柳井正氏が拘束された? 投資を促す偽広告【ファクトチェック】

柳井正氏が拘束された? 投資を促す偽広告【ファクトチェック】

ユニクロの柳井正氏が何らかのスキャンダルで拘束されたかのような画像がYouTubeで広がっていますが、誤りです。画像は事実ではなく、リンク先はネットニュースを装い、読者を投資サイトへ誘導する偽広告です。

検証対象

ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が銃を持った当局者に両腕から拘束して連行される画像とともに「日本全国に衝撃を与えたスキャンダル」「これが彼のキャリアの終わりなのか」と書かれたYouTube広告が拡散した。

このYouTube広告をクリックすると、「日本銀行が生放送での発言で柳井正さんを提訴」という記事が出てくる。広告のサムネイルとともに、柳井氏がなんらかのスキャンダルで逮捕・起訴されたように印象づける内容だ。

検証過程

リンク先は偽ニュースサイト

この記事が掲載されているページには、NTTドコモが運営する「gooニュース」のロゴがあり、記事提供元として「読売新聞オンライン」のロゴもある。

しかし、内容を確認すると、二人の話し言葉が翻訳調で固く、不自然な会話になっている。話題も「Bit Aiのプラットフォームで1億」と急に投資を促しており、通常のニュース記事ではあり得ない。また、文章の鉤括弧が「」と""で表記が揺れている。

URLも本物の「gooニュース」と異なっていることなどから、ロゴを悪用した偽ニュースサイトだとわかる。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、以前にも同様の広告を利用した偽情報をファクトチェックした。前回も今回も、記事に利用されていた画像は、TOKYO MX「寺島実郎の世界を知る力」という番組から切り出して編集を加えたもので、柳井氏のスキャンダルなどの話ではなく、評論家の寺島氏と柳井氏が世界情勢や日本の針路について議論する番組だった。

判定

ユニクロの柳井正氏が拘束されている画像は偽広告で誤り。リンク先は投資を促す偽記事。

あとがき

AIや新たな手法を用いて、偽情報や偽広告は日々進化しています。JFCでは、どのように見分けるか手法を紹介しています。

生成AIをファクトチェック 進化する技術に対抗する方法【JFC講座 実践編5】
日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第4回は、増加傾向にある偽動画の検証についてでした。第5回は公開されている生成AIで作られる画像や動画の検証について解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) 生成AIによる「ディープフェイク」 生成AIで作られた偽情報は「ディープフェイク」と呼ばれます。 例えば、アメリカのトランプ前大統領が「岸田首相はグローバリストの操り人形」と話している動画が拡散しました。これは発言内容を自由に捏造できるツールで作られたディープフェイクです。 一方で、AIを使わずに作られた偽の画像や動画などをディープ(深い)に対応して「シャロー(浅い)フェイク」や「チープ(安い)フェイク」と呼びます。 例として、台湾の地震時に東日本大震災の映像が使われた事例があります。現状では、チープフェイクの方が圧倒的に多いですが、ディープフェイクも増えつつあります。 日本のディープフェイク事例 日本で最初に有名になったディープフェイク事例は、2022年9月の静岡県での事例です。「

検証:木山竣策
編集:古田大輔、宮本聖二、野上英文

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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理論から実践まで学べるJFCファクチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

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