ファクトチェックは「事実」の検証 オピニオンは自由 【JFCファクトチェック講座 理論編5】

ファクトチェックは「事実」の検証 オピニオンは自由 【JFCファクトチェック講座 理論編5】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。

理論編の第4回は偽・誤情報対策として役に立つだけでなく、メディアリテラシーの基本でもある「クリティカルシンキング」について解説しました。第5回はいよいよ事実の検証、ファクトチェックについて、その基礎から説明します。

(本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています)

ファクトチェックはオピニオンチェックではない

ファクトチェックとは「事実の検証」、検証可能な事実を検証するものです。誰かの意見を検証するオピニオンチェックではありません。

日本ファクトチェックセンター(JFC)ではファクトチェックを「言説に含まれる事実について客観的に検証し、正確性を評価すること」と定義しています。

まずは事実と意見を明確に区別する必要があります。

言論の自由とファクトチェックの役割

民主主義国家の日本では憲法19条で思想及び良心の自由、憲法21条で言論や表現の自由を保証しています。

多様な意見は非常に重要ですが、それらが嘘や誤解に基づいている場合、その部分のファクトチェックが必要です。

一方で「自分が気に入らない意見をチェックしてやろう」というような行動はファクトチェックとは言えません。

雲・雨・傘、検証できるのは?

検証可能な言説とはどういうことか。具体的に見ていきましょう。

例えば、「雲が出ている。雨が降りそうだ。傘を持とう」という言説があるとします。検証可能なのは「雲が出ている」という部分です。

「雨が降りそうだ」は推測で「傘を持とう」は意見や行動です。ファクトチェックでは、事実であるとして提示されている情報の部分「雲が出ているかどうか」を検証します。

雲がほとんどなくても傘を持つのは自由

「雲が出ている」を検証した結果、雲が出ていなければ「誤った情報」、ほとんど出ていなければ「不正確な情報」、出ているけれど雨雲出なければ「ミスリードな情報」と判定できるでしょう。

ただし、雲がほとんど出ていなくても「もしかしたら雨が降るかもしれないから、傘を持っていこう」というのはその人の自由です。

ファクトチェックは「傘を持っていくな」とは言いません。

「お母さんの嘘つき」はファクトチェック?

次に、母親と子供の朝の会話を想像してみてください。

母親が子供に「雲が出ていて雨が降りそうだから傘を持っていきなさい」と言いました。子供は傘が邪魔だけど持っていった。でも、雨が降らなかったとします。

子供が帰ってきて「お母さんの嘘つき」と言った。傘持っていくのはめんどくさいし、子供がそう言いたくなる気持ちはわかります。

しかし、お母さんは嘘つきでしょうか。朝の段階で雲が出ていたのは事実です。客観的に検証可能なその部分をファクトチェックするとしたら、お母さんの言葉は「正確」と判定すべきものでしょう。

「雨が降りそうだから傘を持っていきなさい」という部分は母の推測・意見であり、ファクトチェックで正誤判定する言説ではありません。

クリティカルシンキングをしてみたら...

「お母さんの嘘つき」と思わず言ってしまったときに、クリティカルシンキング=吟味思考を働かせていたらどうなるでしょう。

雲が出ていたのは事実。母親が心配して雨が降りそうと推測するのも仕方がないよね、と思えます。そうすると「嘘つき」ではなくて「お母さんの天気予報、外れたね」と言えるかもしれません。

これが日常生活の中のクリティカルシンキングです。

ファクトチェックとクリティカルシンキングの違い

もし、この天気予報が母親ではなく、気象予報士によるものだったらどうでしょう。専門家として、予報は当ててほしいですよね。

こうやってみていくと、ファクトチェックは「特定の部分の事実の検証」、クリティカルシンキングは「意見の妥当性を総合的に考える」という風に区別することができます。

事実と意見の切り分けは難しい

「事実と意見の切り分け」は意外と難しいです。子供の頃から国語で「意見の部分や事実の部分を抜き出しなさい」という問題を解いたことがあると思います。必ず100点を取れるわけではありません。

JFCと国際大学グロコムの2万人調査でも、情報リテラシーの問題として実施しましたが正答率は70%でした。じっくり考えることができるテストでもです。

日常生活では絶え間ない情報の判断が必要です、しかも、フィルターバブルやエコーチェンバーや確証バイアスなどの影響を受けながら。この中で吟味思考を実践する癖をつけるのは時間がかかります。

次回は国際的なファクトチェックのルール

今回はファクトチェックの基本ルールとして、意見と事実を明確に区別することについて学びました。言論の自由を尊重し、公正性を保ちながら、事実に基づく情報を提供することが求められます。

次回は、国際的なファクトチェックのルールとその限界について解説します。

アンケートにご協力を

動画を見た方は、ぜひ簡単なアンケートにご協力ください。 https://forms.gle/QdVa9A5v3RDnfBW59

検証手法や判定基準については、JFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、SNSでの拡散にご協力ください。XFacebookYouTubeInstagramのフォローもお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録はこちらからどうぞ。

