オハイオ州の脱線事故で災害を隠すために記者が逮捕されたという情報は不正確【ファクトチェック】

オハイオ州の脱線事故で災害を隠すために記者が逮捕されたという情報は不正確【ファクトチェック】

米中西部オハイオ州で列車が脱線し、積載されていた有害物質が流出した事故をめぐって、報道していた記者が逮捕されました。「隠ぺいのためではないか」という情報が拡散していますが不正確です。逮捕は事実ですが、記者が州知事の会見中に声をあげ、治安当局からの退去の指示に従わなかったなどの容疑によるもので、釈放され、不起訴となっています。

検証対象

2023年2月3日、米オハイオ州で列車の脱線事故が起き、有害物質が流出した。事故を報じた記者が逮捕されたというツイートが拡散し、表示回数は61万回、リツイート・引用リツイートは4500件を超えた(2月20日現在)。

画像

リプライには「事故の真実を報道していたなら、ジャーナリストとして素晴らしい仕事だ」「真実を報道して逮捕…正義も糞もねぇな」といったコメントが寄せられている。同様のツイートは他にも拡散した(例1例2)。

Newsweekのファクトチェック記事は「オハイオ州の脱線事故を報じた記者が逮捕された」という同様の言説を検証し、ミスリードと判定している。

検証過程

NewsweekやCNNなどの報道によると、逮捕されたのはケーブルテレビ局NewsNationのEvan Lambert記者。Lambert記者は2月8日、オハイオ州知事の記者会見中に、大声で中継していたところを制止され、口論となって逮捕された。治安当局は、Lambert記者について、警察官が不法侵入と逮捕に抵抗した疑いで逮捕したが保釈され、不起訴となったことが発表されている

NewsNation社がYoutube上で公開している動画を見ると、記者と保安官らが口論となり、保安官らが「部屋の外へ出るように」と繰り返すのに対して、記者は「私の仕事をしているだけだ」などと反論。最終的に部屋の外へと促された記者が逮捕される様子が映っている。警察が装着していたボディカメラの映像にも、同じ内容が記録されている。

当時、記者会見場には多くの記者がおり、逮捕されたLambert記者はその一人だった。記者会見は実施され、マイク・デワイン知事は会見後に逮捕について記者団の取材に、逮捕の事実は知らなかったとした上で、「もし何らかの形で報道を妨げられたのであれば、それは私が許可したことではない。実際のところ、私はそれを強く批判する」と話した。

他にも記者がおり、会見は実施されていることなどから、事件報道を隠蔽するためにLambert記者が逮捕されたとは考えにくい。多くのメディアが今回の事件について、被害が拡大していることに批判的な報道を続けている。

CNNの取材に対して、NewsNation社のワシントン支局長は「Evan(Lambert)は、この不幸な状況にプロとして対応した。私たちは、彼の公正で偏りのない報道を目指す姿勢を評価している」と説明している。

判定

以上のことから、NewsNation社の記者が逮捕されたのは事実だが、容疑は列車事故の隠ぺいとは無関係。2つを結びつけて語るのはミスリードで不正確。

あとがき

取材中の記者を逮捕することは、報道の自由の制限につながる危険性があります。今回の事案が事件隠蔽のための逮捕であるとは考えにくいですが、逮捕は行き過ぎであるという指摘は存在します。

Lambert記者の起訴を棄却したオレゴン州のDave Yost司法長官は「意図のいかんにかかわらず、記者会見を取材しているジャーナリストを逮捕することは重大な問題だ。オハイオ州は憲法で報道の自由を保護しており、州当局は逮捕権の行使に際して、より高いレベルの自制心を行使することを忘れてはならない」と述べたとニューヨーク・タイムズは報じています

検証:リサーチチーム
編集:藤森かもめ、古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

「NATO各国首脳がウクライナの政策に失望しているとBBC報道」は誤り 捏造された動画【ファクトチェック】

「NATO各国首脳がウクライナの政策に失望しているとBBC報道」は誤り 捏造された動画【ファクトチェック】

NATOがウクライナの政策に不満を抱いているというBBCニュースを装った映像が拡散しましたが、誤りです。ニュースの引用元とされた欧州の調査報道機関べリングキャットの創設者が「偽物だ」と否定しています。 検証対象 2024年5月14日、ロシア発のSNSテレグラムに、BBCのロゴとタイトルをつけたニュース映像が拡散した。動画は1分45秒で、NATO各国とウクライナの間で戦闘への動員などを巡って意見が対立していると主張している。ニュースソースは「ベリングキャット」としている。 動画のキャプションにはロシア語で「NATOがウクライナの戦闘動員に不満を抱いている」と書かれ、13万6000を超える閲覧と1600以上のいいねを獲得している。 検証過程 検証対象の動画がテレグラムに投稿された翌日の5月15日、べリングキャットの創設者エリオット・ヒギンズ氏が、自身の公式Xで、拡散した動画は偽物だと投稿した。「BBCとべリングキャットの偽動画が、またテレグラムで拡散している。2023年11月以降、これで少なくとも7本目だ」と指摘している。 誤・偽情報や映像などを検証する

