OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】

OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。

実践編第5回は、生成AIで作られる画像や動画の検証についてでした。第6回は公開されている情報に基づいた調査=OSINTについて解説します。

(本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています)

OSINTとは

オープンソースインテリジェンス(Open Source Inteligence=OSINT)とは、一般に公開されている情報を収集し分析する手法のことです。

近年、調査報道やファクトチェックに活用されており、オンライン調査とも呼ばれます。日本ファクトチェックセンター(JFC)でもこの手法を活用しています。

現実の画像かどうかOSINTで確認する

実例で見ていきます。

実践編第5回でも紹介したように、2022年9月の静岡県の水害では、生成AIによる偽画像が拡散しました。

ドローンで撮影された静岡県の災害画像? AIディープフェイクの見分け方【ファクトチェック】
台風15号による記録的な大雨に見舞われた静岡県をドローンで撮影したとする画像がTwitter上で拡散しています。しかし、これはAIで作られた画像で、後から投稿者も偽画像だと認めています。AI作成の画像を見抜くポイントの解説とともに検証します。 検証対象 2022年9月26日、Twitterアカウント「くろん」(@kuron_nano)が静岡県の台風15号による被害について、多くの建物が水没している3枚の画像と共に、「ドローンで撮影された静岡県の水害。マジで悲惨すぎる…」と投稿した。 引用リツイートには「こんなに酷いんだ」「これスルーて、国葬の為にしてるとしか思えないじゃん!」などと本物の写真だと受け止めるコメントがついたが、同日夕方、投稿者自身が「AIで作った偽の画像だ」と認めた。 その後は「偽情報流すな」「ふつーに騙されてしまった!」「ぱっと見わからん」などのコメントもついた。BuzzFeedJapanのファクトチェック記事も「虚偽画像が拡散」と報じている。 検証過程 画像を検索してみる Googleレンズで1枚目を検索すると、洪水の写真は出て

この画像が生成AIによるものだという報道が広がると、今度は「他の画像も偽物ではないか」という疑いがネット上で広がりました。

そこでJFCではOSINTを用いて、偽物であると疑われた画像が本物か確認しました。

なぜニュースにならないの? 静岡県内の水害画像は本物【ファクトチェック】
台風15号の豪雨被害を受けた静岡県内の様子とされる画像がTwitter上で拡散していますが、AIで作成された画像など真偽不明な情報も混じって混乱を招いています。9月25日に「なぜニュースにならないの?」という文章とともに投稿された3枚の画像は、静岡市南部・巴川の氾濫による被害だと確認できます。 検証対象 9月25日午後10時54分、「なぜニュースにならないの?」という文言と共にTwitterに投稿された3枚の画像は、台風15号の被害の凄まじさを示すものとして大きく拡散した。 このツイートを引用する形で「これもフェイクなのか?」「写真には一部フェイクが混ざってる」といった疑念の声も上がった。台風15号被害をめぐっては数多くの投稿があり、その中には別の災害の写真や、AIで作成した画像などがあるためだ。 検証過程 1枚目の冠水画像に関して出典元をGoogle画像検索とTwitter検索で探したところ、Jリーグ・清水エスパルスの地元ファンだというアカウントが9月24日午前5時9分に「結局床上浸水&車2台アウト」と投稿していた。続くツイートで、撮影場所を静岡市清

ジオロケーションを活用する

OSINTでよく用いられるのがジオロケーション、つまり地理的な情報の特定です。その写真や動画がどこで撮影されたのかを様々なヒントから検証していきます。

静岡県の水害の際は、様々な被害写真がネットにアップされ、それらの真偽が話題となりました。JFCでは以下の写真について、ジオロケーションの手法で実際の被害画像であると特定していきました。

投稿者を確かめる

SNSで拡散している画像の投稿者は撮影者とは限りません。どこかで見つけた画像をアップしていることも多々あります。そのため、まずはオリジナルの投稿を見つけることが重要です。

