放射線育種米に注意? あきたこまちRへの誤解【ファクトチェック】
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新品種のコメ「あきたこまちR」が「放射線育種米なので注意」という主張が拡散していますが、誤りです。コシヒカリの種子に放射線を照射した品種を使うもので、生育中の水稲や収穫後のコメに直接放射線を照射するものではありません。
検証対象
2025年2月19日、「放射線米 ご注意してね!!」というキャプションと共に「2025年から兵庫県と秋田県では『あきたこまち』と『コシヒカリ』が『放射線育種米』に切り替えられることが確定しました。この放射線米が本気で異常」という画像がついた投稿が拡散した。
この投稿には2300を超すリポストと45万以上の閲覧があり、「とうとう来たか…これ一昨年から言われてたよね 酷すぎる」「秋田知事が強引に進めてる それこそが危険なのだ」というコメントのほか「放射線育種なんて昔からある技術だし、おそらく大多数の日本人は食べたことがあると思う」と指摘する人もいる。
「あきたこまちR」が危険だという情報は、これまでに多数拡散している(例1、例2)。
検証過程
あきたこまちRとは
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、秋田県水田総合利用課に取材した。
あきたこまちRは、コシヒカリに一度だけ放射線を照射して、カドミウムの吸収を抑える性質を持つコシヒカリ環1号にあきたこまちを交配させたものに、さらに7回にわたってあきたこまちを掛け合わせて生み出された品種だ(秋田県「生産者向けリーフレット」)。
拡散した情報の通り、秋田県内では2024年の種子生産があきたこまちRに切り替えられ、2025年から農家は農協から受け取ってあきたこまちRを栽培することになる(秋田県「あきたこまちRへの切り替えについて」)。
このあきたこまちRについて、放射線照射があることから「放射線米で危険だ」などの主張が広がるようになった。
水田利用課によると、あきたこまちRは、日本より厳しいカドミウムの基準値(日本0.4ppmに対して、EUが0.15、シンガポール、香港は0.2ppm)に対応し、海外への輸出拡大を視野に入れて開発された。あきたこまちRへの切り替え後も、一部では従来のあきたこまちを栽培するという。
品種改良と放射線の照射
植物は、自然界にある放射線で変異することがあり、その性質を人工的に再現するのが放射線照射だ。農作物栽培は、これまでも気象変化への対応や病虫害を予防するために放射線の照射も含め様々な手法で品種開発をしてきた。
コメでは「レイメイ」「キヌヒカリ」など、梨では黒斑病に耐性のある「ゴールド二十世紀ナシ」が育成されている(以上、農林水産技術会議「放射線育種について」)。
品種改良のために放射線照射したものを利用したとしても、その後の栽培や農作物に照射することはなく、農作物が放射線を出すわけでもない。
兵庫県でも栽培?
拡散した情報の中には「兵庫県が放射線育種米に切り替えることが確定した」というものもあった。JFCは兵庫県農業改良課に取材した。
担当者は「事実ではないとウェブサイトで公表した。コシヒカリ環1号については、今後の選択肢の一つに上がっているが現時点では決まっていない」と回答した。
このウェブサイトでは、コシヒカリ環1号は従来の手法で開発されたコメと同様に安全なものだと説明している。
判定
新品種あきたこまちRは「放射線育種米で危険だ、放射線米」などの主張が拡散しているが、誤り。カドミウムの吸収を抑えるための品種改良で、開発の最初期に放射線を照射した品種を使っているだけで、育種の過程、稲や収穫される米に照射したり、放射線を出したりするわけではない。
あとがき
秋田県では、農業者や個人への誹謗中傷が起きているとして注意を呼びかけています(秋田県からのおねがい)。
JFCは2023年12月にも「あきたこまちRは危険」という情報を検証し、「誤り」と判定しています。
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検証:宮本聖二
編集:古田大輔、藤森かもめ
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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