政府・企業・NGO・メディアへの信頼、日本は最下位に 低所得層で広がる「不満と憤り」が社会を不安定に【解説】

世界各国で「信頼」がどう変化しているのかを調べる毎年恒例の「エデルマン・トラストバロメーター」2025年版が公開されました。今回で25回目。世界中で政府や企業やメディアなどあらゆる組織への信頼が低下する傾向がますますはっきりしています。背景にあるのは低所得層を中心とする「不安と憤り」です。
政府や企業やメディアやNGOなどからの情報を信じられなくなれば、そこに、デマや陰謀論が広がる隙間が生まれます。日本を含む世界28カ国で33000人超を対象としたエデルマンの調査(実施期間:2024年10月25日〜11月16日)から不信の原因と対策を紹介します。
世界的な信頼低下の潮流と日本の現状
日本は信頼指数が最下位に
政府、企業、メディア、NGOに対する信頼率(1~100)を平均した「信頼指数」を見ると、日本は2024年が39で28カ国中27位、2025年は37で最下位と悪化しました。
選挙で政府の指導者が交代した国の多くで信頼指数が下がっていたと調査は指摘しています。
日本はもともと信頼指数が低い傾向があります。これは自分たちに対して厳しい評価を下しがちな国民性もあると思われます。順位とともに注目すべきは、信頼指数の傾向です。
日本は2012年が32と非常に低く、そこから徐々に回復する傾向がありましたが、2020年以降は再び低下傾向にあります。2012年は東日本大震災への対応をめぐって、あらゆる分野への信頼が大きく下がりました。2020年以降は新型コロナウイルスへの対応が信頼低下の背景としてあります。
低所得層からリーダーたちへの信頼が落ちている
誰から誰への信頼が特に落ちているのかを細かく見ていきます。特に目立つのが低所得層からの信頼が低いことです。高所得層との信頼の格差は拡大する傾向にあり、2012年はわずか3ポイント差だったのが、2025年は13ポイントに開いています。
特に企業に対する信頼度は高所得層が58と「中立」に位置しているのに対し、低所得層は37で「不信」に。21ポイントもの差があります。NGO15、政府7、メディア7と比べても大きな開きです。
政府・企業・メディアは嘘をついているという恐怖の増大
この信頼の格差の背景には、長く続く経済の停滞で所得が増えていないことがあるでしょう。57%の人々が「富裕層は適性な税負担をしていない」と不満を募らせています。「富裕層の身勝手な行動が多くの問題を引き起こしている」という回答も47%に登りました(レポートp12)。
また、政府や企業やメディアが「嘘や誇張を用いて意図的に人々を欺いている」と考える人も急増しています。政府のリーダーが嘘をついていると答えた人は50%、企業のリーダーは49%、ジャーナリスト・記者は64%でそれぞれこの5年で急増しています。
渦巻く不安と憤りが信頼格差を生む
日本の65%が不満と憤りを感じている
高まる不信感の背景として調査が指摘するのは「不満と憤り」です。
「企業・政府は一部の限られた層を優遇している」「企業・政府の行動は自分に悪影響を及ぼしている」「富裕層が優遇されるシステムになっている」「富裕層がさらなる富を得ている」という理由で不安と憤りを感じている人は65%にもなっています(中程度と高程度の合計)。
日本だけではありません。調査では対象26カ国のほぼ全てで、過半数が不満と憤りを感じているという結果となりました。日本は中間やや上位に位置します。
不満と憤りが不信感につながる
調査で判明したのは、「不満と憤り」が信頼に大きな影響を与えることです。「不満と憤り」が高い層、中程度の層、低い層で分類すると、高い層ほどあらゆる組織への信頼度が低くなることがわかります。
企業で見ると、高い層は31で低い層は59、政府で見ると高い層は14で低い層は50と大きな差があります。
最も評価が高い「企業」にも影響
より細かく見てみましょう。日本において、倫理面・能力面の両方で最も評価が高いのは企業です。「有能さ」では過去5年で14ポイント下がりましたが「倫理的」では11ポイント向上して、NGOやメディアや政府よりも高い位置につけています。
ところが、不満と憤りが高い層からの評価で見てみると、企業に対する評価も能力・倫理の両面で一気に下ります。すべての機関が非倫理的で無能だと低評価を受けていることになります。
不満と憤りを和らげ、信頼を獲得するには
不満と憤りと不信感が増す先にあるもの
今回の調査で衝撃的な数字の一つは「攻撃的な活動が変化を促す有効な手段だと考えている」と答えた人の割合が35%に上ったことです(調査28カ国の平均は40%)。