また、こちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

マイナンバーカード、意識不明で運ばれたら暗証番号が分からず使えない? 目視による本人確認で対応【ファクトチェック】

マイナンバーカード、意識不明で運ばれたら暗証番号が分からず使えない? 目視による本人確認で対応【ファクトチェック】

マイナンバーカードに関して、意識不明で運ばれたら暗証番号が分からずに使えないという情報が拡散しましたが、誤りです。暗証番号がわからない場合、医療機関や薬局の職員が写真と本人の顔を照合して受け付ける方法があります。 検証対象 2024年12月2日、「病院ではマイナンバーカードの提示を求めますがその際に暗証番号が必要となります。もし意識不明となり運ばれた場合、暗証番号が分からず未確認となります。 無保険扱いとなる可能性もあり病院側としてもとても面倒です」という投稿が拡散した。 添付された動画はマイナ保険証に関するテレビ番組の切り抜きで、マイナ保険証の導入に伴うメリットや課題などを紹介しているが、投稿の文言自体とは直接的な関係はない。 2024年12月3日現在、この投稿の表示回数は315万回を超える。投稿について「どうしたらいいんだろう」「緊急時や事故の際のリスクも伴う」というコメントの一方で「デマはやめてほしい」という指摘もある。 検証過程 暗証番号が読み取れないときのマイナ保険証の利用 2024年12月2日、健康保険証の利用登録をしたマイナンバー

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
嵐・大野智氏が大麻で逮捕? 所属事務所が否定、投稿者は謝罪【ファクトチェック】

嵐・大野智氏が大麻で逮捕? 所属事務所が否定、投稿者は謝罪【ファクトチェック】

「嵐・大野智氏が大麻で逮捕された」という情報が複数拡散しましたが、誤りです。大野氏が所属するSTARTO ENTERTAINMENTは「事実無根」と否定する声明を出し、投稿を最初に拡散した投稿主は謝罪して撤回しています。 検証対象 2024年11月28日、「今詳細調べてるから確定したら公開するけど、逮捕の話が上がってるのは嵐の大野智。罪名は大麻取締法違反」という情報が拡散した。 拡散とともに、週刊誌の記事を装った画像も複数投稿され、拡散した。なかには表示回数が2,960万回を超えるものもある。 検証過程 事務所が否定する声明「法的措置をとる」 大野氏が所属する株式会社STARTO ENTERTAINMENTは2024年11月30日、公式ウェブサイトで強く否定する声明を出した(当社契約タレントへの著しい名誉毀損記事・投稿について)。 「当社契約タレント・大野智についての大麻取締法違反による逮捕などという虚偽の内容の記事・投稿の事実を強く否定するとともに、これらの悪質な記事やSNSの投稿に対し、名誉毀損行為として法的措置をとることをお知らせいたします

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
北朝鮮が有田芳生氏の身分証明書を発行? 画像は渡航用のビザで日本国籍と明記【ファクトチェック】

北朝鮮が有田芳生氏の身分証明書を発行? 画像は渡航用のビザで日本国籍と明記【ファクトチェック】

立憲民主党の有田芳生衆院議員について「北朝鮮が発行した有田氏の身分証明書」という画像とともに、有田氏は北朝鮮国籍であるという情報が拡散しましたが、誤りです。実際は北朝鮮が発行した渡航用のビザ(査証)の画像で、日本国籍と明記されています。 検証対象 2024年12月2日、「有田芳生氏の身分証明 ご自由にに判断して下さい‼‼」との投稿が拡散した(その後削除)。 拡散した投稿には有田氏の顔写真が入り、「DEMOCRATIC PEOPLE’S REPUBLIC OF KOREA(朝鮮民主主義人民共和国)」との記載されたがある画像が添付されている。 このビザの画像はこれまでも「有田氏は北朝鮮国籍だ」という主張とともに繰り返し拡散している(例1、例2)。 「公の場に勤める人達は 出自の公表が必要です」「スパイがすっぱ抜かれてやんの」などのコメントが多数つき、有田氏が北朝鮮国籍であるかのような主張がなされている。一方で、「これはビザですね」との指摘もある。 検証過程 元画像は有田氏本人が2015年に投稿 日本ファクトチェックセンター(JFC)が検証対象に添付

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
いらすとやに斎藤兵庫県知事とPR会社社長のイメージ画像? Xユーザーが独自に作成【ファクトチェック】

いらすとやに斎藤兵庫県知事とPR会社社長のイメージ画像? Xユーザーが独自に作成【ファクトチェック】

「いらすとやさんのお仕事の早さ」という文言と共に兵庫県の斉藤元彦知事と公職選挙法違反の指摘があるPR会社の社長を連想させるいらすとや風の画像が拡散しましたが、誤りです。いらすとやではなく、Xユーザーが独自に作成したものです。 検証対象 2024年11月28日、「いらすとやさんのお仕事の早さ」という画像付き情報が拡散した。男性と女性が砂浜で手を上げる画像が添付されている。 2024年11月29日現在、このポストは1500件以上リポストされ、表示回数は42万回を超える。投稿について「素晴らしい!」「さいとうブルー」というコメントの一方で「いらすとやさん公式ではないようです」という指摘もある。 検証過程 いらすとや公式サイトになし 「いらすとや」はイラストを配布しているフリー素材サイト。サイトの「新しいイラスト」から新規追加されたイラストを確認することができる。 2024年6月までさかのぼることができるが、日本ファクトチェックセンター(JFC)が確認したところ拡散した画像はない。 Googleレンズを活用 拡散した画像をGoogleレンズで検索す

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)