「(動画)タイタニック号観光ツアーの潜水艇が壊れる瞬間」は誤り【ファクトチェック】

「(動画)タイタニック号観光ツアーの潜水艇が壊れる瞬間」は誤り【ファクトチェック】

豪華客船タイタニック号探索ツアーの潜水艇「タイタン」号の内部から撮影されたとされる映像が、壊れる瞬間だというコメントとともに拡散しましたが、誤りです。過去に艇内で撮影されたと思われる映像に、全く関連のない実験映像を編集でつなぎ合わせた「フェイク動画」です。

検証対象

拡散したのはTikTokの映像で、スペイン語で「爆縮(内側に向けての破裂)する瞬間」などの字幕がつけられていた。また、「タイタニックを見に行ったタイタンの衝撃映像」と日本語字幕がつけられた映像も拡散している(例1例2)。

画像
破裂する瞬間とされた映像 TikTokより

スペイン語でのコメントがつけられた映像には、2023年6月30日現在で、26万を超える「いいね」と2200を超すコメントが付いている。

「窓の外に霊が見える」、「潜水艇の外の何かが押しつぶしたのではないか」といった反応がある一方で、「別の映像を組み合わせたのだろう」、「タイタンは、海底についていなかったはず」といった指摘もあった。また、日本語では「タイタニック号の呪いかな」や「これ違うやんwタイタン タイタニックに着く前に爆縮したわwせめてタイタニックがなかったらリアル」という書き込みがあった。

画像
日本語字幕のついた動画もアップロードされた TikTokより

ハフポスト日本版でもこの映像の検証をし、虚偽だと判定している。

検証過程

この映像では、最初はタイタン号の内部にいると見られる人物が映っている。カメラが窓に向くとタイタニック号の残骸らしきものが映る。その後、金属が大きな音とともに爆縮する映像に移る。

映像には乗客が映っており、その中に女性と見られる人物が確認できるが、潜水艇を運航するオーシャンゲート社が発表した乗員乗客5人は、いずれも男性。女性は乗船していなかった。また、これまでタイタン号内部やそこから撮影されたタイタニック号の残骸の映像はYouTubeなどで公開されている。

また、検証対象とした映像の前半部分(タイタン内部の人物や窓外のタイタニック号の残骸らしきものが映る)を含む映像が、事故後ではあるが6月25日にアップロードされていた。この映像にも、事故を示唆するような「Ocean gate pandupi 5people die」という言葉がつけられている。

しかし、今回の事故では船体と遺体の一部が収容されたと報じられているが、事故や爆縮の様子を撮影したカメラが発見、回収されて映像が確認できた、などとはどのメディアも伝えていない。

拡散した動画の後半部分で、金属が一瞬にして押しつぶされる場面は、同じ映像がYouTubeで確認できた。これは2014年にアメリカでタンクローリーなどのための真空タンクを製造するWabash Nationalというメーカーがデモンストレーションで実験を行った時のものと全く同じで、タイタン号の事故とは無関係だった。

判定

拡散した映像は過去に撮影されたと思われるタイタン号内部の映像と、全く関連のない実験の様子を組み合わせたもので、2023年6月に起きた沈没事故とは無関係なので誤りと判定した。

あとがき

大きな災害や事故などが起きると偽造された映像が拡散するようになりました。人々の注目を集める事象が起きた時こそ、こうした驚くような映像には注意が必要です。出典を確認するなどして自らは拡散しないことを心がけましょう。

検証:宮本聖二
編集:古田大輔、野上英文

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

「れいわ新選組、山本太郎氏がつばさの党を応援し、相手の選挙区に乗り込めとアドバイス」は誤り 発言を歪曲【ファクトチェック】

「れいわ新選組、山本太郎氏がつばさの党を応援し、相手の選挙区に乗り込めとアドバイス」は誤り 発言を歪曲【ファクトチェック】

れいわ新選組の山本太郎氏が「つばさの党を応援し、相手の選挙区に乗り込めとアドバイス 逃げる奴は政治家失格」という投稿が拡散しましたが誤りです。投稿は引用元の記事から山本氏の発言以外の部分も切り取って作ったものです。 検証対象 2024年5月19日、れいわ新選組の山本太郎氏が「つばさの党を応援し、相手の選挙区に乗り込めとアドバイスした。逃げる奴は政治家失格」と発言したとする投稿が拡散した。 2024年5月21日現在、このポストは1100件以上リポストされ、表示回数は23万件を超える。投稿について「仲間だから」というコメントの一方で「印象操作」と指摘する声もある。 検証過程  つばさの党の代表ら3人は、2024年4月の衆院東京15区補選でほかの陣営の演説を妨害したとして逮捕されている(NHK)。 投稿はまとめサイト「ツイッター速報」による投稿だ。リンク先を確認すると、東スポWEBがlivedoorニュースに掲載した「山本太郎氏が「つばさの党」に言及 黒川敦彦氏から逃げた陣営を批判」という記事を引用している。 「逃げる奴は政治家失格」は? 記事は、山

