JFCファクトチェック講座5:画像の検証 GoogleレンズとTinEye

JFCファクトチェック講座5:画像の検証 GoogleレンズとTinEye

偽情報/誤情報で多いのが写真や動画を使ったものです。ツールの活用により、改変や捏造が簡単になったことや、もともとの意味とは異なる翻訳をつけてミスリードするものもあります。まずは画像を検証するために知っておくべき手法と便利なツールの利用法を解説します。

画像で騙す2つの手法 対策はオリジナル探し

「画像があるから事実だ」などということはありません。画像は簡単に改変ができるし、違った文脈で使えばミスリードするからです。

改変やミスリードへの対策として有効なのが、オリジナル画像を発見して比較することです。改変部分が見つかったり、全く違う文脈で利用されていることがわかったりします。

ここでも重要なのは検索の技術です。画像に映り込んでいる人物や背景から検索キーワードを想像し、期間を狭めて検索していくことでオリジナルの画像にたどり着くことができます。

ここでは、それよりも簡単にオリジナル画像を見つけられるツールを、日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事を例にして紹介します。

Googleレンズを利用する

これはJFCが2023年4月に配信した「反原発デモの空撮、報道されなかった」は誤りというファクトチェック記事です。

画像

国会議事堂周辺に集まる人々を空撮した写真に「安倍政権時代は少なくとも3回以上、この規模のデモはあった。でも、ほとんどの国民は知らなかった。mediaが報じなかったから」「反原発デモの模様が空撮され世界中に流れてから、警察は民間のヘリによる空撮を禁止した」などの説明がつけられ、Twitterで拡散しました。

検証は簡単です。Twitterのタイムライン上で、この画像にカーソルをあわせ、右クリックをして「Googleで画像を検索」を選ぶだけです。

画像

そうすると、画面右に検索結果として類似画像が並びます。複数の報道機関が自社ヘリで空撮をし、報道していることや、これが反原発デモではなく、2015年8月の安保関連法案に反対する集会であることがわかります。

Googleレンズは非常に便利なツールで、画像の一部をトリミングして、その部分に類似する画像を探すことも可能です。これで多くの画像を検証できるでしょう。

ただし、大量に検索結果が出てきて、どれがオリジナル画像かわからないことがあります。そういう時に便利なのが、TinEyeです。

TinEyeを活用する

これはJFCが2023年1月に配信した「稲田議員と皇室がチマチョゴリを着ている画像」は合成というファクトチェック記事です。

画像

この画像をそれぞれGoogleレンズで検索しても、まったく同じ画像やチマチョゴリの商品画像が大量に出てきて、オリジナル画像が見つけられません。

そこで、画像を古い順番に並べる機能がある画像検索ツールTinEyeを使います。TinEyeは、サイトに画像をアップロードしたり、画像URLを検索窓に入れたりすることでも使えます。しかし、もっと簡単に利用するために「InVID-WeVerify toolkit(以下、InVID)」のインストールをお勧めします。

Chromeブラウザの拡張機能として利用できます。ここからインストールしてみましょう。あとは、Googleレンズのときと同じように画像の上で右クリックし、「Fake news debunker by InVID and WeVerify」を選びます。そうすると、GoogleレンズやTinEyeだけなく、あらゆる画像検索ツールを一気に利用することができます。 

画像

ここではTinEyeのみを紹介しますが、例えば、ロシア語圏の情報ならYandex、中国語圏ならBaiduなど、同様のツールがあり、それぞれに強みがあります。

TinEyeを使って検索し、古い順番に並べる機能を使って「Oldest」で並べてみると、2016年8月のabc newsの記事と元画像が見つかり、チマチョゴリは合成された画像であることがわかります。

画像

JFCのファクトチェック記事は、それぞれ「検証過程」の部分で検証に利用したツールも紹介しているので、そちらも参考にしてみてください。

簡単な検証は一瞬でできる

ファクトチェック組織では、ご紹介したYandexやBaiduなど多種多様なツールを状況に応じて使い分けています。しかし、JFCファクトチェック講座3で紹介した「検証の4ステップ」のレベルであれば、GoogleレンズとTinEyeだけでも十分です。別のタブで検索結果を確認しながら記事を読むことを「横読み」とも呼ぶことは講座3でも触れました。

誤った画像が大量に拡散する背景には、こういった手法が知られていないこともあるでしょう。一つずつ細かく調べることは時間的に困難ですが、一瞬で使えるツールもあります。情報をシェアする前に右クリックで確認するクセをつけましょう。