特に若年層(18-34歳)では43%、10人に4人以上が攻撃的な活動を容認しました。この傾向がさらに強まれば、社会が不安定化するのは間違いありません。
エデルマンの4つの提言 不満と憤りへの対応
エデルマンの調査は信頼を向上させるために4つの提言をまとめています。
1.不満と憤りへの対応が必須
過去25年間の組織制度上の失敗は世界中で不満を生み出し、成長とイノベーションを阻害してきた。危機を乗り越えるには、利害関係者の経済的現実を理解し、共通の利益を促進し、楽観主義の機会を創出することが求められる。
2.企業にはアクションを取る資格がある
不満と憤りの意識が高い人ほど、企業が社会的課題に十分に取り組んでいないと考える傾向がある。期待に応えるには自社の責務を明確にし、利害関係者のために行動し、組織の立場を主張することが重要。
3.企業だけでは行動出来ない
信頼、成長、繁栄のためには、企業、政府、メディア、NGOが協力して不満と憤りの根本的原因に取り組むことが不可欠。地域社会、良質な情報、職業スキルに投資し、すべての人に公平に利益をもたらすことが求められる。
4.信頼があれば楽観主義が不満と憤りを上回る
組織が正しい行動をとると信頼できない場合、不満と憤りは増大し、将来の見通しは暗くなる。不満と憤りを解消し、楽観的な展望を育むには、組織や地域社会全体の信頼を優先させ、再構築する必要がある。
「過去25年間の組織制度上の失敗」とは、エデルマンの調査が始まった25年前からの世界の様々な事象に、政府・企業・メディア・NGOが対応できなかったのではないか、という指摘です。
最初の調査のきっかけとなった1999年の米シアトルでの世界貿易機関(WTO)閣僚会議への抗議デモ、2003年のアメリカのイラク侵攻、2008年の金融危機、2011年の東日本大震災と福島原発事故、2016年のイギリスのEU脱退、2020年のコロナ・パンデミック、2022年のロシアのウクライナ侵攻などが例として挙げられています。
信頼の低下、不満と憤りへの対応が必須であり、それがなければ将来の見通しは暗くなるという指摘は、説得力があります。
古田の視点:メディアは何をすべきなのか
社会における「信頼性」を語るうえで、メディアは欠かせない存在です。メディア自身に対する信頼だけでなく、政府や企業やNGOなどの行動、政治家や経営者らの言葉を伝える役割があるからです。メディアの報じ方が、人々の社会に対する認識を左右します。
メディアが「政治家や経営者は信用できない存在であり、人々に嘘をついて自分たちの利益のためだけに身勝手に行動している」と報じれば、人々の不満や憤りは高まるでしょう。一方で、メディアには「権力の監視」という役割も期待されるので、政府や企業が違法なことや、社会に悪影響を及ぼすことをしていれば、それを指摘する必要があります。
民主主義社会を維持するうえで、このような重要な役割を持つメディア自体の信頼が落ちれば、人はそれ以外の情報に頼るようになります。XやYouTubeやTikTokなどのソーシャルメディアには、既存のマスメディアを批判し、独自の情報発信をするアカウントが無数にあります。
その中には専門的な知見や当事者ならではの経験に基づいた素晴らしい発信もありますが、根拠のない決めつけや自分の利益だけを考えた詐欺的な情報発信も数多くあります。メディアへの信頼低下は、それらのオルタナティブ(代替)な発信が力を持つことに直結し、社会をより不安定にします。
アメリカ政府の対外援助を管轄するUSAID(アメリカ国際開発庁)について、「フェイクニュースメディアに資金援助している」「急進左派の組織」などの投稿が日本でも拡散したのは、その事例と言えます。

また、兵庫県知事選において有権者が新聞やテレビよりもSNSや動画を参考にして投票したのも、その事例の一つでしょう。

一度失った信頼を取り戻すのは困難です。何を言っても「どうせメディアは」と受け入れてもらえないからです。とはいえ、諦めるわけにもいきません。エデルマンが提言するように「地域社会、良質な情報、職業スキルに投資し、すべての人に公平に利益をもたらす」ことがメディアにも求められています。
まずは、自分たちが信頼を失い、不満と憤りの対象となっていることを、このような調査から謙虚に受け止め、改善のための施策を考え、行動する必要があります。このような調査を詳細に紹介するのもそのためです。
出典
"Edelman Trust Barometer 2025 日本版レポート". Edelman Trust Institute. 2025. https://www.edelman.jp/trust/2025/trust-barometer(2025年3月22日)
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