By 宮本聖二
「韓国のソウル金浦空港には日本語の表示がない」は誤り 各所に案内表示がある【ファクトチェック】

「韓国のソウル金浦空港には日本語の表示がない」は誤り 各所に案内表示がある【ファクトチェック】

「韓国のソウル金浦空港には日本語の表示がない」という言説が拡散しましたが、誤りです。金浦国際空港には、日本語の案内表示が各所にあります。 検証対象 2024年5月7日、「『国際線出国ゲート』日本の成田空港にはハングルの案内があるが 韓国のソウル金浦空港に日本語の案内は無い」という投稿が、空港内とみられる2つの写真とともに拡散した。この投稿は2024年5月15日現在、30万回以上の表示回数と1800件以上のリポストを獲得している。 検証過程 投稿にある写真をGoogle画像検索(写真1、写真2)で検索したところ、写真1(エスカレーター頭上の案内表示)は旅行代理店サイトにある成田空港第1ターミナル地下1階エスカレーターの写真と一致した。写真2は金浦空港の保安検査場の入り口だとわかった。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、金浦国際空港に日本語の表示があるかどうかをGoogle Mapを使って調べた。 Google Mapの検索窓に金浦国際空港を入れて検索すると12000枚あまりの写真が出てくる。そのうち空港内の表示を見ると、韓国語のほか、英語、中国

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
(動画)「米軍機を追い払うロシアの戦闘機」は誤り シミュレーションゲームの映像【ファクトチェック】

(動画)「米軍機を追い払うロシアの戦闘機」は誤り シミュレーションゲームの映像【ファクトチェック】

「米空軍のSR-71ブラックバードを追い払うロシアのSu-27戦闘機2機」という動画が拡散しましたが誤りです。動画はゲームをもとに作成されたものです。 検証対象 2024年5月、「米空軍のSR-71ブラックバードを追い払うロシアのSu-27戦闘機2機」という動画が拡散した。動画には米空軍の偵察機SR-71にロシアの戦闘機2機が接近する様子が映っている。 拡散した言説はロシアの外務省情報局長を名乗る人物のアカウントがXに投稿し、現在は削除されている。その後、別のアカウントから同じ文言と動画を使った言説が投稿されている。 検証過程 拡散した言説にある戦闘機の名称「SR-71」と「Su-27」でGoogle検索すると、2024年5月7日に投稿されたYouTubeの動画がヒットする。Xで拡散した動画と同じものだ。 動画の概要欄には「Created with DCS」と明記されている。DCSとは、ロシア人が設立したソフトウェア会社「Eagle Dynamics」のDigital Combat Simulatorというフライトシミュレーションゲームの略称だ。拡散

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ワクチン接種で献血禁止の偽情報/AI動画にラベルをつける取り組み/欧州議会選挙と偽情報・情報工作【注目のファクトチェック】

ワクチン接種で献血禁止の偽情報/AI動画にラベルをつける取り組み/欧州議会選挙と偽情報・情報工作【注目のファクトチェック】

✉️ 日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 ワクチン接種で献血が禁止になるという言説が再び拡散。詐欺サイトに誘導するために新聞社を装ったアカウントが登場しました。AIで生成された動画・画像にラベルをつける取り組みをTikTokが開始するという発表がありました。欧州では、来月に迫った欧州議会選挙を前に偽情報の拡散や情報工作への警戒感が高まっています。 JFCのファクトチェック記事 「日本政府がコロナワクチン接種者の献血を禁止」は誤り 日本政府がコロナワクチンを接種した人の献血を禁止するという言説が拡散しましたが、誤りです。日本赤十字社では接種から一定期間が経過すれば献血を受け入れています。「ワクチン接種者の献血禁止」は繰り返し拡散しています。 「日本政府がコロナワクチン接種者の献血を禁止」は誤り 接種から一定期間経過すれば献血できる【ファクトチェック】日本政府がコロナワクチンを接種した人の献

By 宮本聖二, 古田大輔(Daisuke Furuta)