検証・教育・研究・開発など総合的な偽情報対策のハブに 日本ファクトチェックセンター

検証・教育・研究・開発など総合的な偽情報対策のハブに 日本ファクトチェックセンター

日本ファクトチェックセンター(JFC)などが2024年4月16日に都内で開いた偽情報対策シンポジウム。国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)がJFCと協力して実施した偽情報の実態に関する2万人調査の結果などを受けてJFCが今後、どのような施策に取り組むかを私(古田大輔JFC編集長)が説明しました。以下がその内容です。

JFCが発足1年半で成し遂げたこと

今後の施策について説明する前に、2022年10月1日に正式発足したJFCの現状について説明しました。

発信を強化し、国際ファクトチェックネットワークに加盟

JFCは発足当初、月10本のファクトチェック記事の公開を目標とし、JFCサイトだけでなく、Yahoo!ニュースX(旧Twitter)Facebookで発信してきました。

2024年4月現在、編集部の強化や作業の効率化によって、発信は動画を含め月30本ペースに。2023年5月には国際ファクトチェックネットワー(IFCNの認証を受け、年に一度の総会Global Factにも参加。日本におけるファクトチェックやリテラシー普及活動の拠点の一つとして、国際的な知名度も増しています。

偽情報対策に関する多様な情報発信

大量の不確かな情報の真偽を検証するファクトチェックは重要な活動ですが、偽・誤情報への理解を深めるには、それだけでは足りません。海外からの情報工作への対応にいち早く取り組んできた台湾の担当大臣へのインタビューなど、総合的な対策に向けた深掘り記事や解説記事も増やしています。

また、近年、若い世代を中心に偽・誤情報が特に拡散する場となっているTikTokやYouTubeショートなどの短尺動画での対策を強化するため、JFCでもYouTubeTikTokInstagramなどでのファクトチェック動画配信を始めています。

少ないリソースで何を検証するか

ファクトチェックはあらゆる話題について公正に検証することが大原則で、何を検証対象にするかにも公正さが求められます(ファクトチェックとは)。

JFCでは少ない編集部員で多様な分野をカバーしています。その中でも対象として多いのは「医療・健康」「国際」「政治」「災害」です。2024年1月だけを見ると、能登半島地震の影響で「災害」が半分を占めました。

「国際」が多いのは世界的に偽情報が大拡散したウクライナ・ロシアとイスラエル・パレスチナの戦争が影響しています。「医療・健康」「政治」「災害」はファクトチェックの重要分野であり、GLOCOMとの2万人調査でもファクトチェックへの期待が高い分野です。

サイトリニューアルでデータ分析や発信力を強化

JFCは2月にサイトをリニューアルしました。台湾の記事のような「解説」や2万人調査のような「調査」、ユーザーが学べる「講座」などを充実させています。

サイトの裏側では読者データの分析を強化しました。どういう人がどこから来ている、何をどれだけどこまで読んでくれているのか。それらのデータを分析して、より効果的な記事の書き方に繋げていきます。すでに、JFCのコンテンツは一般的なニュースサイトと比べて、読了率が高いことなどもわかってきました。

また、国境を越える偽・誤情報に対応するために英語ページも作り、国際的な発信力を強化しています。

リーチを広く深く AIテクノロジーを活用

コンテンツを作っても、届かなければ意味がありません。JFCは2023年12月からサンフランシスコに本拠を置くグローバルな非営利組織Meedanの技術を活用し、AIによるLINEボット を活用してユーザーからの質問に回答しています。

生成AIに回答させると間違った答えを作る可能性もあるため、JFCのLINEボットの回答はJFCのファクトチェック記事の引用に限定しています。JFCのLINEアカウントをフォローすれば誰でも無料で使え、フォロワーは日々増えています(アカウントはこちら。)。

また、毎週日曜日に1週間のファクトチェック記事や関連情報をまとめて配信するニュースレターを始めました。JFCだけでなく国内外の多様な偽情報関連の記事や動画などをまとめており、こちらも登録者が増えています。

