宮本聖二

立教大学大学院 客員教授 早稲田大学卒業後NHK入局 鹿児島、沖縄放送局などを経て報道局おはよう日本・編成局チーフプロデューサー、NHK戦争証言プロジェクト、東日本大震災証言プロジェクト編責。2015年ヤフー入社、メディアトラスト&セーフティー室プロデューサー。2018年立教大学大学院特任教授、メディアやデジタルアーカイブ研究にあたる。デジタルアーカイブ学会理事

東京
宮本聖二
JFCリテラシー講座3:情報の発信者にも受信者にもバイアスはある

JFC リテラシー講座

JFCリテラシー講座3:情報の発信者にも受信者にもバイアスはある

日本ファクトチェックセンター(JFC)では、リテラシー講座に先立ち、情報の真偽を検証するファクトチェック講座を公開しました。即効性がありますが、情報氾濫時代をより広い観点から見るには、リテラシーに関係する幅広い知識が不可欠です。 3回目に紹介するのはバイアス(偏り)について。誤情報/偽情報を問題視する前に、そもそも私達自身が情報を間違って理解しがちだという点について解説します。 私達は認知バイアスで間違い続ける この図を見たことがある人は多いでしょう。同じ長さの線分なのに、向きの異なる矢印がつくと、下の線分の方が短く感じてしまいます。「ミュラー・リヤーの錯視」と呼ばれる現象です。 私たちの認知は正確ではありません。線分の長さですら間違えます。私たちのものの見方や判断は、偏りから自由ではありません。こうした偏りを「認知バイアス」と呼びます。 60の認知バイアスを紹介した「認知バイアス事典」(情報文化研究所)では、認知バイアスについて「偏見や先入観、固執断定や歪んだデータ、一方的な思い込みや誤解などを幅広く指す言葉」と説明しています。 都合の良い情報に着目

By 宮本聖二, 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCリテラシー講座2:クリティカルシンキングで自分自身も吟味する

JFC リテラシー講座

JFCリテラシー講座2:クリティカルシンキングで自分自身も吟味する

講座1で見たように、情報氾濫によって不可避的にフィルターバブルやエコーチェンバー、極性化や偽情報/誤情報などの課題が大きくなっていきました。日本ファクトチェックセンター(JFC)ではその対策として、日々の検証と同時に「リテラシー」の普及に取り組んでいます。 リテラシー(literacy)とは、英語で「読み書きする能力」という意味で、インターネット上だけでなく、日常で接するあらゆる情報や言説を適切に理解、解釈、分析して、活用する能力のことです。 まずは、様々なリテラシーを紹介します。 ニュース/情報/デジタル/メディアリテラシー 「リテラシー」は様々な言葉を組み合わせて、それを理解し、活用する能力という意味に使われます。例えば、ニュースリテラシー、情報リテラシー、デジタルリテラシー、メディアリテラシーなどです。 大雑把に言えば、ニュースリテラシーはニュースを、情報リテラシーは情報を、デジタルリテラシーはデジタルを、メディアリテラシーはメディアを、理解・活用する能力という意味になります。 それぞれの「リテラシー」の領域は重なっています。これは「ニュース」な

By 宮本聖二, 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCリテラシー講座1:情報氾濫の時代に検証より重要な能力

JFC リテラシー講座

JFCリテラシー講座1:情報氾濫の時代に検証より重要な能力

玉石混交の情報が大量に氾濫する時代には、情報の真偽を検証する「ファクトチェック」の能力だけではなく、より広く現代のメディア環境を理解し、活用する「リテラシー」が欠かせません。 リテラシーは「読み書き能力」を意味する言葉ですが、現在は、様々な言葉と結びついて「その分野について理解し、活用する能力」という使われ方をしています。「メディアリテラシー」「情報リテラシー」「ニュースリテラシー」「デジタルリテラシー」などです。 日本ファクトチェックセンター(JFC)はファクトチェックの実践や普及だけでなく、リテラシー教育にも取り組もうとしています。今回の連載講座では、そもそも現代におけるリテラシーとは何かという基礎から解説します。 キーワードは太字にし、最後に一覧にまとめています。そちらもご参照ください。  激増する情報とプラットフォーム 不確かな情報やデマや誹謗中傷などは、昔から存在しました。それが瞬時に大量に拡散し、民主主義社会への脅威とまで認識されるようになったのは、近年のことです。 背景にあるのがテクノロジーの発達による社会の変化です。インターネット、スマ

