斎藤氏再選の裏にSNSや動画 投票の参考情報で新聞・テレビ上回る 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】

斎藤氏再選の裏にSNSや動画 投票の参考情報で新聞・テレビ上回る 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】

兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われる中、何が起きていたのか。都知事選の石丸現象や総選挙の国民民主党の躍進、アメリカ大統領選などと比較し、アルゴリズムやバイアスなどの観点から解説します。

「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】
兵庫県知事選をめぐる偽・誤情報の拡散に関する解説の後半です。背景にはマスメディアの影響力低下とソーシャルメディアにおける選挙情報の拡大という世界で共通する大きな潮流があります。その中で、信頼性の高い情報に基づいた民主主義を成立させるためには、どうすればよいか。 SNS・動画が選挙情報の中心に 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われる中、何が起きていたのか。都知事選の石丸現象や総選挙の国民民主党の躍進、アメリカ大統領選などと比較し、アルゴリズムやバイアスなどの観点から解説します。 SNS動画を投票の参考に 新聞テレビを上回る SNSでの支持の広がりが斎藤氏の再選を後押ししたと言われる今回の選挙。データがそれを裏打ちしています。NHKが投票所で実施した出口調査を見てみます。 何を投票の参考にしたかという質問への答えで1位が「SNSや動画サイト」で30%、新聞24%、テレビ24%、知人・家族5%を上回りました。また、「SNSや動画サイト」と

SNS動画を投票の参考に 新聞テレビを上回る

SNSでの支持の広がりが斎藤氏の再選を後押ししたと言われる今回の選挙。データがそれを裏打ちしています。NHKが投票所で実施した出口調査を見てみます。

何を投票の参考にしたかという質問への答えで1位が「SNSや動画サイト」で30%、新聞24%、テレビ24%、知人・家族5%を上回りました。また、「SNSや動画サイト」と答えた人の70%以上は斎藤氏に投票したと伝えています(NHK)。

また、読売新聞の出口調査によると、「SNSや動画投稿サイト」を投票の参考にしたと答えた人の9割弱が斎藤氏を支持したと言います(読売新聞)。

動画投稿サイトとは主にYouTubeやTikTokを指し、SNSとあわせて「ソーシャルメディア(ユーザーがコンテンツを生成し、双方向性があり、ネットワークを形成する)」とも呼ばれます。

選挙では通常、自民党や立憲民主党などの政党の支持層の何割をそれぞれの候補がどれだけ固め、無党派層にどれだけ食い込むかが勝敗を分けます。

しかし、今回の選挙では「ソーシャルメディア」か「新聞やテレビ=伝統的メディア」かという分断が発生していました。

正確に言えば、伝統的メディアもソーシャルメディアにコンテンツを配信しているため「伝統的メディアは間違っていると訴えるソーシャルメディアのコンテンツを信じるか」という分断であり、伝統メディアを信頼しない人の票が斎藤氏に流れました。

石丸現象、国民民主党の躍進、トランプ再選の流れ

「選挙におけるマスメディアの敗北」という言葉は、2024年11月のアメリカ大統領選でトランプ氏が再選した時にも聞かれました。Xのオーナーとなったイーロン・マスク氏はこう投稿しています。

「伝統的なメディアが国民に容赦なく嘘をついた一方で、X上では選挙の実態は明白だった。いまやあなた達がメディアだ」

マスク氏がいう「あなた達」とは、Xでトランプ氏を支持し、従来のマスメディアを批判するようなユーザーでしょう。この投稿は9.4万回リポストされ、表示回数は6356万回。まさにマスメディアを凌駕する影響力と言えるでしょう。

日本でもこの流れはありました。

7月の東京都知事選で政党の支援を受けていない前安芸高田市長の石丸伸二氏が元立憲民主党の蓮舫氏を上回り、2位に入りました。10月の総選挙では国民民主党が議席を4倍の28に増やし、躍進しました。背景にあったのが、YouTubeやTikTokなどでの動画配信です。

石丸氏は自らYouTubeで動画配信をするだけでなく、それらがYouTubeショートやTikTokなどの短尺動画で切り取り動画として拡散することを積極的に後押ししました。国民民主党はその戦略を参考にし、20-30代の支持を伸ばしました。

わずか1分ほどの短尺動画では、選挙の構図や政策を単純化した印象的なフレーズが繰り返されます。しかも、強力なアルゴリズムの作用によって、一度関連する動画を目にすると、石丸氏や国民民主党の玉木雄一郎氏の関連動画が流れ込みやすくなります。

