ビールに有害物質が含まれている?【ファクトチェック】

ビールに有害物質が含まれている?【ファクトチェック】

ビールに有害な物質が含まれているとの趣旨のツイートが拡散されていますが、誤りです。検証対象のツイートは、酸化グラフェンとアセスルファ厶K(アセスルファムカリウム)の危険性を言及していますが、酸化グラフェンは含まれておらず、アセスルファムKは基準の範囲内で使用されています。

検証対象

「ビールに有害物質が含まれている」という趣旨のツイートが拡散した(例1例2)。ツイートには「ビールは酸化グラフェン入り」とある。添付されたビールの原材料の画像には、アセスルファムKの文字が赤線で強調されており、アセスルファムKについて「発がん、記憶力低下、だるさ、吐き気、うつ、頭痛、肝疾患」という文言が付け加えられている。

画像

投稿は多いもので25万回表示され、引用を含むリツイートが1400回を超えた。リプライ欄には「あさひビールか。飲まない」「毒」といったコメントが寄せられた。一方で、「人体への影響はさておき、アセスルファムカリウ厶と酸化グラフェンは色も用途も構造も製法も全く違いますよ」と指摘するコメントもあった。

検証過程

検証対象のツイートで、ビールに含まれているとされた酸化グラフェンとは、デジタル大辞泉によると、「グラファイト(石墨)を酸化処理することによって得られるグラフェン」と書かれている。グラフェンとは「炭素原子が六角形の格子状に並んだ、1原子の厚さの層」のことだ(デジタル大辞泉より)。

日本ファクトチェックセンター(JFC)が、ビールに酸化グラフェンが含まれたり、混入したりする可能性について、アサヒグループホールディングスに取材したところ、以下のような回答だった。
 
「検証対象のツイートの画像はアサヒビール(株)が製造・販売するビールテイスト飲料だと思われます。食品、飲料に原材料として酸化グラフェンを使用しているものはありません。また、弊社の製造工程において、意図的に酸化グラフェンを接触させることはございません。食品、飲料の製造工場ではHACCP(食中毒や異物混入といった危害の要因を最大限除去・低減させるための衛生管理手法)の考え方に基づく衛生管理をしており、それぞれの製品の特性に応じた衛生管理区分、製造方法、作業手順を定め異物、異液等、意図せぬ物質の混入を防ぐための対策をしています。弊社では製品にアセスルファムカリウムを用いる際は、食品添加物として承認されたものを購買したうえで、使用基準を遵守して使用しています」

一方、添付された画像で言及されているアセスルファムKは、日本コカ・コーラ大正製薬のホームページによると、酢酸由来の物質を原料とした食品添加物だ。「砂糖の200倍の甘みをもつ」とされ、2000年4月に厚生労働省が使用を認可している。

厚労省の食品添加物の使用基準によると、ビールは「その他の食品」に当てはまり、ビールに使うことができるアセスルファムKの分量は1kgにつき0.35g以下と定められている。この数字は、厚労省が定めたADI(一日摂取許容量)を超えないように設定されている。ADIとは、その食品添加物を毎日、一生涯にわたって摂取しても健康に悪影響はないとされる量だ。ADIは実験動物などを用いた毒性試験の結果をもとに定められている。

厚労省は定期的にスーパーマーケットなどで、実際に商品を購入して商品に含まれている食品添加物の量を調べる「マーケットバスケット方式」と呼ばれる方法で私たちが普段、口にしている食品添加物の量を調査している。2019年度の調査結果では、通常の食生活を送っていれば、一日あたりアセスルファムKの摂取量はADIを大きく下回る。

判定

ビールに酸化グラフェンは混入していない。また、ツイートが指摘しているアセスルファムKも、日常的に摂取したとしても人体に影響がない量である。そのため、ビールに有害な物質が含まれているという言説は誤り。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

兵庫・迎山県議 「私を批判すれば国民にツケが回る」と発言? コメントを歪曲【ファクトチェック】

兵庫・迎山県議 「私を批判すれば国民にツケが回る」と発言? コメントを歪曲【ファクトチェック】

兵庫県の迎山志保県議が「私を批判すれば国民にツケが回る」などと発言したという情報が拡散しましたが、不正確です。公人に向けた批判に対する迎山県議のコメントを歪曲したものです。 検証対象 迎山県議が「私を批判すれば、やがては国民にツケがまわる」などと言ったかのような情報が繰り返し拡散している(例1、例2)。 2024年11月の投稿は「迎山しほ議員、斎藤知事を辞任させておいて 私を批判するな!批判を続ければ政治は劣化する!国民にツケが回るからな!この態度は流石にヤバくないか?」という内容で、斎藤知事を擁護し、迎山議員を批判する内容だ。 この投稿は2025年2月18日にも「迎山しほ議員『私を批判すれば、やがては国民にツケがまわる』国民にこんな事言う県議初めて見ました」という文言と共に再び拡散している。 これらの投稿には迎山県議の「全てが公人ということでさらされるのが当たり前 批判されるのが当たり前」「政治の世界もどんどんと結果的には劣化をしていく」「国民にツケが回っていく」などのコメントが抜き出された画像が添付されている。 検証過程 画像にある「報道特集」