By 宮本聖二, 古田大輔(Daisuke Furuta)
G7広島サミットでのゼレンスキー大統領の会見をNHKが打ち切って大河ドラマを放送した?【ファクトチェック】

メディア

G7広島サミットでのゼレンスキー大統領の会見をNHKが打ち切って大河ドラマを放送した?【ファクトチェック】

G7広島サミットが閉幕した2023年5月21日夜、NHKがゼレンスキー大統領の会見の放送を打ち切って、大河ドラマを放送したという言説が拡散しましたが、不正確です。NHKはゼレンスキー大統領の演説をほぼ最後まで放送しており、大河ドラマのために打ち切った事実はありません。 検証対象 G7広島サミット最終日の5月21日、ゼレンスキー大統領は広島市の国際会議場で記者会見し、その様子をNHKも放送した。 放送後に「NHKがゼレンスキー会見を打ち切った」という内容のツイートが複数投稿された(例1,例2)。さらに「大河を放映するために打ち切ったのではないか」というツイートも投稿され、複数のまとめサイトが「【悲報】NHKさん、ゼレンスキー大統領会見をぶった切って大河ドラマ・・・」などという内容を拡散した(例1,例2)。 リプライには、「おいおい、何のためのNHKだよ」「これ公共放送と言える?! 高い受信料とって」「こんなぶざまな中継で受信料よこせと?」などの投稿があった。 検証過程 ゼレンスキー会見を放送した21日午後7時からのNHK総合テレビ「ニュース7」は、イン

By 宮本聖二
アルフィヤ候補に1分で6000票も、不正疑惑?有効票の確認によるもので開票速報では一般的【ファクトチェック】

政治

アルフィヤ候補に1分で6000票も、不正疑惑?有効票の確認によるもので開票速報では一般的【ファクトチェック】

衆議院補選千葉5区で初当選した英利アルフィヤ候補の得票数について、NHKの報道を元に開票中に1人の候補者だけ「1分で6000票が増える」不審な動きがあったかのような投稿が拡散していますが、誤りです。千葉県選挙管理委員会の発表に異常な動きはありません。開票所の一部でアルフィヤ候補への投票の表記が有効か無効か確認する作業があり、その後に確認された得票分が一気に加算された、とNHKは報じています。 検証対象 2023年4月23日に投開票があった衆院補選千葉5区で、初当選した自民党の英利アルフィヤ候補の開票で不正があったと疑う情報が拡散した。 投稿は、NHK開票速報の画像と共に「1分で6000票 たまたまやんね?w」などのコメントがつけられている。矢崎堅太郎候補(立憲民主)が4万4000票で変わらないなか、1分の差で英利アルフィヤ候補の票数だけが急激に増えたように見えると指摘している(例1、例2)。表示回数が40万件、引用を含めたリツイート数が3000件を超えるものなど複数の投稿がある。 投稿のハッシュタグには、2020年アメリカ大統領選で「票が急激に増えた」と指

By 宮本聖二
岸田首相の襲撃を捉えたカメラは事前に事件を知っていた?【ファクトチェック】

メディア

岸田首相の襲撃を捉えたカメラは事前に事件を知っていた?【ファクトチェック】

岸田文雄首相の襲撃事件を撮影したTVカメラは、投げ込まれた爆発物や確保される容疑者の姿をはっきりと捉えていました。それを理由に「(事前に知っていた)茶番だ」という言説が広がっていますが、誤りです。プロの撮影者は事件の瞬間を逃さないための経験を積んでおり、一般的な撮影手法です。 検証対象 2023年4月15日に発生した岸田首相襲撃事件で、現場にいたTVカメラが事件を事前に知っていたかのような映像を撮影したことから、「茶番だった」という言説が拡散した(例1、例2)。ツイートでは「茶番くさw」「このカメラワークは段取りを知っている者が見せるものです。(中略)普通なら『なんだ?なんだ?』と躊躇逡巡するはずですが皆無です これはありえない」などの投稿があった。 引用リツイート欄には反論もあったが「すぐにカメラむけるとこ、なんかおかしくね?」「脚本ありきの茶番だと偽物のキッシーが教えてくれているのに」「ここのエキストラたちなんぼもらってるんやろ!」などの反応があった。Twitterでは周囲の人がこの事件を「演じた」と主張するハッシュタグ「#クライシスアクター」が拡散し