関連動画とは、石丸氏や玉木氏が映っている動画に限りません。関連動画で流れやすいのは、マスコミに批判的な言説であったり、既得権益批判だったりします。そうして、石丸氏や玉木氏やトランプ氏や斎藤氏の改革者としてのイメージが強化されていきます。

マスコミを含む既得権益VS改革者という物語の語り口=ナラティブはこうして生まれます。

一度そのナラティブを受け入れると、他のコンテンツが届きにくくなる「フィルターバブル」や同じような意見ばかりをこだまさせる「エコーチェンバー」や自分の意見に近い意見が正しく思える「確証バイアス」によって、その語り口を信じる気持ちはどんどん強まっていきます。(JFCファクトチェック講座 理論編2理論編3)

しかも、「マスメディアが作り上げた虚像ではなく、我々がソーシャルメディアで応援する候補」という身近さを支援者は感じています。2020年に敗れたトランプ氏が2024年の大統領選で再選したのは、そういう背景があります。

「デマ」の作成者と拡散者の違い

兵庫県知事選はかつてなくデマが大量拡散した選挙だと言われます。では、どんなデマが流れたのか。まず、デマの分類や定義から考えます。

デマやフェイクニュースに関して、専門家の間では「偽情報・誤情報・悪意のある情報」などの分類をします。

「誤情報=意図的ではないが誤っている情報」、「偽情報=意図的に操作された情報」、「悪意のある情報=誤ってはいないが攻撃目的で流された情報」です。

では、偽情報や誤情報を作るのはどういう人達か。その動機から3つに分類することができます。「故意犯・確信犯・愉快犯」です。

「故意犯=間違った情報を意図的に流し、政治的・経済的な利益を得ようとする人」、「確信犯=正しいと信じ込み、間違った情報を作成する人」、「愉快犯=嘘をついて注目を集めたり、騙された人を見て面白がったりする人」です。

偽・誤情報は作成され、ソーシャルメディアに投稿されるだけでは拡散しません。それを見たり、シェアやいいねしたり、フォローしたりする人たちがいることで拡散します。

そして、そういった人たちの多くは「善意」や「正義心」からシェアをしています。

JFCが国際大学グロコムと実施した2万人規模の調査で、実際に日本で拡散した偽情報について、シェアした人にその動機を聞いたところ、1位が「情報が興味深いと思った」30.0%、2位が「情報が重要だと感じた」29.2%、3位が「情報に対する同情や共感を他人と共有したかった」23.3%でした。(以上、JFCファクトチェック講座 理論編1)

(後編では、実際にどのような偽・誤情報が拡散したのか、マスメディアとソーシャルメディアの分断と対策について解説します)

(トップ画像はAIで生成しました)

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験
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日本ファクトチェックセンターのエディターなど募集【採用】
日本ファクトチェックセンター(JFC)は業務拡大により、エディターやソーシャルメディア担当などを募集しております。リモートワークや勤務時間など様々な働き方を想定しています。 待遇はスキルや経験、勤務条件に応じます。年功序列や新卒一括採用などはありません。その人の能力に応じて、裁量がある仕事をお任せします。ファクトチェック、メディアリテラシー教育、ソーシャルメディアの分析、海外の協力団体とのコラボなど、興味がある方は、ぜひご応募ください! エディター/ファクトチェッカー 業務内容 編集部でファクトチェックを中心にコンテンツの編集や企画を担当します。自由な勤務形態を推奨しており、時間や勤務地など応相談です。 応募要件 * 必須 * 記者、編集者などメディア関係や事実検証に関わる職務経験 * JFCファクトチェックガイドラインや指針などの遵守 * チームワーク * 憎しみを原動力にしないこと * 歓迎 * デジタルメディアの経験がある方は、特に重視します * ファクトチェックや調査報道の経験 * データ収集・

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大阪で10万人のデモ隊が韓国の尹大統領の拘束など要求?参加者は数十人規模【ファクトチェック】