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「USAIDが日本メディアを操作」 デマ拡散の背景にある報道不信

「USAIDが日本メディアを操作」 デマ拡散の背景にある報道不信

「USAIDは世界中のメディアに資金提供」「言論操作している」などの情報が世界中に拡散しました。その多くはすでに検証されていますが「日本メディアも関係している」というリストまで出回りました。何が事実で何が誤りか。デマが拡散する背景も含めて解説します。 きっかけはトランプ政権によるUSAID批判 発端は1月に就任したトランプ大統領がアメリカ政府の対外援助を管轄するUSAID(アメリカ国際開発庁)を通じた対外援助を90日間停止する大統領令に署名したことです。トランプ政権が掲げる「アメリカ・ファースト」に沿った動きでした。 2月に入り、トランプ大統領や政府効率化省トップについたイーロン・マスク氏は、USAIDを批判する発言を繰り返しました。 トランプ氏の発言 「急進的な狂人たちによって運営されている」(CNN, 2月3日) 「USAIDやその他の機関で何十億ドルもの資金が盗まれ、その多くが民主党に有利な報道をするための『報酬』としてフェイクニュースメディアに支払われているようだ」(CBS, 2月13日) マスク氏の発言 「USAIDは犯罪組織だ」(CN

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
兵庫・百条委員会が議事録をすべて破棄? 県議会サイトで公開【ファクトチェック】(追記あり)

兵庫・百条委員会が議事録をすべて破棄? 県議会サイトで公開【ファクトチェック】(追記あり)

兵庫県の斎藤元彦知事がパワハラの疑いなどで告発された問題で、調査をしている県議会百条委員会が、議事録を公開せずにすべて破棄したという情報が拡散しましたが、誤りです。議事録は県議会のウェブサイトで公開されています。 検証対象 2025年2月18日、兵庫県議会の百条委に関して、「百条委員会の議事録は全部破棄ってホントですか? 全部公開されずに破棄? 兵庫県議員アタマオカシイやろ」という情報が拡散した。 この情報に対して「百条委員会に使った金は委員に全部払ってもらうしかないな」「そもそも百条委員会がデマだったということか」などのコメントがついているほか「兵庫県文書問題会議録で全部見ることできるけど」と疑問を投げかけるものがある。 検証過程 兵庫県議会は2024年6月13日、地方自治法百条に基づいて斎藤知事のパワハラ疑惑などを調べる「文書問題調査特別委員会(通称:百条委員会)」を設置した。 6月14日から始まった委員会は、2025年1月27日まで計15回開かれている。県議会は、12月25日の分を除く、計14回分を 議会検索システムで公開している。「会議録の閲

By 宮本聖二
放射線育種米に注意? あきたこまちRへの誤解【ファクトチェック】

放射線育種米に注意? あきたこまちRへの誤解【ファクトチェック】

新品種のコメ「あきたこまちR」が「放射線育種米なので注意」という主張が拡散していますが、誤りです。コシヒカリの種子に放射線を照射した品種を使うもので、生育中の水稲や収穫後のコメに直接放射線を照射するものではありません。 検証対象 2025年2月19日、「放射線米 ご注意してね!!」というキャプションと共に「2025年から兵庫県と秋田県では『あきたこまち』と『コシヒカリ』が『放射線育種米』に切り替えられることが確定しました。この放射線米が本気で異常」という画像がついた投稿が拡散した。 この投稿には2300を超すリポストと45万以上の閲覧があり、「とうとう来たか…これ一昨年から言われてたよね 酷すぎる」「秋田知事が強引に進めてる それこそが危険なのだ」というコメントのほか「放射線育種なんて昔からある技術だし、おそらく大多数の日本人は食べたことがあると思う」と指摘する人もいる。 「あきたこまちR」が危険だという情報は、これまでに多数拡散している(例1、例2)。 検証過程 あきたこまちRとは 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、秋田県水田総合利用課

By 宮本聖二