憲法9条の『木』を『ホ』と書くのは中国語表記?【ファクトチェック】

憲法9条の『木』を『ホ』と書くのは中国語表記?【ファクトチェック】

「9条で世界平和を」と訴える横断幕について、「条」という漢字の書き方が日本語ではなく中国で使われる「簡体字」ではないかとの言説が広まりましたが、誤りです。横断幕の「条」の部首は「木」でなく「ホ」と書かれていて簡体字と一致しますが、日本の「常用漢字表」でも記載されています。

検証対象

2024年4月21日、X(旧Twitter)で「9条の『条』に注目」というコメントと共に、「9条で世界平和を」と書かれた横断幕の画像が拡散した。画像の「条」の文字は、部首の「木」が「ホ(縦の棒ははねている)」と表記されている。

このポストは18万回以上表示され、700件以上リポストされている。このポストのリプライや引用リポストには「日本人ではない漢字使い」「中国共産党の指示が裏にあるんですかねぇ」「中国の工作員ですね」などといったコメントが付き、部首の「木」を「ホ」と表記することは、日本の書体では誤りで、中国で使用される文字だという主張が拡散した。

拡散したポストと寄せられたコメント

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、政府が2010年11月30日に告示した常用漢字表を確認した。「条」は旧字体の「條」とともに部首が「木」となっている(82ページ)。

しかし、常用漢字表の冒頭に収録されている「(付) 字体についての解説」にて、常用漢字表では明朝体を例に示したことと、微妙な形の差異があっても字体の異なりとは言えず、他の書体や筆写の楷書とデザインや習慣上の違いがあることを説明している(常用漢字表4ページ、7ページ)。

8ページには「筆写の楷書では、いろいろな書き方がある」として、「つけるか、はなすかに関する例」の一つに、「条」の字が取り上げられている。「条」の字の部首は、明朝体で「木」と表記される一方で、楷書では「ホ」と表記する例があるという。

常用漢字表「(付)字体に関する解説 第2 明朝体と筆写の楷書との関係について」より

なお、中華人民共和国国務院教育部・国家語言文字工作委員会が制定した「通用规范汉字表(通用規範漢字表)」では、「条」の字は一級字表・816番として「ホ」を部首とした字体で収録している。

JFCは画像の横断幕に記載のある「えびな・九条の会」にも取材した。同会の事務局は画像の横断幕が同会のものであると認めた上で、「条」の字については「特に深い意図はない」と回答した。

判定

「条」の部首「木」を「ホ」と表記するのは中国の簡体字の特徴だが、日本においても筆写の楷書として認められた書体の一つだ。「『条』の『木』を『ホ』と書くのは中国の表記で日本語ではない」という言説は誤りと判定する。

検証:リサーチチーム
編集:宮本聖二、野上英文、藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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