大阪で10万人のデモ隊が韓国の尹大統領の拘束など要求?参加者は数十人規模【ファクトチェック】

大阪で10万人のデモ隊が韓国の尹錫悦大統領の罷免と拘束や、日本と断交し北朝鮮やロシアと国交を回復することを要求したという情報が拡散しましたが、誤りです。実際の参加者は数十人規模で、日本との断交などは要求していません。 検証対象 2024年12月8日、「大阪、10万人のデモ隊が韓国の尹錫悦大統領の罷免と拘束、日本と断交し北朝鮮やロシアと国交回復を要求」という投稿が街中でのデモのような画像とともに拡散した。 2024年12月11日時点で、1900のリポストと38万回の閲覧がある。返信には、「おかしな人達。日本に住んでて親日反対のデモ。」や「コリャお家芸だな。」という書き込みも付けられている。 検証過程 検証対象のポストには、Tweeter BreakingNews-ツイッ速!の記事「大阪、10万人のデモ隊が韓国の尹錫悦大統領の罷免と拘束、日本と断交し北朝鮮やロシアと国交回復を要求」が添付してある。 記事中には、尹大統領の弾劾訴追案に関するYahoo!ニュース エキスパートの記事とともに、サムネイル画像になっている動画のURLが見つかる。12月7日投稿のも

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男女共同参画事業の予算は9兆円? 繰り返し拡散する情報【ファクトチェック】

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男女共同参画事業の予算が9兆円だという情報が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。2024年度の「男女共同参画参画基本計画関係予算」は全体で10兆円を超える規模ですが、男女共同参画に直接関係する事業にだけ使われるわけではありません。社会保障や教育支援など、少しでも男女共同参画に効果がある施策・事業に関する全省庁の予算をまとめて計上したものです。 検証対象 2024年11月20日、「財源がーーって言うけどさ、多分われわれ国民は男女共同参画のレク?イベント?がなくなってもなんも困らん。これで9兆円が浮くなら万々歳じゃん???」との投稿が拡散した。 添付された画像には「男女共同参画事業イベント一覧」と大きく書かれ、ダンスや健康法などの講座や語学教室など多くのイベントが示されている。 投稿は12月11日時点で約8000件のリポストと約90万件のインプレッションを獲得している。「無駄や中抜きや天下り組織やら潰したら財源なんてありそうなもんだけどな」「どこが男女共同参画なのか理解できませんね。税金を無駄遣いするための中抜きイベントをやめたらいいよ」などのコメントがつ

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「トランプを攻撃するために新ウイルスを設計」とビル・ゲイツが認めた? 発言の改変と誤引用【ファクトチェック】

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「トランプ氏を攻撃するために新ウイルスを設計していた」とビル・ゲイツ氏が認めたという情報が拡散しましたが、誤りです。情報の元となった発言はゲイツ氏のものではなく、しかも、改変されています。 検証対象 2024年12月7日、「ビルゲイツ、トランプ大統領を弱体化させる為にエリートが致死的な新ウイルスを設計していた事を認める」というポストが拡散した。 ポストは「世界のエリート等は、政治的な出来事を混乱させ、トランプ政権を機能不全に陥れる為に戦略的にタイミングを計り、新たな致命的なウイルスの波を解き放つ計画を立てていると報じられている」などと続く。 2024年12月11日現在、このポストは1600件以上リポストされ、表示回数は38万回を超える。投稿について「何だコイツは💢」「えっまだ野放しですの⁉️」というコメントの一方で、「じゃあなぜ捕まえない?」などの意見もある。 検証過程 検証対象のテキストの最後に「Source:@tpvsean」という情報源が書かれている。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、この情報ソースを調べた。 @tpvseanは英語

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朝日新聞入社式にハングル文字や韓国・中国の国旗?改変された画像【ファクトチェック】

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「朝日新聞の入社式の写真」として、朝日新聞社旗の両脇に韓国と中国の国旗を並べ、ハングル文字を掲げた画像が拡散しましたが、誤りです。実際の入社式の画像を改変したものです。 検証対象 2024年12月8日、「朝日新聞社の2014年度入社式」だとして、社旗の横に韓国と中国の国旗を並べ、式典タイトルをハングル文字にした画像が拡散した。「マスゴミなんて皆同じ」というコメントが付けられている。画像には「これが、日本の式典でしょうか?こんな新聞を信じられる訳ない!」という書き込みも付けられている。 60万を超える閲覧と600以上のリポストがあり、「日本の主要マスコミは韓国と中国が抑えています」「日本のマスメディアは日本破壊工作機関」などのコメントのほか、「さすがに合成した写真でしょうか?」という指摘もある。 検証過程 拡散した画像をGoogleレンズで検索すると、人物の並びがまったく同じ構図の写真が見つかる。2014年11月6日付の宝島社のネット記事に掲載された写真だ。 記事タイトルは「溶けていく文系エリート!朝日が、『メディアの東大』『朝日人』と呼ばれた理由」で

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