By 宮本聖二, 日本ファクトチェックセンター(JFC)
選択夫婦別姓制度が適用されると、名字の異なる人が増えて郵便配達に支障が出る?【ファクトチェック】

ジェンダー

選択夫婦別姓制度が適用されると、名字の異なる人が増えて郵便配達に支障が出る?【ファクトチェック】

選択的夫婦別姓になると、名字の異なる人が同じ地番に住むことになり、郵便屋さんに支障が出るという言説がありますが、誤りです。同じ住所に異なる姓の人が住む例は現在までも数多くあり、郵便局は郵便物に記された宛名にこれまでも届けていると説明しています。 検証対象 「選択的夫婦別姓制度が適用されると、家長がはっきりせず、バラバラの名字で同じ家に住む人が増えて郵便屋さんが困ると言っている」などという内容のツイートが拡散した。4月17日現在、610万件以上の表示があり、リツイート・引用リツイートは2500を超える。 この書き込みに対して「配達員はマジで困る!」というリプライもあったが、「我が家はそれぞれ世帯主で苗字が違いますが郵便屋さんが混乱したことはありません」「私の旧姓と家族の苗字を併記した郵便受けで10年以上ですが、郵便も宅配も混乱なく届けていただいてます」など否定する書き込みも多数あった。 「困る」かどうかは個々の配達員によって感じ方が異なる可能性がある。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、実際に郵便配達に支障が出るのか検証した。 検証過程 そもそも

By 宮本聖二
大阪府知事選の当確が早すぎる、不正選挙?ゼロ票打ちによるもの【ファクトチェック】

政治

大阪府知事選の当確が早すぎる、不正選挙?ゼロ票打ちによるもの【ファクトチェック】

4月9日投開票の大阪府知事選挙で「当確が早すぎる」「不正選挙の疑い」などの言説が拡散していますが、誤りです。「開票率・得票率0%の段階で『当選』と発表」という主張がなされていますが、これはメディアが事前の出口調査などで投票締め切りと同時に当選確実を報道する「ゼロ票当打ち」によるものです。 検証対象 2023年4月9日に投開票された大阪府知事選をめぐって、不正選挙だというツイートが拡散した(例1、例2)。 表示回数は「例1」が85万回・リツイートは2700件を超えている(4月10日現在)。 開票率0%の段階での当選確実の報道をめぐっては、これまでにも「不正選挙」「出来レース」などの情報が選挙のたびに出てくる。日本ファクトチェックセンター(JFC)では、2月の愛知県知事選挙でも同様の検証を実施した。 今回は、当選報道の仕組みについて、より詳しく解説する。 検証過程 大阪府知事選は2023年4月9日午後8時、投票締切と同時刻にNHKや毎日放送などが一斉に大阪維新の会の吉村洋文候補の当選を報じた。この段階では、開票作業は進んでいないが、これは不正選挙の根拠

By 宮本聖二
地震は人工的な兵器?専門家が人工地震説を解説【ファクトチェック】

災害

地震は人工的な兵器?専門家が人工地震説を解説【ファクトチェック】

大きな地震が発生したり、震災からの節目の日を迎えたりするたびに「地震は人工的な兵器」というような人工地震説が拡散します。専門家は震災級の地震を人工的に起こすのは「非現実的」と否定しています。 検証対象 東日本大震災の発生した3月11日の節目に、1995年のニュース23の映像とともに「地震は地震兵器によるものだ」という情報(例1,例2)が拡散した。 映像ではオウム真理教元幹部で、1995年に刺殺された村井秀夫氏が「高度な製造能力を持った団体が毒ガスを散布した」「阪神大震災は大国による地震兵器で起きた」などと主張している。この映像は「ディープステート(闇の政府)が世界を操っている」などという陰謀論と関連付けて、何度も拡散している。中には70万件以上表示されたものもある。 リツイートやリプライでは「すごい。分かってたんだ・・・。」「これは、本当に有る事です」「コレで殺された?」などと同調する一方で、「人工地震は不可能」などと否定するコメントもある。 「ディープステートの存在をメディアで暴露してこの幹部が殺された」などと陰謀論を支持するコメントもある。 この

By 宮本聖二