実践3「画像の検索の手法を使うと、左上の画像を最初に投稿した人がすぐに見つかります。前後の投稿を見ると、静岡市清水区周辺で撮影したと書いています。

Googleマップを活用する

具体的な地名がわかれば、地図の出番です。Googleマップで静岡市清水区で検索すると、以下の地域に絞り込めます。

これではまだ広すぎて、どこで撮影した写真かを見つけることは不可能です。

ここで投稿された写真にヒントが映っていないかを探してみます。

遠くに高架の道路が写っていることがわかります。これは大きなヒントです。

Googleマップで高架の道路を探すと、可能性がありそうな大きな道路が2つ見つかります。東名高速道路と国道1号です。

ストリートビューを活用する

ここから先は根性です。それっぽい場所を丹念に探していきます。

ヒントは写真に写っていた撮影者のいる道路と垂直に交わっている高架の道路。左右には2回建ての住宅が並ぶ住宅地。

使うのはストリートビューという現地で道路から撮影した映像を見る機能です。

Googleマップの右下にある黄色の人型の人形(ペグマン)をクリックして持ち上げると、ペグマンをおける道路が水色で示されます。

国道1号に垂直に交わっている道路は少ないので、東名高速と垂直に交わる道路にペグマンを何回かおきながら、ストリートビューの画像を確認していきます。

すると、遠くに高架があり、建物が似ている場所が見つかります。

あとはストリートビューの位置を調整していくだけで、撮影場所とほぼ同じ地点が見つかります。

建物や電柱などを見ると、特徴が全て一致します。

ジオロケーションは世界中で使える

Googleマップは世界中の地域の多くを網羅しているため、海外の画像でも検証可能です。実例を見てみましょう。

2024年1月の関東での地震の際に「地震雲だ」と拡散した動画についてもOSINTを使用して検証しました。

(動画)東京・神奈川で発生した震度4の地震前 おかしな雲がびっしり?【ファクトチェック】
2024年1月28日、東京・神奈川で発生した震度4の地震について「おかしな雲がびっしり、空に浮かんでいるな」という動画付き言説が拡散しました。これは誤りです。動画は過去に海外で撮影されたもので、28日の朝に日本で撮影されたものではありません。 検証対象 2024年1月28日、東京や神奈川県などで発生した地震について「今朝、おかしな雲がびっしり空に浮かんでいるなと思って写メ撮った。そしたら #地震発生、怪しいな」という動画付き投稿が拡散した。投稿には特徴的な雲を撮影した動画が添付されている。 2024年1月31日現在、このポストは245回以上リポストされ、表示回数は77万回を超える。投稿について「地震の前触れ」というコメントの一方で「日本じゃない」とデマの可能性を指摘する声もある。 検証過程 拡散した言説の動画をGoogle画像検索で検索すると、同一の動画がTikTokで見つかる。投稿日は2023年11月で、地震が発生した2024年1月より前に撮影されたことが分かる。 動画に映っている車のナンバープレートをよく見ると、左側に赤いラインが書かれている。日

こちらもGoogle画像検索を使い、この動画が2023年11月にTikTokに投稿されたものであることを確認しました。この段階で2024年1月の地震とは関係がないことがわかります。

次にどこで撮影されたものかを検証します。ヒントは車のナンバープレートです。国によってデザインが違うため、検索して同じようなデザインの国を探します。

すると、この左側に赤い縦線が入ったナンバープレートはカタールのものであることがわかります。

あとは周辺に建物がなく、公園のように見えることからカタールの大きな公園付近を探していくと、動画と同じ特徴的なデザインの街灯が見つかります。

次回は便利なサイトやツールの紹介

OSINTはジオロケーションだけでなくて、あらゆる公開情報を活用します。次回は、多くの情報を得られる便利なサイトやツールを紹介します。

アンケートにご協力を

動画を見た方は、ぜひ簡単なアンケートにご協力ください。 https://forms.gle/QdVa9A5v3RDnfBW59


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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トランプ関税延期は農林中金が米国債を売却したから? 売却は2024年度【ファクトチェック】

トランプ関税延期は農林中金が米国債を売却したから? 売却は2024年度【ファクトチェック】

トランプ大統領が「相互関税」を90日間延期したのは、日本の農林中央金庫による米国債の売却が影響したという情報が拡散しましたが、誤りです。農林中金が米国債を売却したのは関税に関する発表前の2024年度です。 検証対象 2025年4月11日、トランプ大統領が「相互関税」を延期したのは、日本の農林中央金庫が米国債を売り、米国債の価格低下と金利上昇を招いたからだという趣旨の投稿がXが拡散した。 投稿には、米国債の下落や金利上昇、株・ドル・債券のトリプル安を報じるテレビニュースの画像が添付され、「トランプ『相互関税発動!』→農林中金『バーゼル規制に引っかかって米国債強制決済…』→トランプ『え、米国債売られまくってる…!?ヤバい!関税90日延期で。日本め、報復しないとか言いながら、とんでもないことしやがる』→石破『なんか知らんけど助かった』→世界『日本ありがとう!』」などと書かれている。 4月18日現在この投稿は840万を超える閲覧、リポスト4900を超える。「日本が神風を起こし世界を救う」「相手はともあれ、やっぱり日本は神の国」といったコメントのほかに、「関税発動直

