検証過程

検証対象のテキストの最後に「Source:@tpvsean」という情報源が書かれている。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、この情報ソースを調べた。

@tpvseanは英語で繰り返し誤情報を発信しているサイトThe People’s Voiceのホストを名乗るアカウントだ。過去の投稿を確認すると「ゲイツのウイルス学者、エリートがトランプ大統領の政権を麻痺させるために致死的な新ウイルスを設計していることを認める」という内容の17分間の動画つきの英語のポストが見つかる。

同じ内容の動画は、アカウントのプロフィール欄にあるリンク先のページでも見つけることができる。

動画の1分10秒ごろから「ビル・ゲイツが資金提供しているワクチン学者が恐ろしい暴露をした」という話が始まり、検証対象と同じことを主張している。発言はこう続く。

「エリートたちは新しいウイルスの波を解き放つ準備をしており、ドナルド・トランプの大統領復帰を妨害するときが来た。ビル・ゲイツの側近でテドロス博士を指導したピーター・ホテズ博士は、MSNBC に出演した際に、トランプがホワイトハウスに戻った翌日の 1 月 21 日には、新しい病原体の集中砲火がやってくると漏らした」

つまり、ホテズ博士が米メディア「MSNBC」で語った内容が「新ウイルスの設計」の根拠になっている。動画ではさらに、「鳥インフルエンザや新たな新型コロナウイルスなどが2025年の次期トランプ政権の発足とともに拡大する懸念がある」とホテズ博士が述べたと指摘している。

ピーター・ホテズ博士は、Peter Jay Hotez氏のことだと思われる。ホテズ博士は、アメリカのベイラー医科大学教授だ(Baylor College of Medicine)。最近のMSNBCへの出演は2024年12月4日のものが確認できる(MSNBC)。

番組の3:32ごろから、博士は「ワクチンと自閉症の関連性」に関する質問に対して、「ワクチンは自閉症を引き起こさない」と述べ、関連性を否定する科学的証拠が膨大に存在すると説明している。

4:27ごろからは「1月21日以降に大きな問題が迫っている」と述べ、H5N1型鳥インフルエンザやその他のウイルスの脅威について言及した。また、「コウモリが媒介するウイルス」や「蚊が媒介する感染症」が再流行するリスク、反ワクチン運動の影響で本来は予防可能な病気が広がることを懸念し、ワクチンの重要性を強調している。

一方で、博士は「人為的にウイルスを広める」や「新しいウイルスを設計している」とは発言していない。また、これらはゲイツ氏の発言でもない。

判定

ホテズ博士は、さまざまな感染症を予防するためにワクチン接種が重要であると強調しており、これらの感染症が広がる可能性について科学的な観点から言及している。しかし、「人為的なウイルスの拡散」や「新ウイルスの設計」に関しては一切発言していない。また、ビル・ゲイツ氏の発言でもない。したがって、誤りと判定する。

あとがき

ビル・ゲイツ氏とワクチンに関する陰謀論は繰り返し拡散しています。他のファクトチェック記事も参考にしてください。

(動画)ビル・ゲイツが予防接種は間違いと認めた?【ファクトチェック】

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ビル・ゲイツは、ワクチン接種は政府が世界の人口を「減らす」ために設計されていることを「認めた」のか?

Did Bill Gates ‘Admit’ Vaccinations Are Designed So Governments Can ‘Depopulate’ the World?
The computer magnate believes that vaccines can be used to reduce childhood mortality and ultimately reduce population growth through associated social changes, not as an agent of death.

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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兵庫・迎山県議 「私を批判すれば国民にツケが回る」と発言? コメントを歪曲【ファクトチェック】

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兵庫県の迎山志保県議が「私を批判すれば国民にツケが回る」などと発言したという情報が拡散しましたが、不正確です。公人に向けた批判に対する迎山県議のコメントを歪曲したものです。 検証対象 迎山県議が「私を批判すれば、やがては国民にツケがまわる」などと言ったかのような情報が繰り返し拡散している(例1、例2)。 2024年11月の投稿は「迎山しほ議員、斎藤知事を辞任させておいて 私を批判するな!批判を続ければ政治は劣化する!国民にツケが回るからな!この態度は流石にヤバくないか?」という内容で、斎藤知事を擁護し、迎山議員を批判する内容だ。 この投稿は2025年2月18日にも「迎山しほ議員『私を批判すれば、やがては国民にツケがまわる』国民にこんな事言う県議初めて見ました」という文言と共に再び拡散している。 これらの投稿には迎山県議の「全てが公人ということでさらされるのが当たり前 批判されるのが当たり前」「政治の世界もどんどんと結果的には劣化をしていく」「国民にツケが回っていく」などのコメントが抜き出された画像が添付されている。 検証過程 画像にある「報道特集」

