誤った情報、5割超の人が「正しい」 2万人調査結果を公開へ 4月16日にシンポ

誤った情報、5割超の人が「正しい」 2万人調査結果を公開へ 4月16日にシンポ

日本ファクトチェックセンター(JFC)は国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)と、日本で拡散する偽情報について2万人超を対象とした大規模調査を実施しました。誤った情報をそれぞれ約半数が「正しい」と捉えており、その影響は深刻です。調査の詳細を発表し、政治・メディア・プラットフォームなど業界を超えて対策を議論するシンポジウムを4月16日に開催します。

偽・誤情報は年代問わず非常に高い接触率「見たことがない人はいないだろう」

JFCと国際大学GLOCOMの「偽・誤情報、ファクトチェック、教育啓発に関する調査研究」では、2024年2月にアンケート調査を実施、15〜69歳の2万人を対象に実際に日本で拡散した15の偽・誤情報を見てもらい、そのうち一つ以上を見聞きしたことがある人3700人、いずれも知らない人1300人の合計5000人に本調査を実施した。

15の偽・誤情報は政治、医療・健康、戦争・紛争、多様性という4テーマから選び、政治はさらに保守系が有利になる情報とリベラル系が有利になる情報に分類し、各3本を選んだ。それぞれについて見たことがあるかを2万人に聞いた。結果は以下の通りだ。

15の偽・誤情報について一つ以上見聞きしたことがある人は37%。特に10代(44.4%)と60代(44.4%)で高かった。

実社会には偽・誤情報は無数にある。2022年10月発足のJFCだけでも1年半で253件のファクトチェックを実施した。調査を担当した国際大学GLOCOMの山口真一准教授は「たった15件の事例で一つ以上見聞きした人が37%というのは非常に高い。誤情報や偽情報が実際は無数にあることを考えると、見たことがない人はいないだろうと言えます」と話す。

「しかも、今回の調査で取り上げられた誤情報・偽情報は政治、医療・健康、戦争・紛争、多様性という非常に社会的なものです。エンタメのような分野であれば、もっと数字は高かったはず。10代と60代は特に44.4%と見ている人が多く、年代を問わず、非常に身近な問題であることが明らかです」

では、偽・誤情報を見た人のうち、「正しい」と思う人はどれだけいるのか。

偽・誤情報を「正しいと思う」が半数超える

今回の調査では15の事例に関して、それぞれ4~6割程度の人が「正しい情報だと思う」と回答した。全体で見ると51.5%が「正しいと思う」と答え、「誤っていると思う」は14.5%、「わからない」は34.0%だった。世代で大きな差はないが、60代は「正しい」と答えた人がやや多く53.5%だった。

山口准教授は「すでにファクトチェックがされている15の事例を取り上げたにも関わらず、誤りと気づいた人が平均してわずか14.5%しかおらず、半数以上の人が正しいと思ったまま生活している。それほど、偽・誤情報は恐ろしいということがわかる」と話す。

今回の調査は国際大学GLOCOMがグーグル合同会社のサポートを受けて2013年に立ち上げた研究プロジェクト「Innovation Nippon」の流れを組んでおり、2019年から連続して実施された偽・誤情報に関するレポートとも比較が可能となっている。

「中高年の方が騙されやすい傾向にあるという結果は毎年出ている。特に政治的なトピックでその傾向が強いが、今年は他の話題も多かったのでそこまで強く出なかった。重要なのはSNSをよく使う若者だけの問題ではないと理解することです」と山口准教授は指摘する。

ファクトチェックやメディア情報リテラシー教育が重要

今回の調査では偽・誤情報の影響だけでなく、どのような対策が有効かを詳しく調べている。どういう知識やスキルを身につけることが有効な対策かを知り、JFCが今後提供する教育講座などに活用する狙いがある。

例えば、メディアリテラシー、情報リテラシー、クリティカルシンキングの能力が高い人は、誤った情報を拡散しない傾向が強かった。一方で、自己申告でクリティカルシンキングをしていると答えた人ほど、偽・誤情報が誤っていると気づきにくい傾向も、偽・誤情報を拡散しやすい傾向も見られた。

「自分はわかっていると自信過剰になるのは危険。実践的に使えるスキルとして教える必要がある」と山口准教授は指摘する。

ところが、情報を検証するためにどういうことをしているかという質問に対して、20.9%が「確かめることはしない」と答えている。技術の発達で急増している画像や動画を使った偽情報に対して非常に有効な画像検索をするという人は7.1%に止まった。

日本経済新聞がシンガポールの南洋理工大と実施したアジア10カ国・地域の調査では、検証方法を知る割合が最も低かったのが日本で19%。首位ベトナム(81%)の4分の1以下で9位韓国(34%)にも離されていた。

また、3月26日に報道された読売新聞と国際大の調査では、日米韓3カ国3000人を対象とした調査で、「1次ソース(情報源)を調べる」と回答した人は米国73%、韓国57%、日本41%だった。

JFCは調査で得たデータを元に、偽情報対策として効果の高い知識や技術を学ぶYouTube動画シリーズを7月に公開する計画だ。調査の詳細は4月16日のシンポで発表し、資料を公開する。シンポへのお申し込みは以下の通り。

シンポジウム概要と申し込み

4月16日に開催するシンポジウムはオンラインとのハイブリッド開催となります。開催概要と申し込みはこちらをご参照ください。

偽情報対策シンポジウム 開催のお知らせ
日本ファクトチェックセンター(JFC)を運営する一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)は4月16日、偽情報対策を議論するシンポジウム「広がる偽情報にどう対抗するか -検証・教育・規制を考える-」を開催し、YouTubeでライブ配信します。 国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)と協力して実施した2万人規模の調査結果を公表し、日本における偽・誤情報の実態とあるべき対策について議論します。ファクトチェック機関、メディア、研究者、メディアリテラシー研究者、プラットフォーム、官僚など、この問題に取り組むさまざまな関係者がそれぞれの立場から知見を共有していきます。 シンポジウム概要 日時:2024年4月16日(火) 14時00分~17時00分 場所:東京コンベンションホール & Hybrid スタジオ ※JFCのYouTubeアカウントでライブ配信 プログラム 開会挨拶 湯本博信氏(総務省大臣官房官房総括審議官 情報通信担当) 1部:プレゼンテーション(14:05-15:05 ) 1. 調査研究発表 山口真一氏(国際

席数が限られるため、会場参加は招待制とさせていただきます。調査研究の資料はシンポ開催後、JFCサイト「調査」ページにて公開いたします。

シンポジウムに関するご質問は、こちらまでお寄せください。

jfc@saferinternet.jp

検証手法や判定基準については、JFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、SNSでの拡散にご協力ください。

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