"乾杯"は戦後に作られた言葉?完全に負けるという意味?【ファクトチェック】
「"乾杯"は戦後に作られた言葉。意味は完全に負けること」という言説が拡散されましたが誤りです。国立国会図書館では戦前からの使用例が確認でき、宮沢賢治の著作にも使われています。
検証対象
2023年2月25日に投稿されたツイートでは「乾杯」という言葉の由来について「戦後に作られた言葉・意味は完全に負けること。(中略)戦前までは"弥栄(いやさか)"と言っていた。」との言説が拡散された。このツイートは3月3日現在150万回以上の表示、1万件以上のいいねを獲得している。
このアカウントにはTwitter Blueへの課金で認証マークが付いている。引用リツイートでは多くの指摘が飛び交う一方で、返信欄では「陰陽師、退魔師などの方々が同様のことを仰っていました。」「これから、弥栄って言って祝杯あげます〜^ - ^」などの返信があった。
なお、BuzzFeed Japanは3月3日にこの件でファクトチェックを実施しており、辞書への掲載例をもとに「誤り」と判定したが、このアカウントは3月5日にも同様の発信を繰り返している。
検証過程
このような「戦後に広まった言葉」だとする言説はSNS上で散見される。このようなときに書籍などでの使用例を時代を遡って検索できるツールとして国立国会図書館デジタルコレクションがある。
「乾杯」の使用例を検索したところ、最も古いものは滝沢馬琴(1767〜1848)の椿説弓張月で刊年不明となっている。出版年がわかる最も古いものは1868年の春秋左氏伝校本だった。
ただし、これらは全文検索の機能で見つかったものだ。デジタルコレクションの全文検索の対象は「OCR(光学文字認識)処理によるデジタル化資料」であり、「OCR処理による全文テキストは校正を行っていないため、誤認識されたテキストが検索・表示される場合があります」との説明がある。
全文検索を除外して検索すると、1909年11月に出版された「氷底怪火 : 探検奇談」が見つかり、その目次の中に「(二十三)絶島の月で乾杯」との記載があった。画像資料でも「乾杯」の文字が確認できた。
また、青空文庫で検索すると宮沢賢治の「ポラーノの広場」の中に「乾杯」の記述が見られる。登場人物のセリフで「諸君は我輩のために乾杯しようというんだな。よしよし、プ、プ、プロージット。」という記述が登場する。
一方で「弥栄」について「乾杯」と同様に、全文検索を除外して国立国会図書館デジタルコレクションを検索したところ、最も古いもので1916年に出版された「磐井郡元流郷村史」に旧字体の「彌榮村」との記載がある。
また、同年に出版された「御即位礼勅語と国民の覚悟」には附言として「『ばんざい』と『いやさか』と」という章立てがあり、その中で「『萬歳(ばんざい)』と呼ぶ我我の深き精神は『彌榮(いやさか)』と高呼することによりて愈(いよいよ)明瞭になる」として「萬歳」と「彌榮」の比較をしている。
「弥栄」と「万歳」の関係について、国立国会図書館が全国の図書館等と協同で構築しているレファレンス協同データベースでは、「『弥栄』の複唱の際に『万歳』と同様に両手を肩より広く高く上げる動作を3度行った」との記載がある。しかし、「乾杯」の代わりに用いられたとの記述を見つけることはできなかった。
判定
「乾杯」という言葉は戦前から使用例があったこと、「弥栄」を「乾杯」の代わりに用いたという記述がないことから誤りと判定した。
検証:本橋瑞紀
編集:古田大輔
検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。
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