アジア太平洋に偽情報対策の地域ネットワークを

偽・誤情報は国境を越えるため、対策にも国際的な連携が不可欠です。JFCはこれまでに台湾ファクトチェックセンター台湾情報環境研究センター(IORG)などと連携して検証に取り組んできました。

海外で開かれるシンポジウムやセミナーなどにも私(古田)が参加し、先端事例を学ぶとともに、日本やアジアの状況について発信をしています。

世界にはIFCNがあり、欧州、アフリカ、アラブ、南米には地域ごとのファクトチェック団体のネットワークがあります。しかし、アジア太平洋にはそういった地域ネットワークが不在でした。

現在、アジア太平洋ネットワークを構築するために、私も発起人の一人となって議論を進めているところです。

JFCの新たな施策 総合的な偽情報対策のハブへ

ここからは2万人調査やこれまでの活動から得た知見をもとにした、JFCの新たな施策を紹介します。

効果的な学習講座を動画で 講師養成講座で認定証も発行

2万人調査は日本における偽情報の実態だけではなく、効果的な対策について調べることが目的でした。

画像検索やリンクの確認をする人は偽情報に騙されにくいが、実践している人は1割もいない(詳細はこちら)などの知見をもとに、ファクトチェックやリテラシーについて学ぶYouTube動画を作成します。

すでに1本目の動画は公開済みです。

7月から20本の動画を順次公開し、ファクトチェックの理論やメディアリテラシー、情報リテラシーの基礎、誰でも使える検証ツールなど、わかりやすくポイントを説明します。

また、学校などでも活用できるように教材を配布し、教え方などを研修する講師養成講座を8月に開講し、受講して試験に合格した人に認定証を発行します。

優先度の高い医療健康分野でアドバイザー制度

新型コロナウイルスやワクチン、食や美容など、医療健康分野は偽・誤情報が拡散しやすく、命にも関わります。検証するためには、専門的な知見が特に重要な分野でもあります。

JFCでは2024年4月に「医療健康アドバイザー制度」を始めました。医療の現場や研究分野などで経験を積み、信頼性の高い情報発信にも努めてきた専門家4人を委員とし、どういう情報をどのように検証すべきか。また、情報発信のあり方などについて議論し、検証活動に活かします。

制度の詳細については近日中に改めて記事にする予定です。

ファクトチェックは偽情報対策の柱の一つ 総合的な取り組みを

偽・誤情報はたんにその情報が間違っているというだけにとどまらず、例えば、「政府は間違っている」「あのメディアや専門家は嘘つきだ」「何も信用できない」など、社会全体の信頼性をも揺るがすことに繋がります。その対策にも、マルチステークホルダーによる総合的な対策が不可欠です。

JFCはファクトチェックだけでなく、メディアリテラシー教育の普及にも取り組んでいます。今回のGLOCOMとの2万人調査のように、すべての偽・誤情報対策の基礎となるデータの収集と分析も重要な活動の一部です。

日々、偽・誤情報に向き合っているファクトチェック機関だからこそ、あらゆる対策について知見を提供し、協力することが可能です。実際にJFCではAIを活用した偽・誤情報の検知検証ツールの開発に協力したり、私(古田)が総務省「ICT活用のためのリテラシー向上に関する検討会」に入ったりしています。

今回の偽情報対策シンポジウムでも、ファクトチェック団体、研究者、メディア、プラットフォーム、総務省の方々が登壇し、会場にも多くの関係者が集いました。このような取り組みを通じて、総合的な偽・誤情報対策のハブになることを目指しています。

ファクトチェック団体の最大の問題は資金難

ただ、活動を続けていく上で最も大きな問題が資金難です。IFCNが世界のファクトチェック137団体から聞き取った調査「State of the Fact-Checkers Report 2023」によると、83.7%の団体が資金調達と経済的な継続性に不安を抱えており、JFCもその一つです。