次回は動画の検証です。今回使ったInVIDのさらなる活用法をご紹介します。

講座目次

  1. 意見や推測ではなく事実を検証する
  2. 検証は効果あり 検索やAIにも反映される
  3. 検証の4ステップ 「横読み」で効率的に
  4. 実践的な検索技術 効率的にソースを探す
  5. 画像の検証 GoogleレンズとTinEye
  6. 動画の検証 InVIDとYouTube検索
  7. AIコンテンツの検証 細部を見る
  8. 公開情報こそ重要 OSINT技術を使いこなす
  9. 国際的な標準ルール 透明性を確保する
JFC ファクトチェック講座 - 日本ファクトチェックセンター (JFC)
ファクトチェックの考え方や技術、便利なツールの活用方法を実践的に学ぶ連載です。

筆者略歴

画像

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

トランプ大統領、就任が2ヵ月早まった? パーティーでの「提案」【ファクトチェック】

トランプ大統領、就任が2ヵ月早まった? パーティーでの「提案」【ファクトチェック】

アメリカのトランプ次期大統領が就任を2カ月早めるとする投稿が拡散しましたが、誤りです。自身の別荘でのパーティーでの発言で、実現する見通しはありません。 検証対象 2024年11月16日、アメリカのトランプ次期大統領が就任を2ヵ月早めるという投稿がXで拡散した。「もう就任しちゃうんですって」「トランプ大統領は、先日のマーアーラゴでのパーティーで、大統領就任を2カ月早めるという斬新な計画を発表🎉🎉🎉」と述べている。 投稿には、イギリスのMail Onlineの画像を日本語化したような画像がついており、「トランプ大統領が筋肉隆々のケネディ・ジュニアに5語の警告を発し、マール・ア・ラゴでのパーティーで任期を早めることを提案」という不自然な日本語がついている。 2024年11月18日現在、この投稿は500件以上リポストされ、表示回数は11万件を超える。投稿について「アメリカでの出来事は日本にも影響する…。」「前倒し✨だって、待てないんだもの。」というコメントが付いている。 検証過程 2024年の米大統領選挙で勝利したトランプ氏の大統領就任式は、2025年

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】

「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】

兵庫県知事選をめぐる偽・誤情報の拡散に関する解説の後半です。背景にはマスメディアの影響力低下とソーシャルメディアにおける選挙情報の拡大という世界で共通する大きな潮流があります。その中で、信頼性の高い情報に基づいた民主主義を成立させるためには、どうすればよいか。 SNS・動画が選挙情報の中心に 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われる中、何が起きていたのか。都知事選の石丸現象や総選挙の国民民主党の躍進、アメリカ大統領選などと比較し、アルゴリズムやバイアスなどの観点から解説します。 SNS動画を投票の参考に 新聞テレビを上回る SNSでの支持の広がりが斎藤氏の再選を後押ししたと言われる今回の選挙。データがそれを裏打ちしています。NHKが投票所で実施した出口調査を見てみます。 何を投票の参考にしたかという質問への答えで1位が「SNSや動画サイト」で30%、新聞24%、テレビ24%、知人・家族5%を上回りました。また、「SNSや動画サイト」と

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
斎藤氏再選の裏にSNS・動画 投票の参考情報で新聞テレビ上回る 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】

斎藤氏再選の裏にSNS・動画 投票の参考情報で新聞テレビ上回る 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】

兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われる中、何が起きていたのか。都知事選の石丸現象や総選挙の国民民主党の躍進、アメリカ大統領選などと比較し、アルゴリズムやバイアスなどの観点から解説します。 「斎藤氏の支持者がデマを熱狂的に信じた」という言説の落とし穴 兵庫県知事選・後編【解説】兵庫県知事選をめぐる偽・誤情報の拡散に関する解説の後半です。背景にはマスメディアの影響力低下とソーシャルメディアにおける選挙情報の拡大という世界で共通する大きな潮流があります。その中で、信頼性の高い情報に基づいた民主主義を成立させるためには、どうすればよいか。 SNS・動画が選挙情報の中心に 偽・誤情報だけでは語れない兵庫県知事選・前編【解説】兵庫県知事選でパワハラ問題などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選しました。「SNSの勝利」「マスメディアの敗北」などとも言われる中、何が起きていたのか。都知事選の石丸現象や総選挙の国民民主党の躍進、アメリカ大統領選などと比較し、アルゴリズムやバイアスなどの観点から解説します

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
兵庫県知事選で溢れた偽・誤情報/鳥取県が偽情報監視チーム【今週のファクトチェック】

兵庫県知事選で溢れた偽・誤情報/鳥取県が偽情報監視チーム【今週のファクトチェック】

11月17日投開票の兵庫県知事選挙をめぐって立候補者についての偽・誤情報や根拠のない言説が急増しました。東京都知事選、総選挙とネットで選挙情報を見ることが一般的になった上に、パワハラなどを理由とした失職出直し選という特殊環境が拍車をかけています。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのニュース JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月30日で、お申し込みはこちら。 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)