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
(福島第一原発)「(処理水の放出で)日本の水産業は崩壊寸前」は誤り 中国語圏で拡散した動画に多数の誤り【ファクトチェック】

(福島第一原発)「(処理水の放出で)日本の水産業は崩壊寸前」は誤り 中国語圏で拡散した動画に多数の誤り【ファクトチェック】

福島第一原発からの処理水の海洋放出をめぐり、「日本の水産業は崩壊寸前」などと指摘する動画が中国語圏を中心に拡散しましたが、内容に多数の誤りがあります。日本の水揚げ量は長期的に減少傾向にありますが、処理水の放出や動画が指摘する中国の輸入停止措置が理由ではありません。 検証対象 2023年8月に福島第一原発で始まった処理水の海洋放出をめぐり、中国語圏で「日本の水産業は崩壊寸前」「売れなくなったことで水揚げ量が1000万トンから300万トン台に急減した」などと主張する動画が拡散している。 動画は「日本终于为他们的行为付出了惨重的代价(日本はついに大きな代償を払うことになった)」というタイトルで、男性が2分45秒にわたって福島第一原発事故の処理水(排汚水と表現している)の海洋放出で日本の水産業が大きく影響を受けているなどと語っている。 この動画は、「日本は大きな代償を払うことになった」という言葉で始まる。主な内容は以下の通りだ。 ・放出を始めてから日本の水産業が崩壊寸前になっている ・1000万トンあった水産物の水揚げは300万トンに減った ・減少の理由は、

By 宮本聖二
イラン大統領ヘリ事故 「(画像)ヘリコプターから降りるライシ大統領」は誤り 2022年の写真【ファクトチェック】

イラン大統領ヘリ事故 「(画像)ヘリコプターから降りるライシ大統領」は誤り 2022年の写真【ファクトチェック】

イランのライシ大統領らが乗るヘリコプターが墜落した事故をめぐって、大統領がヘリコプターから降りる画像を添付して「大統領は無事だ」と主張する言説が拡散しました。しかし、拡散した画像は、2022年7月にライシ大統領が豪雨の被災地を視察した際のもので、誤りです。 検証対象 2024年5月19日午後、イラン・イスラム共和国のライシ大統領が搭乗していたヘリコプターがイラン北西部の山中に墜落する事故があり、大統領とアブドラヒアン外相が死亡したとイランの国営通信が伝えた(NHK)。 事故発生後、安否が確認できない段階で、X(旧Twitter)でヘリコプターから降りるライシ大統領の画像を添付して「ライシ大統領が生存していた」と主張するポストが日本でも拡散した。 このポストは5月20日現在3万7000回以上Xで表示され、200件以上のリポストがあった。リプライや引用リポストには「良かった、安心しました」「ライシ大統領、無事で何よりです」といった声が寄せられた一方で、情報の信憑性を疑う意見もあった。 検証過程 添付されている画像を「Google画像検索」で検索すると、2

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「(画像)キッチンのカレンダーに引火」は誤り 元画像を改変【ファクトチェック】

「(画像)キッチンのカレンダーに引火」は誤り 元画像を改変【ファクトチェック】

「キッチンで調理中にカレンダーに引火した」という画像が拡散しましたが、誤りです。投稿者が次の日に「AIで生成したもので火災は起きていません」と投稿しています。 検証対象 2024年5月12日、「カレンダーに引火してオッペンハイマーしてもうた」「皆んなもくれぐれも火のそばに可燃物は置かないように気をつけようね」という画像付きの言説が拡散した。画像は、コンロやカレンダーの周りに煤のようなクロっぽい汚れがある。 この投稿は7000件以上リポストされ、表示回数は1900万件を超える。5月16日現在、投稿は削除されている。投稿について「火事にならなくて良かった」「大丈夫」というコメントの一方で「AIって分かんない人こんなに居るんだな」という投稿もある。 検証過程 燃えた後の画像と寸分たがわぬ元画像 このアカウントは拡散した投稿の前に同じレイアウトのキッチンの画像をあげていた。 画像左下の洗剤は実際に発売されている商品だ。燃えたとするカレンダーも大成建設から同じレイアウトの2024年版カレンダーが制作されている。 画像の基本的なレイアウトが同じことから、拡

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)