By 宮本聖二
中国大使館「大地震の可能性が高い」と日本への渡航や留学中止を呼びかけ? 地震への一般的な注意喚起【ファクトチェック】

中国大使館「大地震の可能性が高い」と日本への渡航や留学中止を呼びかけ? 地震への一般的な注意喚起【ファクトチェック】

駐日中国大使館が、大地震が発生する可能性が高いことを理由に、日本への渡航や留学の中止、帰国を呼びかけたという情報が拡散しましたが、誤りです。大使館は、日本への旅行や留学については慎重に計画し、不動産の購入は慎重に選択することを勧めていますが、渡航中止や帰国を求めてはいません。 検証対象 2025年4月15日、「在日本中国大使館よりお知らせ『日本では大地震が発生する可能性が高いと想定し、中国国民は日本への渡航や留学を中止するよう勧告します。すでに日本にいる中国国民は直ちに帰国してください!』」という投稿が拡散した。 投稿は中国語の投稿を引用している。引用元の投稿をXの機能で翻訳すると拡散した言説と同じ文言になる。 2025年4月17日現在、この投稿は4300件以上リポストされ、表示回数は307万回を超える。投稿について「えっみんな帰るの!」「これでほんとにあったら人工地震」というコメントの一方で「帰国しろとか、留学するなとかは書いてない」という指摘もある。 検証過程 日本ファクトチェックセンター(JFC)は駐日中国大使館のウェブサイトを確認した。 大

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兵庫県知事選から考える選挙とファクトチェック 「情報の空白」をいかに埋めるか【情報インテグリティ】

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4月2日の国際ファクトチェックデーに合わせ、一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)/日本ファクトチェックセンター(JFC)が開催した情報インテグリティシンポジウム。この記事ではパネル討論1「選挙と情報インテグリティ」の内容をお届けします。 モデレーター:古田大輔(日本ファクトチェックセンター 編集長) パネリスト: ・澁谷遊野 氏(東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授) ・永田憲亮 氏(神戸新聞社編集局報道部次長) ・西村 健吾氏(TikTok Japan 公共政策本部 公共政策部長) 選挙と情報インテグリティ【パネル討論1】 登壇者の自己紹介 古田:モデレーターを務めます古田です。よろしくお願いいたします。まず最初に、登壇者の皆さまにご自身がどのように情報インテグリティの分野に関わっているか、自己紹介をお願いしたいと思います。 澁谷:澁谷と申します。東京大学大学院情報学環で准教授をしております。私は偽情報やデジタル空間の情報データに関しまして、主にデータ解析の観点から研究に取り組んでおります。 2つの観点から取り組んでおりまして

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石破首相「トランプ大統領を怒らせてしまった」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

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石破首相が「トランプ大統領を怒らせてしまった」と発言したという情報が拡散しましたが、誤りです。投稿の見出しは、掲示板サイトのスレッドタイトルからの引用です。本人の発言は確認できません。 検証対象 2025年4月8日、「【悲報】日米電話会談 石破総理『どうやらトランプ大統領を怒らせてしまったようだ・・・』」という投稿が拡散した。 2025年4月17日現在、この投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は50万件を超える。投稿について、「トランプには通用しない」「怒らない方がおかしい」と石破首相を批判するコメントがついている。 検証過程 まとめサイトのタイトルは掲示板から 検証対象のリンクは、まとめサイト「2ちゃんねる」の記事だ。 掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「【日米電話会談】 石破総理『どうやらトランプ大統領を怒らせてしまったようだ…』」で、日テレNEWSが2025年4月7日に配信した記事「トランプ大統領『日本は貿易でアメリカをとてもひどく扱ってきた』」を引用元に挙げている。 日テレ記事は、トランプ大統領が石破首相との電話会談の後、SNSに

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ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

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JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

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