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「USAIDが日本メディアを操作」 デマ拡散の背景にある報道不信

「USAIDが日本メディアを操作」 デマ拡散の背景にある報道不信

「USAIDは世界中のメディアに資金提供」「言論操作している」などの情報が世界中に拡散しました。その多くはすでに検証されていますが「日本メディアも関係している」というリストまで出回りました。何が事実で何が誤りか。デマが拡散する背景も含めて解説します。 きっかけはトランプ政権によるUSAID批判 発端は1月に就任したトランプ大統領がアメリカ政府の対外援助を管轄するUSAID(アメリカ国際開発庁)を通じた対外援助を90日間停止する大統領令に署名したことです。トランプ政権が掲げる「アメリカ・ファースト」に沿った動きでした。 2月に入り、トランプ大統領や政府効率化省トップについたイーロン・マスク氏は、USAIDを批判する発言を繰り返しました。 トランプ氏の発言 「急進的な狂人たちによって運営されている」(CNN, 2月3日) 「USAIDやその他の機関で何十億ドルもの資金が盗まれ、その多くが民主党に有利な報道をするための『報酬』としてフェイクニュースメディアに支払われているようだ」(CBS, 2月13日) マスク氏の発言 「USAIDは犯罪組織だ」(CN

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
兵庫・百条委員会が議事録をすべて破棄? 県議会サイトで公開【ファクトチェック】(追記あり)

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兵庫県の斎藤元彦知事がパワハラの疑いなどで告発された問題で、調査をしている県議会百条委員会が、議事録を公開せずにすべて破棄したという情報が拡散しましたが、誤りです。議事録は県議会のウェブサイトで公開されています。 検証対象 2025年2月18日、兵庫県議会の百条委に関して、「百条委員会の議事録は全部破棄ってホントですか? 全部公開されずに破棄? 兵庫県議員アタマオカシイやろ」という情報が拡散した。 この情報に対して「百条委員会に使った金は委員に全部払ってもらうしかないな」「そもそも百条委員会がデマだったということか」などのコメントがついているほか「兵庫県文書問題会議録で全部見ることできるけど」と疑問を投げかけるものがある。 検証過程 兵庫県議会は2024年6月13日、地方自治法百条に基づいて斎藤知事のパワハラ疑惑などを調べる「文書問題調査特別委員会(通称:百条委員会)」を設置した。 6月14日から始まった委員会は、2025年1月27日まで計15回開かれている。県議会は、12月25日の分を除く、計14回分を 議会検索システムで公開している。「会議録の閲

By 宮本聖二
放射線育種米に注意? あきたこまちRへの誤解【ファクトチェック】

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新品種のコメ「あきたこまちR」が「放射線育種米なので注意」という主張が拡散していますが、誤りです。コシヒカリの種子に放射線を照射した品種を使うもので、生育中の水稲や収穫後のコメに直接放射線を照射するものではありません。 検証対象 2025年2月19日、「放射線米 ご注意してね!!」というキャプションと共に「2025年から兵庫県と秋田県では『あきたこまち』と『コシヒカリ』が『放射線育種米』に切り替えられることが確定しました。この放射線米が本気で異常」という画像がついた投稿が拡散した。 この投稿には2300を超すリポストと45万以上の閲覧があり、「とうとう来たか…これ一昨年から言われてたよね 酷すぎる」「秋田知事が強引に進めてる それこそが危険なのだ」というコメントのほか「放射線育種なんて昔からある技術だし、おそらく大多数の日本人は食べたことがあると思う」と指摘する人もいる。 「あきたこまちR」が危険だという情報は、これまでに多数拡散している(例1、例2)。 検証過程 あきたこまちRとは 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、秋田県水田総合利用課

By 宮本聖二