偽・誤情報のほとんどは無料で拡散しており、ファクトチェックを有料にするわけにはいきません。JFCを含んだ世界のファクトチェック団体はGoogleなどからの大口の寄付やMetaとのパートナーシップなどに頼っています。

フルタイム職員は約5割が5人以下(JFCは2人)で、年間予算1500万円以下が37.96%、1500万-7500万円が35.04%と小規模でやりくりしているのが実情です。

偽・誤情報対策強化のために資金面でのサポートを

JFCはこれまでにGoogle.org、LINEヤフー、Metaの3社から経済的な支援を受けてきました。組織の透明性を高めるために資金や予算についてはこちらで公開しています。

ファクトチェックは非党派性と公正性が大原則であり、IFCNの規定に則って、JFCでもガイドラインを定め、独立性を保った運営をしています。

3社からの資金については、JFCのためだけでなく、2万人調査や今回のシンポジウムのように偽・誤情報対策全体に資するように活用しています。

国内での偽・誤情報の拡散だけでなく、海外からの情報工作など、問題はさらに深刻化しています。対策の維持・強化のためにも資金的なサポートもよろしくお願いいたします。

マルチステークホルダーによるパネル討論は動画で

偽情報対策シンポでは、2部のパネル討論で官民学のそれぞれの立場で偽・誤情報対策に取り組む専門家たちが意見を交わしました。その模様はYouTubeで公開している動画でご覧ください。

パネル討論 1「ファクトチェックとメディアリテラシーの現場」
古田大輔 (JFC編集長) ※モデレーター
鍛治本正人氏(香港大学ジャーナリズム・メディア研究センター教授)
山口真一氏(国際大学GLOCOM准教授)
飯田香織氏(NHK報道局ネットワーク報道部長)

パネル討論 2「マルチステークホルダーによる総合的な対策」
古田大輔(JFC編集長) ※モデレーター
山本龍彦氏(慶應義塾大学法務研究科教授)
恩賀一氏(総務省情報流通行政局情報流通振興課情報流通適正化推進室長)
槇本英之氏(LINEヤフー株式会社政策企画本部メディア・ローカル・UGC部長)
小俣栄一郎氏(Facebook Japan合同会社 Public Policy Manager)

2万人調査に関する記事はこちら

【2万人調査】偽・誤情報、日本での拡散の実態と効果的な対策とは
日本ファクトチェックセンター(JFC)などが2024年4月16日に都内で開いた偽情報対策シンポジウム。国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)がJFCと協力して実施した偽情報の実態に関する2万人調査の概要を解説しました。以下はシンポでの発表のまとめです。 報告書(全文)と概要版は文末からダウンロードできます。 偽情報対策シンポのアーカイブ動画 山口真一GLOCOM准教授「衝撃的な数字」 GLOCOMの山口真一准教授は経済学博士で専門は「計量経済学」。SNS上の偽情報、誹謗中傷、ネット炎上といった社会問題や、情報社会の新しいビジネスモデルなどについて実証研究をしている。今回の調査は2024年2月に実施され、アンケートが予備調査2万件、本調査5000件、文献調査、インタビュー調査、有識者会議と多岐にわたる。 14.5%しか誤っていると気づかない アンケートでは5つの分野(政治:保守有利、政治:リベラル有利、医療・健康、戦争・紛争、多様性)で計15件の実際に拡散した偽情報について、見聞きしたことがあるかを聞いた。 結果は全体で37%

検証手法や判定基準については、JFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、SNSでの拡散にご協力ください。XFacebookYouTubeInstagramのフォローもお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録はこちらからどうぞ。また、こちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

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「(斎藤知事の)パワハラはなかった」と百条委の委員長が発言? 前後の文脈を無視した切り取り動画【ファクトチェック】

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アメリカでは帰化して三世代おかないと政治家になれない? 大統領や連邦議会議員に親の国籍は関係ない【ファクトチェック】

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潜在的な国民負担率は62.9%? 過去のデータで現在は改善【ファクトチェック】

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